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T・日本人としての【個性】を活かす
■日本と違う国 全ては縁から始まった
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広岡:
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私と松井がアメリカに渡ったときは、本当に未知の分野でした。ヤンキースは封建的だとか、敷居が高い、日本人に冷たいと、さんざん聞かされていましたから。以前に、伊良部(伊良部秀輝)君の失敗のこともありましたし、果たしてうまくいくのだろうか、とね。松井に誘われ、二人三脚でやっていこうと決めてから、松井は野球を、僕は彼が野球をやりやすい環境を作るという役割でアメリカに渡りました。そして、来年でヤンキース入団5年目になります。 |
| 佐伯: |
私の場合、子供の頃から父親の転勤でいろいろな所を転々とすることが多かったのですが、スペインも、ちょうど私が高校を卒業するタイミングで行くことになりました。よく、帰国子女の説明会などで言われることですが、言葉に慣れるためには団体スポーツのチームに入るのが一番良いということで、サッカー大国スペインでサッカーをすることになったんです。本当、縁ですよね。その時はまだJリーグもなかった時代。高校まではゴルフをしていましたが、鳥肌がたつほど好きか?と言われれば、そうではなかった。でもサッカーを始めて、どんどん好きになって、これで食べていきたい、と思うようになりました。じゃあ、そのためには何をしたら良いのか?指導者か審判かという選択肢の中で、私は指導者を選んだというわけです。 |
| 広岡: |
好きな仕事につくことはなかなか難しいことだと思いますが、それを願い、実現したというのは本当素晴らしい事ですね。自分の夢に向かっての道筋を、論理的に捉える目も素晴らしい。
実は僕も佐伯さんが仰ったことに同感なのですが、縁ってあると思うんですよ。佐伯さんはお父様の転勤でスペインに行きましたが、これがもしポルトガルだったらまた違いますよね。それが台湾だって違うと思うし。
僕がもともと報知新聞社に入社したのも本当、縁です。ハワイの大学で学んでいたとき、たまたまそこで出会った報知新聞社の人に「面接を受けてみないか?」と誘われて。実は僕、巨人が大嫌いで、「新聞記者には興味があるけど、巨人ファンでないんです。やっていけますか?」と面接で質問したんです。そうしたら、「うちはジャーナリズムを追求しているので関係ないですよ」と言われて。
でも入ってみたら、みんな巨人ファンなんですよ。そして、何故か、ずっと巨人担当をさせられてね。ずっと巨人担当ですよ。最後長嶋監督番まで。それで、松井とも出会って…。今ヤンキースに一緒に行っているわけですから、本当縁としか思えない。子供の頃になりたかった職業は刑事ですし、縁でここまで来たわけです(笑)。
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| 佐伯: |
本当、その通りですよね。私はそんな信心深いわけではありませんが、自分が特に困っている時や、サッカーをやりたい、指導者になりたいと強く思っている時は、必ずそれを後押しする人が出現するんですよ。不思議と。そういう強い気持ちって何かを呼ぶんだと思うんですよね。また、そうやって優しく手助けをしてくれる人がいたら、それを見逃さないでしっかりと有難く思いながら、活かしていくこと。そうすれば、自分の夢に近づいていけるような気がします。
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| 広岡: |
見逃さないことですよね。それは大切ですね。
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■郷に入りては郷にしたがう だけではいけない |
| 広岡: |
実際アメリカに渡ってみると、やはり日本との違いを感じざるを得ないような状況はたくさんありました。アメリカの方は特に合理的なものの考え方をするし、yes か noか二者択一の判断だったり、すごく打算的な部分もある。松坂君(松坂大輔)の報道を見ても分かると思いますが、お金がいくら上がるか、上がらないかとか、やはり日本とは違う部分がありますよね。
アメリカに行く以上はそれを全て把握しながらも、全て飲み込まれてしまってはだめなんです。だから、中に入りながらも、日本人ですから、個性を出すにはどうしたら良いのかを考えましたね。立場的には球団の広報ですから、松井の面では特に気を遣いました。
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| 佐伯: |
確かに現地に行ったら、そこでの常識に合わせなければならない部分もありますが、だからといって、全て合わせるだけでは上手く行きませんよね。
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| 広岡: |
今年松井が怪我をして、手術後にコメントを出す時、「チームに迷惑をかけて申し訳ない」という内容を、僕も普通に訳して、広報部長に見せにいったんですよ。そしたら、「本当にヒデキがそんなことを言ったのか?」とびっくりされたんですね。普通の感覚ですよね、日本人からしたら。そしてその後、そのコメントを公表した直後、今度はラジオや新聞などのアメリカのメディアが「ヒデキは凄い」と賞賛の嵐なんですよ。スペインもそうかと思いますが、アメリカは食うか、食われるかのサバイバル合戦の世界ですからね。人に迷惑をかけたとか、人への思いやりの余裕などない状況の中で、自分が怪我をするということは、誰かにポジションを取られるということですから。
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| 佐伯: |
そうですね。「しめた」と思っている人がいても、「大丈夫か?早く復帰しろよ。」と思ってくれるチームメイトは多分いないですね。例えばスペインでも、自分をPRする時に、自分の良いところをたくさんPRするのではなくて、比較対象となる人を落として落として自分が上がることを考えるんですよ。
これはサッカー選手に限らず、スペインでは普通の感覚であり、勿論文化の差でもあります。私が正しいということが正しくないという文化の差。ただ、私が監督しているチームで選手達がポジション争いをしている場合、「あの子はこの間の試合ダメだったのに何で私を使わないの?」という発想ではなくて、あなたはじゃあ違う何ができるの?という発想でピッチの上で表現して欲しい、と指導上、伝えています。
そういったメンタル部分では、日本人として教育を受けてきて本当に良かったと思うんですよ。
その素晴らしい部分をスペインの選手達にも上手に伝えていきたい、というのは思いますね。
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| 広岡: |
それは日本人だから、というだけでなく、佐伯さんが本来持っている素晴らしい人間的な発想があるようにも思えますね。でも確かに、先ほどの松井のコメントもそうですが、「自分だけでなく、人に対しても配慮する」という思考は日本人のとても素晴らしい部分ですよね。
1年目のキャンプ初日のことですが、有名な選手もいて気後れする中、全く右も左も分からないので、初日だから挨拶をするのが普通だよな、とロッカーの隅で松井と話したんですね。それでミーティングが始まる前に片っ端から「日本から来た、イサオとヒデキです。よろしく」と回っていたんですよ。そんなことをしたのは、恐らく僕達がはじめてだったんでしょうね。日本人は律儀なやつだ、とそれが逆に評判になりました。
そういえば、もう一つ感じたことがあります。ヤンキースという地球上で一番野球が強いと言われている組織は、全てにおいてハイレベルの考え方をしている認識があったのですが、道具をあまり大切にしないんですよ。バットとかボールとかを平気で飛ばしますし。メジャーのトップレベルで。
日本では道具や物を大切にしなさい、と小学校の頃から学校でも叩きこまれるじゃないですか。でも、特にスペインやラテン系の選手、ベネズエラやドミニカ…とうちにもいろんな国出身の選手はいますが、彼らはハングリー精神で素晴らしいけれども、そういう教育は受けていないんですよ。それも文化の違いで、事の良し悪しは特に言及しませんが、それを受け入れながらも我を出していくことが大切なんだと思うし、それはどの分野でも共通して言えることですよね。
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| 佐伯: |
仰る通りですね。実は私の父も野球一筋で来た人ですから、「道具を大事に出来ない者は一流選手にはなれない」とずっと言われてきたんです。だから、初めサッカーボールを買ってもらった時は、一緒にお風呂に入って、シャンプーできちんと洗って、自分より先にバスタオルで拭いて。本当はいけないんですよね、皮だし(笑)。子供なりに大事にするという意味が違いながら、大切に一緒に寝ていたりしたわけですよ。だから、選手が特に足で物を扱うことが多いのは気になったりします。後は、物を平気で投げたり。 でも私の当然と選手達の当然は違うから、なかなか難しい。
勿論、私は19歳の時に監督を志し、指導歴だけで見れば14年。この14年の間に成長してきたし、育ててもらったのはスペインのサッカー界のみで、日本のサッカーの指導方法とは違うかもしれまんせん。だから、スペインサッカーが良しとするサッカーを良しとしてきましたし、それこそ、イタリアのサッカーがアンチだったり。
ただ、指導者としてやっていくには、得た情報やテキスト、ゲーム経験だけではなく、私が持っているものが基本となって吸収し、初めて伝えるものなのだと思うんですね。
だから、日本人として教育されてきたマインド、メンタルの部分を伝えていくことは一つ、心に持っていますし、例えそれを意識していない時でも、私が日本人である以上、自然と出てきてしまう部分ではないか、とも思っています。
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