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スペシャルインタビューvol.54 岸博幸
   

講師 岸博幸

『増税は、経済を上向かせてから。当たり前のことが忘れられている。経済を上向かせないまま増税をしても、なんの意味もない。』

 2006年に経済産業省を退官。慶應義塾大学大学院で教鞭を執る一方、テレビ、新聞、雑誌など、多くのメディアでも活躍されている岸博幸さん。経済や政治について、わかりやすく、そして鋭い視点から語る岸さんは、今やすっかりお茶の間でもおなじみの顔の一人となっています。講演では、政治経済はもちろん、地域再生などもテーマに盛り込みながら、面白く誰でも理解できるような解説が好評です。

 岸さんは、一橋大学経済学部を卒業後、当時の通商産業省に入省されます。産業政策局、通商産業研究所等を経て、1990年にコロンビア大学ビジネススクールに留学。その後、機械情報産業局、通商政策局等を経て、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)に出向し、ニューヨークにある国際機関で働くことになります。


 その名前が知られるようになったきっかけは、2001年、第1次小泉純一郎内閣の経済財政担当大臣だった竹中平蔵氏の大臣補佐官となったことでした。民間から異例の入閣を果たした竹中平蔵慶應義塾大学教授とは、2000年のIT戦略本部で内閣官房IT担当室に出向した時代に知り合い、竹中平蔵氏から「小泉内閣での構造改革にも協力してほしい」という誘いを受けます。日本を良くしたいという一心で政府に飛び込んだ竹中氏の懐刀として、岸氏は竹中氏の活躍を支えました。

 経済産業省退官後は、江田憲司衆院議員や元財務官僚の高橋洋一氏らと共に「官僚国家日本を変える元官僚の会(脱藩官僚の会)」を設立。また、経済がピークを迎えた日本の武器として「ソフトパワー」を論じ、「クリエイティブ産業」が新たな成長産業、また地域の活性化の鍵を握っているとして独自の考えを提唱。関連した書籍の出版の他、音楽産業のエイベックスの顧問に就任するなど、この分野でも名前が知られる存在です。

Keywords
 

1) 日本は政策が間違っている。まずはデフレ脱却から

  2) 国の危機を煽って、増税に仕向けようとしている
  3) 復興需要による景気回復に、だまされてはいけない



――日本経済、世界経済の景気動向について、どのような現状認識をお持ちですか?

 みなさんもご想像されていると思いますが、経済の現状はよくないですね。ヨーロッパはユーロ危機に苦しみ、アメリカも財政赤字問題がささやかれており、雇用も拡大しません。また、中国もスローダウンしていて、日本は相変わらずデフレが続いています。世界全体として、よくない、と言わざるを得ないでしょう。しかも、ユーロ問題は解決までに数年はかかると言われていますから、状況は2012年も変わらないと思います。

  実は、日本だけは復興需要があるおかげで、2012年はある程度経済が上向く可能性があります。ただ、それも長続きはしないでしょう。そもそも日本は政策が間違っているんです。日本の経済問題は、日本固有の原因があります。その原因というのは、デフレが続いていることです。デフレが続くと、民間は消費や投資を増やしません。その結果、民間の需要が盛り上がらないんです。なぜなら、デフレのもとでは実質的に現金の価値が上がるため、現金を持っていた方がいいとなる。このデフレを15年も放置してきたのが日本。民間の需要が滞ってしまっては、経済が上向くはずがないんです。

――デフレから脱却するために、日本銀行や政府は行動を起こさないのでしょうか?

 デフレ対策の処方箋は極めてシンプルで、もっと金融緩和すればいいんです。お金を市場に送り込み、インフレ傾向に持ち込む。ところが、日本銀行は金融緩和をしたくないんですね。金融緩和をすればデフレは解消されるのに、です。なぜなら、日本銀行は、金融緩和よりも自分の銀行のバランスシートの方が重要で、バランスシートを大きくしなくないから。さらにデフレから反転してインフレになったとき、コントロールする自信もないからです。

 一方で政府はというと、まずは増税したいんです。政府というより財務省が、といってもいいかもしれない。財務省は景気をよくしたいなんて思っていないんですよ。だから、なんら手を打たない。結果として、デフレは放置されたままになっています。政治家はなんとかしないと、と思っているでしょうが、政治としてどうしたいかを決めないわけですね。だから結局、財務省の考えで“増税が必要”だ、という流れになってしまっている。
 日本銀行に対しても、政治の側からプレッシャーをかけるべきなんです。そうするしか、もはや金融緩和には向かわない。ところが、未だにプレッシャーはかけられていない。政治家の中でも、特に若手はそういうことがわかっています。ところがわかっていても、最後は官僚の言いなりになってしまう。自分からやろうとはしないんですね。

――民主党は政治主導を目指したわけですが、うまくいっていないのでしょうか?

 最初はやろうとしましたが、官僚とぶつかって、できないということがわかったんです。官僚なしには自分たちに政治はできないと。だから、官僚の言うことを聞くしかない、と。それで結局、官僚の言いなりになってしまっている。官僚にとっては、今は過去にないほどラクでしょうね。全て好き勝手にできるからです。実際、官僚がこれまでやろうとして、できなかったことが次々に表に出始めています。消費税増税しかり、社会保障費の引き上げしかり。これは、官僚がやりたかったことを政治家に言わせているんです。官僚は基本的に自分たちの権限や予算を増やしたいわけですね。だから、自分たちに都合のいいことをやるようになるわけです。

  ただ権限や予算を増やしたいのかといえば、そういうわけでもない。東日本大震災からの復興は象徴的だと思います。すべてが遅い。後手に回ってしまっている。復興の規模云々の前に、とにかく遅いわけです。背景には個別のいろいろな要因がありますが、官僚は結局、自分たちの権限や予算を増やせたとしても、実際手がかかる仕事はやりたがらないんです。
  一方で、そうやってサボっている官僚を政治の側が強制しようとしても、なかなかできない。結果として瓦礫の処理も進まず、補正予算は政治のガタガタもあって遅れてしまった。例えば、復興庁は法案通りになるかもしれませんが、もともとそういう組織はなかったし、官僚は作りたくなかった。そこで、できるだけ実質的な権限を持たせないようにするでしょう。
 こうした状況はすぐに変わることはないと思います。このままだとマズイわけですが、ここから脱却するためのトリガーがあるのかというと、ない。それがわかれば苦労しません。閉塞状況は今後も続くでしょうね。

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