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渡辺孝

『 日本経済どうなってるの?』


今月は、文教大学国際学部教授の渡辺孝さんです。
日本銀行で25年、金融政策企画、銀行指導、経済金融分析から銀行破綻処理まで幅広く経験。
今回は、日本経済についての素朴な疑問にお答えいただきました。


渡辺 孝(わたなべたかし)
文教大学国際学部教授


1974年 東京大学教養学部教養学科卒業
1974年 日本銀行入行
1997年 日本銀行考査役
1998年 山口大学経済学部教授
2001年 文教大学国際学部教授、現在に至る

 日銀では、金融政策企画、銀行指導、経済金融分析から銀行破綻処理まで幅広く経験。さらに研究者・大学教官としての分析や経験を加え、不良債権問題等 の経済金融問題を平易に解説。著書『不良債権はなぜ消えない』(2001年4月、 日経BP社)は、「難しい問題の本質を的確かつ分かり易く分析・解説している 」と好評(日経新聞、朝日等の書評)。

渡辺孝


――世間では、よく「景気がよい」とか「不景気だ」とか言いますが、そもそも「景気」とは、どのような要因で変化するものなのでしょうか。

 「景気」というのは、人間のバイオリズムと似ています。われわれは、調子の良い時にはついつい無理をしてしまうものですが、それはいつまでも続かない。企業も同じで、商品が売れる時には経営者は「もっと売ればもっと儲かる」と期待して、生産を増やして供給をどんどん増やします。しかし消費者の購買力には限界があるため、どうしても供給が需要を上回り、過剰在庫が発生してしまう。人間でいえば、ちょうど無理し過ぎて熱が出てしまう状態です。人間の場合、これを治すため休養を取りますが、企業でも同じように生産や仕入れを減らします。そうすると経済全体の生産販売活動が停滞し不景気になります。そうした状態が暫く続くと、人間の場合、体力が回復して次の仕事に取り掛かる訳ですが、経済でも需要が回復してきて、再び生産や販売活動が拡大を始め、景気が良くなってくるのです。

 こうした要因以外に景気の変動にはもっと大きな要因があります。中長期的に見ると一国の経済発展には、人間の一生と同じように幼年期、青年期、壮年期、老年期というような構造変化がみられます。日本も敗戦で経済はどん底まで落ち込みましたが、その後急速に立直り、80年代初までは高度成長が続きました。しかし、人間の成長と同じでいずれそれが鈍化してくる。

 高度成長期までは日本が真似をすべき「教科書」が米国等にありました。わが国は海外から導入した技術やノウハウに何がしかの改良を加え、安い賃金でそれを製品化することで輸出主導型の経済成長を謳歌できたのです。しかし、既に世界有数の経済大国にのし上がった今、今度は韓国や中国、台湾等から追われる立場になっています。日本の労働者の平均賃金は、中国の約20倍、インドネシアの約50倍です。これではコスト面では全く太刀打ちできません。技術面では今度はわが国自身が独創的な技術や商品・サービスを開発する必要がありますが、ノーベル賞の受賞者数にも見られるように、この面では欧米主要国に大きく水をあけられています。

 本来は高度成長期に数十年後を見据えた産業構造の転換を図るべきでしたが、バブルで好景気が続いたこともあって、そのチャンスを逃してしまった。人間とは愚かなもので、うまく行っている時には、そのやり方を変えようという気にはならない。『ジャパンアズナンバーワン』という本が出たように、「日本のシステムは優れている、終身雇用はベストだ」とおだてられて、慢心してしまった。いい意味で自分をリストラクチャリングしていくことに乏しかったと思います。

 産業構造の再構築が遅れたのは、特に非製造業ですね。具体的には不動産、建築、卸小売、サービス業、金融等です。これらの産業は海外との競争が少なかった。競争力がないということで、政府が保護をして来たツケが今、いろいろな面で表面化しているのではないでしょうか。

 講演会等で、経営者の方々とお話をすると「景気が悪い」という話をしばしば伺います。しかしそうした方々のお話を更によく聞いてみると、バブル期の好景気の記憶があまりにも強いため、それとの比較で「今は悪い」というケースがかなり多いように思います。しかし、「バブル」という言葉に端的に表れているように、あの時の好況はまさに「泡」だったのであり、当時と比較しても始まらないのではないでしょうか。景気というのは“気”なんですね。景気が悪いと思ってしまうと、余計に萎縮してしまう。この点はマスコミにも何がしかの責任があり、各メディアが軒並み「景気が悪い」というから余計に経済活動が萎縮しているような気がします。


――株価が景気のバロメーターのような印象を受けますが。

 よく、「株価は景気の先行きを示す先行指標」と言われます。例えば半年後、1年後の企業の収益を予測し、「もっと利益が上がる」と人々が思えばその会社の株は買われる。最近の大手製造業はそのようなことで買われている。しかし、私は今の株価はやや出来すぎのように思います。りそな銀行の事実上の破綻に対し政府が公的資金2兆円を投入したことによって、必要以上に経済の先行きに期待感や安心感が出ている。しかし、金融面では、依然不安定要因が解決されていないのが実情です。いずれその「揺り戻し」のようなものが出てくるのではないでしょうか。

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