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  講師の心.com > 講師マガジン 「人」 >スペシャルインタビュー 吉越浩一郎
 
Keywords

1)トリンプを変えた男 2)トリンプを辞めた理由
-継続的に伸び成長していく企業の条件
2)ワーク・ライフ・バランスの実践


ワーク・ライフ・バランスの実践


トリンプでは、「リフレッシュ休暇」取得制度をつくっていらっしゃいます。
連続16日以上の休暇取得を義務付けるというのは、日本では珍しいですよね。

吉越浩一郎

 これは、自分が休みたくてつくった制度なのです(笑)。課長以上の管理職を対象に、年間で連続16日以上の休暇取得を義務付けた制度ですが、休みの間は部下に権限委譲しますから、部下の育成にも繋がります。とはいえ、この理由は後づけ。何より私は家族と過ごす休暇が大好きで(笑)。3週間の休みを必ず取っていましたね。でももっと凄いのはドイツ本社。年間6週間も取ります。それである程度の売り上げを出すわけですから、驚くべきことです。若い頃は仕事に夢中でがむしゃらになることもありましたが、ある時気づいたんですよ。ちゃんと休む時間が必要だって。日本は勤勉さを奨励するあまり、残業や休日出勤することを美徳とみる傾向がありますが、それが原因で体や精神のバランスを崩している人も多いですよね。もう少し考えた方がいいんじゃないかな、と思います。

  社員にしっかり休んでもらわなければ意味がないので、また罰則規定を設けました。休暇を取得しなかった人は、罰則として、翌年のリフレッシュ休暇の権利を失う、というものです。最初のうちは、休暇のタイミングを逃した社員もいましたが、今ではほとんどの社員がリフレッシュ休暇を取得しているようです。それも3週間まるまる(笑)。

 ちなみに、私の妻はフランス人です。フランス人がバカンスに出かける場合は、最低でも1カ月は休暇を取ります。彼女の影響もあるでしょうね。妻の生まれ故郷の南フランスに行って、のんびりと自宅のプールで泳いだり、フランス在住の息子がやって来て一緒に過ごしたり……。この家族と過ごす時間は、自分の人生にとってかけがえのないひと時です。こういったリフレッシュの時間があるからこそ、新鮮なアイディアや企画が生まれるのだと私は思っています。それでちゃんと仕事で結果を出していれば、かっこいいじゃないですか。僕にとって人生で大切なものに優先順位をつけるとすれば、家族と健康が第一、その次が仕事。それをしっかりと実感できているからこそ、自分や家族を仕事の犠牲には絶対にしません。いつか仕事は終わる時期が来るわけだから。仕事は人生の一部ではあるが、決してすべてではない。そこをはっきりしておいた方が良いと思うんです。


仕事を人生の一部として捉えていらっしゃるわけですね。

 そうです。仕事を引退したら、人生が終わったような気持ちになるなんて、悲しいじゃないですか。少しでも引退後の準備をしておいた方が良いと思いますが、日本ではなかなか難しいと聞きます。そういえば、仕事観に関してもヨーロッパ人と日本人の考え方の違いを感じました。私がトリンプを辞めた時に、「おめでとう」と心から喜んでくれたのは、ヨーローパに住んでいる友人です。ヨーロッパに住んでいる友人の多くは50歳過ぎたらどんどんリタイアしていき、ゴルフや旅行だとか、仕事だけではない人生を楽しみ始めます。しかし一方、日本の経営者や友人からは、「65歳までは仕事を」と勧められましたよ。

 では私はどうしたいかといいますとと、お金をある程度残すことができ、無理をしなければ生活ができるくらいになったら、あとは自分では仕事せず、何か素晴らしいことをやっている人のお手伝いをするとか、そういう方が有意義な気がしています。
 なぜか日本人って肩書きにこだわる人が多い。会社の名刺がなくなっても堂々としていれば良いのに、「今は仕事から退いていて」と遠慮がちになってしまったり……。日本のビジネスマンは偉くなるにつれて、相手が自分ではなく肩書きという冠に向かってお辞儀していることに気づかなくなっていきます。でも人生の主役は冠ではなく、自分自身です。そのことを仕事しながらも、常に理解しておくことは必要だなって思いますね。そうしておけば、仕事ばかりの人生をがむしゃらに突き進むことが、自分の人生にとって本当に良いことかどうか考えるようになりますよ。大事なのは、死ぬ間際になって、「自分の人生は本当に楽しかった」と胸を張って言えることではないでしょうか。もちろん、その中に仕事があってもいい。自分が納得できるように生きることことが大切だと思います。


退任後は何をしたいと考えていらっしゃいますか?

 仕事はしたくないですから、遊びたい(笑)。今、興味があるのはクルーズですね。妻と一緒に行きたい。しかし、トリンプ退社後に吉越事務所という個人事務所を設立しましてね。とてもありがたいことに、講演依頼を中心とした実に様々な仕事が舞い込んできております。せっかく引退したのだから、少し仕事はセーブしようと思っていますが、根っからの好奇心旺盛な性格が災いして(笑)、面白そうだなと思うものや、どうしても私でなければできないようなお仕事は受けさせていただいております。

   講演では、「効率的に会議を行うためにはどのようにしたら良いのか?」「残業をなくすためにはどうしたらよいのか?」などをテーマに、事例を交えながらお話ししています。妻から仕入れたフランス仕込みのジョークも織り交ぜながら、会場の皆さんが楽しめるような工夫も怠りません(笑)。経営者向けのお話をする際は、自身の経営経験の中で非常に大切にしていた「成功するまで続ければ必ず成功する」という精神をお伝えすることが多いです。皆様が、現場で、諦めず、強く、元気よく、仕事をしてもらえることを目標にお話をしています。

 妻から教えてもらったフランス語の慣用句に、「システムD」というものがあります。デブルイエ(もつれた糸をほどく)という単語の頭文字をとったものです。糸がからまって解けなくなったように見えても、一本を緩めることができれば、その糸は意外と簡単にほどけてしまうもの。「システムD」とは、「難問も工夫をすれば解決できる」という、難問に対する一種のスタンスを示す慣用句なんです。例えば、睡眠時間が足りなくて眠いけど、朝出勤しなければならない時、フランス人は、「システムDでいこう!」と言うそうです。どこかに解決の糸口は必ずある、問題は必ず解決できる、そう考えながら、私もこれからの人生をできる限り有意義に過ごしていきたいと思っています。
  吉越浩一郎
本日はお忙しい中、貴重なお時間を頂き、
どうもありがとうございました。

文・写真:鈴木ちづる  (2007年5月17日 株式会社ペルソン 無断転載禁止)  
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