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講師の心.com > 講師マガジン 「人」 > スペシャルインタビュー 吉越浩一郎

Keywords

1)トリンプを変えた男 2)トリンプを辞めた理由
-継続的に伸び成長していく企業の条件
2)ワーク・ライフ・バランスの実践


トリンプを辞めた理由-継続的に伸び成長していく企業の条件


20年以上も勤められたトリンプを退社された理由は?

 会社のためにも自分自身のためにもそれが一番だと思ったのです。ですから、すっきり辞めることができました。実は、ドイツに本社を置くトリンプはオーナー会社で、数年前からオーナーの家族内で世代交代が始まっており、私もずっと自分の引き際を考えていたんです。経営はトップダウンが一番だと思っていますし、世代が変わって若いオーナーになった時に、彼が思う存分仕事ができる環境にするためには、私が辞めたほうが良いな、と。未練が全く無いわけではありませんが、私の決断が正しかったと確信できるよう、今後もトリンプを見守っていきます。

経営にはトップダウンが重要だとお考えなのですね。

 そう、「船頭多くして船山に登る」のことわざのとおり、トップは一人の方が良い。また、組織はできるだけフラットの方が良いと思います。一般的に組織が大きくなると、トップから平社員までのレイヤー(階層)が増えてしまい、トップに現場の様子が伝わりにくくなります。現場が分からないトップが決断しても、現場とのズレが生じますし、それによって仕事のスピードが遅くなることは、とても非効率です。だからトリンプでは、無駄なレイヤーを増やさなくて良いように、社員一人ひとりの守備範囲を広げていきました。あまり広げすぎても逆効果なので、これは調節しながらですが、一人ひとりの「能力×時間×効率」を伸ばしてあげることで、フラットな組織を保つ努力をしてきたのです。
 
  しかし、「ワンマン経営」ではありません。社長室のドアを閉め切り、社員と顔を合わせず仕事をしているようではだめ。経営者にとって「現場が通信簿」だと思うのです。トップの現場感覚は非常に重要ですし、その感覚があるからこそチャンスを逃さず掴むことができます。オフィスの中でやったどんな仕事も、現場で反映されなければ意味がありませんからね。だから私は、「現場が通信簿」を信念として、機会あるごとに現場に顔を出していました。

吉越さんが会社経営をする上で、大切にしていたことをもう少し教えてください。

 そうですね。先ほどの現場に顔を出すというのもその一つではあるのですが、「経営は、人との関係」だと思うんです。トリンプの場合、早朝会議が社員間のコミュニケーションの場として非常にうまく機能してくれました。ですが、いくらトップダウンといっても、社員全員が本気にならないと何も変らないんですよ。だから、経営者と社員との関係は非常に重要なんです。

   実は、「早朝会議」を始めてから3年ぐらいは、会議終了後に「落ち込んでいるヤツはいなかったか」などと、毎日、社員を見渡して神経をすり減らしていたので、黒かった髪の毛が一気に白くなってしまったほどです(笑)。この会議は、発表前の人事情報と給与関連情報以外は、すべての情報を全社員にオープンにすることが基本。なので、思いがけない問題が次々に露呈したり、心苦しい事を会社のために言うこともありますので、非常に気を使いました。それでも初志貫徹を決め、会社を変えるためにはどうしたら良いか、ひたすら考えていましたよ。そして、我慢しながら、目をつぶりたくなるような膿を少しずつ出していったことで、結果的に会社は増収・増益という喜ぶべき方向に向かい始めたのです。

吉越さんが人との関係を大切にしてきたから、今のトリンプがあるのですね。
では、継続し成長していく企業の条件とは何だと思いますか?

 今の時代、経営にスピードは必要不可欠。そして、周囲の環境に合わせて皮膚の色を変えるカメレオンのような、環境に対する柔軟性が必要だと思います。トリンプが増収・増益を続けられたのは、「早朝会議」を行うことによって、社員と会社全体が、スピードと環境に対する柔軟性を維持し続けられたからです。私がトリンプに入社してから売り上げは5倍に伸びましたが、実は、バックオフィスの従業員数は変っていないのです。これはなぜかと言いますと、社員の能力が向上し、1人の社員が5倍の仕事をしているからなのです。私が早朝会議で決めたデッドラインを追いかけ、残業もできないから、社員は仕事の効率性を考え、スピードを上げるために工夫せざるを得ない。それらを繰り返しながら、徐々に、5倍もの仕事をこなせるようになったのです。スピードと言えば、おもしろいことにトリンプの飲み会の開始時間も非常に早い。18時15分から始まって20時前には終わってしまう。それでも社員は相当飲んで楽しんでいるんですよ。他の会社では考えられないことかもしれませんが、体の芯まで、時間を効率的に使う性質が染み込んでいるんですね(笑)。


「5倍の仕事をこなす」というと非常に優秀な人材だと思うのですが、
人材教育はどのようにされていたのですか?

 実は、トリンプは特別な教育研修は一切していないんです。効率よく創意工夫をしながら仕事ができる社員というのは、常に自分のやるべきことを自分で見つけ、行動できる人でなければなりません。これを私はよく「板前さんの技が盗める能力」と呼んでいるのですが、優秀な人や成功する経営者が、誰かにその成功法則をきちんと習ったのか、というとそうではありません。あなたの会社の中で、教えてもらうことが当たり前だと思っているような、能力の低い部下はいますか? もしいるとしたら、それが会社がなかなか伸びない原因の一つだと思った方がいいですね。

  そもそも、自分から学び成長していく感覚というものは、研修などで養えるものではないでしょう。そういった意味で、会社は初めからそういう能力を持った人を雇わなければ、時間やお金を無駄にしてしまいます。それに、この「技を盗める能力」を持ち合わせている人であれば、能力を発揮できる場さえ提供してあげれば、自分でどんどん成長していくのです。そしてやはり、この「技を盗める能力」、を持っているかどうかを見極める段階、つまり最初の採用の段階でそのような人かどうかを確かめ、優秀な人材を確保する事がとても重要だと思います。

  ちなみにトリンプでは、直属の部下の推薦のもと、最短24歳で課長に就任できる、「課長代行制度」を導入しています。優秀な社員には実力に応じた場を与えてあげること。これが社員のモチベーションにも繋がります。

  また、部下に対するコーチングに関して私が思うことはコントロールやトラスト(信頼)ではなく、チェックすることが大事だということです。よく「部下を信頼せよ」といいますが、信頼した上で方向性がずれていないか、しっかりデッドラインを守っているかなどをチェックしてあげなければ、軌道修正をしてあげられません。このチェックが部下の成長にとって、とても重要だと思うポイントの一つです。



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