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武田 美保のコラム「武田VISION」
武田 美保
武田 美保(たけだ みほ)
アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト

アテネ五輪で、立花美哉さんと、シンクロナイズドスイミング競技で銀メダルを獲得。
2001年の世界選手権では金メダルを獲得するなど、日本人メダリストの中では飛びぬけた数の5つのメダルを持つ。

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Vol. 63 『サッカーW杯に見る<本気と一体感>』
(2010年07月01日)

 スポーツ好きが高じて、こちらの連載でも過去、オリンピックの時にはオリンピックの話題を、WBC(ワールドベースボールクラッシック)の時にはWBCの話題を取り上げさせて頂いてきましたが、今回も例に倣って、まさにホットな話題『サッカーワールドカップ南アフリカ大会』を取り上げさせて頂きたいと思います。「またまた安易な・・・(苦笑)」と思われるかもしれませんが、これには理由があるんです。これは前にも言ったかもしれませんが、私はスポーツには大いなる力があると感じています。選手やチーム、スタッフが全力を尽くし向かっていく姿や挑戦していく姿を観ると、そこに人は心を動かされ、「私ももっと頑張ろう!」「勇気をもらった!僕も逃げないで向き合っていこう!」と活力をもらえること、また、苦難を乗り越えた選手のエピソードの中に、家庭や会社の中で自分が抱える問題を解決するヒントが隠されていたり、とにかくスポーツはこのように多くの感情や考え方を提示してくれるものだと思う訳であります。なので、今回も時事ネタという感じではありますが、題材にさせて頂くことにしました。

 さて、サッカーに関しては申し訳ないことに"にわかサッカーファン"と言わざるを得ない私ですが、W杯が開催されて以来、連日寝不足になりながら熱狂し応援しています。特に、今回の岡田ジャパンの選手は、プレーから『本気の心』『魂』が伝わってきます。華麗なドリブルやシュートにももちろん感動しますが、私達はそういう心の部分に余計に惹きつけられているのだと思います。日本国中に熱狂され愛され、世界を驚かせるような勢いのあるチームにいつ変貌を遂げたのか。それをひも解いてみると、上記にも挙げていますが、私達の人生にも置き換えられる"ヒント"なるものが見えてくるかもしれません。

 大会前の強化試合でまさかの4連敗を喫し、監督の進退問題も浮上するほど窮地に立たされていた日本チーム。ところが一転、初戦のカメルーン戦ではチームが一つにまとまり、それぞれのポジションがそれぞれに力を発揮し、これを機に快進撃が始まりました。この『チームのまとまり』というもの。言葉でいうのは簡単ですが、具体的にどういう現象を指すのでしょうか?

 私は心理分析ができる訳ではないので専門的な見解でお話できませんが、自分の過去の経験の中で、一体感を感じたときや、気持ちが一つになったと感じたときの身体と精神はどんな状態であったのか、感覚的な記憶は残っています。人生で二度、ピタッと一体感を得る感覚になったことがあるのですが、その一つは、シドニーオリンピックのチームテクニカルルーティン。もう一つは、世界水泳福岡大会のデュエット決勝です。どちらも、その大会を迎える前には精神的などん底を味わっていました。練習でもやったことがないような大きなミスを犯し、試合に出ることが怖くなっていたこともありました。「あの子達でいいの?」と起用を疑問視されることもありました。ストレスからきてしまったのか三半規管がうまく機能せず、演技中にどこが真っ直ぐなのかわからず、めまい症を起こしたこともありました。成果が上がらない練習に対し、イライラし、焦りを感じていました。精神的に疲れていると、身体の動きも悪くなり、さらに悪循環。これらのことは全て私個人の問題で、自分が解決しないといけないと思っていました。しかしどうやらその考えは間違っていたのです。

 成果が上がらないモヤモヤはパートナーやチームメイトも同じで、それぞれが負のスパイラルから「脱出したい。このままでは潰れる。二度と同じ失敗を繰り返してはいけない。超えなくちゃ。」と心底感じていました。それに気付いたのは、オリンピック前に壮行会と最終調整を兼ねて行われた、本番さながらに観客席に人に入ってもらって演技を披露する、エキシビションの終了後。オリンピック現地入りする間際にも関わらずリフトで失敗をしてしまい、チーム内には悲壮感が漂っていました。ここで初めて、先輩、後輩関係なく、険悪なムードになってもいいから駄目だと思うことをそれぞれぶつけました。指摘するときも当然名指しで徹底的に失敗の原因の解明に努めました。ギリギリになってやっと出たメンバーからの本音。それまでは気を遣いながら、言葉を選んで、生ぬるいミーティングをしていました。やっとわかりました。目的や目標が強い気持ちでみんなが同じなら、どんな言葉で言い合いをしようがわかり合えると。

 そして、本番のときには「私達はできる。心配しなくてもあの子も必ずやってくれる。だから私も自分の泳ぎを完璧にこなす!」と思えました。仲間が信頼できました。自信が湧いてきました。そうすると色んな感覚が研ぎ澄まされてきて、音楽や水音がクリアに聞こえ、肌が感じる水の重たさや、水が肌を滑っていくスピードまで手に取るようにわかり、視界も広がって遠くの観客の顔の表情までが確認できました。メンバーと水を掻く強さ、リズムを刻むペースが一緒という細かなことまでわかりました。水面に余計な波や飛沫が立ちません。息は切れてきているのに、まだ体の奥底で頑張れるパワーが出てきているのがわかるんです。本当に面白い体験でした。

 サッカーの日本チームも、きっと今、こんな感覚になっていらっしゃるんじゃないかと思うのです。川口選手が中心となって控えの選手からチームの雰囲気を盛り上げていったり、本田選手が全員の選手の部屋に行って「ぶっちゃけ話しませんか?」と訪ねて行ったり、試合前には全員とハグしたり。本音のコミュニケーションが取れ、「我々は勝つ」と強い意志の統一が成立し、メンバーがお互いを信頼し、それぞれのポジションが全力で機能している。そんな感じなんだろうと思います。

 もう一つ共通するところで言えば、岡田監督の『どんなことがあろうと耐え、諦めない姿勢』や『信念を貫く姿勢』、『バッシングを選手ではなく自分のところで受け止め、選手に負担がいかないようにする』ことや、『直前に本田選手を1トップに起用する思い切った決断』をなさったことは、シンクロの井村監督の手法と似ているなぁと感じました。

 選手はしっかり見ています。監督の行動や表情を。ぶれていない、諦めていない、私達が勝つと信じて下さっている姿に、とても安心感を覚えます。岡田監督は本当に頼もしい人です。

 書いているとまだまだこの話題は尽きそうにないのですが、何に対しても中途半端にしか取り組んでいないと、自分の奥底にある気持ちや、周りの気持ちにも気付くことができないような気がします。本気であれば、必ず困難を突破できる何かを見つけられるということで、まとめさせて頂きます。




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