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講師の心.com > 講師マガジン 「人」 > スペシャルインタビュー 長門裕之

Keywords
  1) 父の尊厳を取り戻してくれた妻への恩返し
  2) 介護は自分の「心」が反映されるもの
  3) 「自分のため」だと思えば介護は疲れない


介護は自分の「心」が反映されるもの

――
――長門さんが日々、奥様に接するときに気をつけていることはどんな点ですか?

 「洋子に不安を与えないようにしています。介護を受ける側にとって、介護する側の不安はすごいストレスなんですね。僕は役者という仕事を持ってますので、当然、仕事には時間の制約、規律があります。それに対して、洋子はいつでも寝られるし、いつでも起きられる。昼も夜も関係ない生活をしています。だから、辛い面もあるんだけど、そんなこと言ってられません。彼女の条件に合わせていくしかない。

 たとえば、夜、寝付けなくてベッドから起きて僕の部屋まで来る。仕事の書き物をしていても『あなた』と入ってくる。僕が『洋子、ちょっと待ってね。あとで』と仕事を続けてると、少し間があって『でも、洋子。どこにも行くところがないの』と言われて、あーそうだった、と思うんです。ホントに胸が痛かった。ああいう病気になると、外に出るのも嫌なんです。だから、洋子を椅子に座らせて、テレビをつけてやって、好きな塩せんべいを置くと、それを食べながら僕のそばにいます。あとは、昔は『紙おむつ』という言い方を嫌がりましたね。だから『パンツ』と呼んでました。そういったなにげない言葉ひとつが、相手の心に影響するということも学びましたね」

――――奥様との毎日を過ごすうちに、「介護」に対する捉え方に変化がありましたか?

 「さきほども申しましたが、介護人を強者、患者さんを弱者と見る目はなくなりましたね。まず目線を患者さんに合わせること。価値観を共有すること。そして、患者さんの尊厳を傷つけないことが大事なんだということを身をもって学びました。
 話が変わるかもしれませんが、おかげさまで僕は芸歴70年。どこの現場に入っても長老の立場です。とはいえ、労わられて世話を焼かれるのが、ちょっと癪(しゃく)なんですね。すぐに監督が『椅子をどうぞ』と出してくれるし、立つときは助監督が手を握って立たせてくれます。でも、ある種、パターン化している気がしますね。正直、言って過保護ですよ。敬老精神はいいとしても、それほど気を遣うことはないんです。毎朝、僕は洋子の手を引いて食卓まで連れて行きます。自然な形で手を差し伸べているつもりです。そのとき2人の世界しか見えていません。彼女の手を引く僕も嬉しいんです。『介護してやってる』というような気持ちは毛頭ありません。ですから、この時にはこのパターンで、というように介護をマニュアル化してしまうと、どうしても相手を弱者と見てしまう。介護は、自分の心の状態が如実に反映されるものだと思っています」
―――介護の中で、どんなときに「やりがい」を感じるていらっしゃいますか?
 「朝、彼女の部屋に入ると見せてくれる『おはよう』が素敵な笑顔なんですよ。やりがいを感じますよ。それだけです。いま、洋子は脳卒中で入院してるんですが、看護師さんに『洋子さん、おしめ変えますよ。あっち向いてください』といわれると、洋子は必ず僕に抱きついてくるんです。そうすると僕は手を回して、ホッペタをつけるんです。もうホントに安定して、そのまま寝ちゃいそうな感じで、看護師さんに『洋子さん、いい気持ちでしょう』といわれると『ウン』なんてうなずくんです。久しぶりに、ラブシーンやってるみたいですよ(笑)。ささやかな男と女のきらめきが残ってるんですね。非常に僕もいい気持ちなんです。  

 今は洋子と一緒に過ごすことが、僕の人生の糧なんです。後遺症のせいで、彼女は右手が不自由でしてね。でも、好物のチョコを持っていったら、自分が欲しいとなると、動かないはずの右手を伸ばして、お菓子を掴むんですね。そして、口を開けるためにアーッと大きな声を出す。今の洋子にとって動かない右手を伸ばして握った食べ物を口に運ぶなんて画期的なんですよ。久々にやったことじゃないですかね。パクッと食べたら、『どうだ』と得意げな顔をする。その可愛さったらないですね。欲しい物を動かない右手で取ったぞって僕に自慢するんです。たまらない愛おしさですよ。僕は喜びと感動で『洋子、すごいね』ってなんべんもチューしてあげました」
―――素敵な関係ですね。まさにはつらつと奥様の世話を焼いてらっしゃる姿が目に浮かぶようです
 「でもね、最近、チューすると嫌われるんですよ(笑)。『チューだめっ』て言って。拒否されちゃいました。無理にすると『ダメ、バカ』という。あんまりバカを連発するから『今度バカって言ったらチューするぞ』と、“ワンバカチュー”を決めました。それでバカって言われたら、こっちはしめしめとばかりにチューしにいって、洋子はそれを『ヤダーッ』と言いながら逃げる。洋子にとっても楽しいんでしょうね」

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