小杉 俊哉のコラム「企業を変える人材マネジメント」
小杉 俊哉(こすぎ としや)
株式会社コーポレイト・ユニバーシティ・
プラットフォーム代表/ 慶應義塾大学大学院准教授
現在、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授、株式会社コーポレイト・ユニバーシティ・プラットフォーム代表取締役社長、その他数社のベンチャー企業社外取締役を務める。
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Vol. 12 『あるがままの自分と使命』
(2009年03月05日)
前回「仮面を取る」ということについて書きました。これが、実は私が皆さんに最もお伝えしたい重要なことなので、もう少し付け加えさせていただきます。なぜなら、かく言う私が長らく仮面を被っており、そのことで苦しんできたからです。
経営コンサルティング会社で「良いスーツ、靴、鞄を身につけ、すべてにおいて完璧であれ」と求められました。二社の人事部長でそれぞれ足を引っ張られ、突き上げられ、政治に巻き込まれ、仮面どころか鎧兜で全身を固めて仕事をしていました。11年前に独立してからも、長年の習慣で、講演や研修で人前に出るとつい、低く評価されるのではないか、と過剰な自意識を持って「仮面を被って」臨んでいたのです。しかし、そのような講師の言うことを受講者は受け入れるでしょうか?答えは当然「NO」です。そう感じるから、なんとか説得しようとより強い口調で迫り、結果、より引かれてしまうという悪循環でした。
42歳の時、たまたまコーチングの研修を受講したり、父親が亡くなったり、といういくつかのことが重なり、いままでの自分の殻を全部脱ぎ捨てようと決心しました。後半の人生は、自分はこうでなければならないという「とらわれ」をやめ、いつも「あるがままの自分」(Being)でいよう!と決めたのです。それは、気の置けない仲間といっしょにいるときの自分です。自分のよさが一番出ている筈だからです。
まずは自分を認めてやりました。「おまえは、よくやっているよ、がんばってるよ!」と。自分のことを自分で認められないような人間を人が認めてくれる筈がないと考えたからです。「自分は自分以上でも以下もない、そのままで出て認めてもらえなければ仕方ない。これからの人生は認めてくれる人とだけやればそれでよし」と半ば開き直りました。
それからは、講演でも研修でも、たとえ数千人の聴衆がいても、友達を前にしているような、あるがままの自分で出ています。変に緊張したり、無理したりしないので、快適です。そして、結果的に受講者の評価も一気に上がったのです。
私がそうであったように、企業で上司や部下、客先に対して、完全に素顔でいることは難しいと思います。しかし今、能面を被っている人は、せめてフェイスマスク、あるいは花粉用マスクくらいにしてみたらどうでしょうか?皆さんの「素」つまり人間性が、少しでも、見えると、相手も安心するのです。
多くの企業からマネジメントの相談を受けますが、そのほとんどがコミュニケーションの問題です。仮面を被ったままで心の通ったコミュニケーションができるはずがありません。ビジネスといえども人間同士の営みであり、心が通わなければ成り立たないのです。最近、社内旅行を復活させる企業も出てきていますが、今の若者は社内の旅行、スポーツ会、飲み会をむしろ望んでいます。そういう場で見られる、上司や先輩の「素顔」を期待しているのです。
「仮面を取る」ということは難題だということは十分、分かっています。しかし、ある企業のリーダーシップ研修に時間を掛けて取り組んだ結果、参加者全員が別人のように活き活きと輝き、周囲からの評価も驚くほど上がり、結果的に全員が社内の重要な地位に昇進した、ということからもその効果は絶大です。
最後に。人生の大半の時間を使う組織において、世の中のためになるとか、社会に貢献するとかという人間の根源的な存在目的が話し合われることがほとんどないのは奇妙なことです。売上・利益などの目標を達成することしか頭にない経営者や管理職の下で、社員が心から付いていこうと思うはずがありません。トップや上司が自らの使命を持ち、ビジョンを掲げ、あるがままの自分でそれに向かっていくときに、その存在が周囲に影響を与え、初めてリーダーとなります。その下でこそ次のリーダーが育ちます。そのような本質を理解した本物のリーダーが一つでも多くの組織で生まれることを願って止みません。