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板垣 英憲のコラム「歴史に学ぶ勝つ企業の条件」
板垣 英憲
板垣 英憲(いたがき えいけん)
政治経済評論家

元・新聞記者、政治経済評論家としての長いキャリアをベースに、政財官界の裏まで知り尽くした視点から鋭く分析。特に、歴史に関する知識が豊富で、秀吉、家康、武蔵、新撰組など歴史上の人物たちを取り上げて、その政治手腕や組織論、人身掌握術を、現代のビジネスシーンに落とし込む講演は毎回好評を博している。

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Vol. 8 『江戸時代の庶民の生活に学ぶエコ生活』
(2009年11月20日)

【江戸の「清潔さ」に驚嘆したシュリーマン】

「日本国民が世界で一番清潔な国民であることは異論の余地はない。どんなに貧しい人でも、少なくとも日に一度は、町のいたるところにある公衆浴場に通っている」

ギリシャ神話に出てくる伝説の都市トロイアが実在することを発掘によって証明したドイツの考古学者・ハインリッヒ・シュリーマンが慶応元(1865)年、世界旅行の途中に江戸を訪れ、「清潔さ」に驚嘆させられたという。

シュリーマンの言葉は、二つのことを意味していた。一つは、町の通りにはゴミが落ちていないばかりか、循環型の「エコ生活」をしていたということ。もう一つは、日本人が風呂好きであるということである。


【モノを大切し、リサイクルが根付いた生活】

徳川家康が慶長8(1603)年2月、征夷大将軍に任じられ、太田道灌が武蔵野の一村に築いていた江戸城に幕府を開き、林野の広がる田園地帯に新しく町割りを行い、「木と紙」を基本とする建物を築いて以来、江戸は人口100万人の大都市に成長、発展した。

このなかに住む人々は、武家から商家、町人にいたるまで、「コメと野菜中心」の「農本主義」を基本とする、ほぼ低成長の社会に暮らしていた。そのため、「モノを大切にする質素な生活」を維持せざるを得なかったので、紙一枚でも粗末には扱えなかった。

職人たちが丹精込めて梳いた紙は、襖や障子、提灯、唐傘、書簡や錦絵、あるいは商家の大福帳、油紙などに使用され、それらの一部が道端に紙くずとして使い捨てられると、たちまちのうちに「紙くず屋」に拾われて、紙梳き屋に売られて再生される。生まれ変わった紙は、厠(トイレ)用などに使われる。木の葉や折れ枝などは、カマドで燃料に用いられる。

シュロ(ヤシ科の植物)から作られるほうきは、古くなると「ほうき売り」が下取りをし、古いシュロは植木用の縄から、タワシにしてまた再販。使い古されてとうとう使えなくなるとカマドの火起こしとなり灰になる。そして灰は畑の肥料となり、新しく生えたシュロは新品のほうきになる。着物も同様である。新品→浴衣→寝巻き→子どもの着物→オムツ→雑巾→燃料→灰→肥料へとリサイクルされ、町を汚すことはなかった。だから、町はいつもきれいだったのである。このほか、鍋や釜、傘や下駄などを修理する職人が数多くいて、江戸の隅々で商売繁盛していた。


【肥の汲み取り屋も、いい商売に】

森林や農地に囲まれていた江戸では、肥の汲み取り屋も、いい商売になっていた。
紙が混ざった排泄物は、肥料として汲み取り屋に高値で買われた。江戸市中の人々の食卓を潤すのに必要なコメや野菜を生産する農地が広がるにつれて、肥料の需要に排泄物の量が追いつかず、値が吊り上がったのである。

各家庭のカマドに残る灰も、酸性の土地を中和するアルカリ肥料として売られた。魚も食卓を飾り、醤油の普及により、食生活が豊かになり、それらが、栄養分の高まった肥料によって、農産物の実りもよくなり、再び人々の食卓を賑やかにした。


【柳沢吉保が作らせた循環型農地「三富新田」】

「循環型」の農地といえば、五代将軍・徳川綱吉の側用人から老中になった柳沢吉保を忘れることはできない。吉保は元禄七(1694)年に川越藩主となったのを機に、農作物増産などによって藩政を充実させる目的で、家臣の曽根権太夫に命じ、富士山の火山灰からできた関東ローム層が広がる藩内の武蔵野台地に「三富新田」をつくらせた。

幅6間(約10.9m)の道の両側に農家をつくり、その1軒の農家ごとに畑、雑木林の面積が均等になるように「屋敷(林)―畑―平地林」の順に配置、短冊型に並ぶ地割を行った。平地林は、有機質肥料となる落ち葉を生産し、冬場の強い風を防ぎ、そして薪や炭にもなる農業や生活に不可欠な役割を果たした。すなわち、雑木林の枯れ葉は、雨や雪で湿りやがて堆肥となる。枯れ木からは、燃料に使われて灰が残る。これらを畑に蒔き、野菜を栽培する。


【八代将軍・吉宗はサツマイモ栽培を】

その後、八代将軍・徳川吉宗は、幕府財政の窮乏を再建しようと享保の改革に取り組み、殖産興業と新田開発に取り組んだ。その一環として、和歌山から連れてきた井沢弥惣兵衛を天領地である武蔵野国の一角に送り込み、灌漑農業用水を確保するため「見沼代用水」を引かせ、農地を増やして増産に成功している。

吉宗は、蘭学者・青木昆陽が飢饉に強い救荒食物としてサツマイモ(甘藷)栽培を勧めたのを受けて、三富新田など川越一帯にサツマイモを栽培させた。この地からは、「川越いも」として有名なサツマイモをはじめホウレンソウ、サトイモ、カブ、ニンジン、ダイコン、ゴボウ、チンゲンサイ、ミズナ、ウドなどの生産が、いまでも盛んに行われており、全国有数の露地野菜産地となっている。


【先人の智恵を現代に】

循環型の「エコ生活」の知恵は、IT社会の今日、エネルギー資源を大切に使う必要性を現代人に教えている。そのなかで、たとえば、携帯電話などの先端技術に不可欠なレアメタルが、使い捨ての器機に大量に含まれていることから「都市鉱山」と呼ばれるようになっており、メーカーなどが回収に力を入れ始めている。

少資源国に住む日本人は、「モノを大切にするエコ生活」を、決して古い考え方ではなく、根本的に見直し、復権することを迫られている。




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