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河合 純一のコラム「夢は実現してこそ夢」
河合 純一
河合 純一(かわい じゅんいち)
パラリンピック競泳 金メダリスト

生まれつき左目の視力が無く、少しだけ見えていた右目も15歳で完全に光を失う。しかし、幼い頃からの二つの夢、一つは教師になること、そしてもう一つは水泳で世界一になるということ――この二つの夢を実現。講演会では、笑いを交えながらも、聴講者の心に響く内容を届ける講師である。

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Vol. 12 『人権を考える、一歩を踏み出す勇気』
(2012年03月23日)

 本格的な春が待ち遠しい今日この頃、花粉が舞うようになり、花がむずむずする毎日です。そのような中、パラリンピアンたちを応援しようというイベントが東京の恵比寿ガーデンプレイスを中心にした地域で3月3・4日に行われました。その思いを受けて、ロンドンパラリンピックの水泳日本代表を決める国内での最終選考会が先日静岡県富士水泳場にて開催されました。ぼくも6大会連続出場を目指し、自分のもてる力を発揮してきました。正式決定は7月初旬となる予定です。それまで選ばれるかはわかりませんが、しっかりと準備はしていきたいと思います。

短い白杖
 先日、品川駅を1人で白杖をつきながら歩いていたら、女性と子どもから声をかけられました。行き先に迷っているわけではなかったので、優しい方が心配してくれたのかな...と思い、立ち止まって「大丈夫ですよ。ありがとうございます。」とお礼を言いました。すると、その女性が「この○○○○くんも目が見えず、杖をついているんですよ」ということでした。小学2年生ということでした。とても華奢でまだ身長の小さな少年はぼくと握手をかわし、杖の長さの違いを確かめていました。半分とはいいませんが、かなり短く感じました。
 何気ないこの出会いが彼の将来の希望の光となってほしいと思うようになりました。そう強く思わせてくれたのは、この女性からのメールでした。何かお力になれることがあればという思いから名刺を渡しておいたところ、ブログを通じて連絡をいただきました。
 何回かメールをやりとりしていると学校の先生かなと思っていた方はガイドヘルパーであることがわかりました。手話も学び、最近は点字も始めたという積極的な方でした。その方が以前にお手伝いをしていた聴覚障害のお子さんから次のようなことを手話で告げられたそうです。
「ろう者の大人を見たことがないから、大人になる前に死んでしまうと思っていた」と...
 ぼくは正直いって、言葉を失いました。確かに幼いころの世界というのは非常に狭いものです。
 ぼくも幼児のころは近所しか知らなかったですし、小学生になって町内を知ったぐらいです。このような中で同じような障害のある大人に出会うことなどありませんでした。ましてや、情報を入手するのに人一倍苦労する視覚障害、聴覚障害の子どもであればそのように思うのは自然なことなのかもしれません。
 しかし、ぼくはそれが当たり前にしたくないのです。今はまだ、それが現実であっても、そういう思いをするのはこの子が最後であってほしいと強く思うのです。
 ぼくが様々な機会をとらえ、外出していることやマスコミからの取材を受けることも、同じような障害をもつ子どもたちの目にふれ、情報として届くことで夢や希望となれるのかもしれないなら、自分の存在意義を見直すことにもなるのだと思いました。
 確かにぼくも盲学校に入学した高校時代、東大に合格した先輩がいるとか、海外留学した先輩の話を耳にしたことで自分にもできる...という自信が沸いてきたように思います。短い白杖の少年にとって、もしかしたらぼくがそうなれたのかもしれないと思うとまだまだ頑張らなければと強く思うのでした。

一歩を踏み出す勇気
 ところで、みなさんは、点字ブロックをご存知でしょうか。おそらく言葉で知らなくとも目にしていることでしょう。誘導ブロックとも呼ばれていることもあります。駅や公共の場所などにあるボツボツしている足元にひかれているブロックのことです。このブロックは視覚障害の方にとっては、安全に街中を歩くためにとても便利なものです。
 しかし、その点字ブロックの上に自転車を停めていたり、ものが置かれていたりすることは社会問題化しています。これはもちろん、モラルの問題かもしれませんし、駅周辺の整備などの問題なのかもしれません。いずれにしてもこの点字ブロックの敷設意義を考えて行動してほしいものです。堂々と点字ブロックの上に立っていることでぶつかってしまうようなことも少なからずありますから。
 さて、ぼくが1人で歩いている時の点字ブロックの活用法を紹介したいと思います。多くの方は、点字ブロックの真上を歩いていると思われることでしょう。しかし、そうではないのです。ぼくの場合は、むしろ一歩、いや、半歩ずれたところを歩いています。片足は点字ブロックを踏みながらも、もう片方の足は点字ブロックとは違う部分を踏みながら歩いています。そして、白杖で点字ブロックをなぞるようにしています。それはなぜでしょうか。点字ブロックという幅の中で歩くことにより、安心感を手に入れることはできるかもしれません。しかし、それはどこまでいっても点字ブロックでしかありません。都心部のそれも、地方のそれも同じです。日本も海外も同様です。同じ素材の上で、限られた幅の中にしかいないということはぼくにとってとてもつまらないことです。それぞれの地には空気が違うのと同じように地面も違うのです。そういったことを感じて歩ける幸せを味わっているのです。
 だからといって、ぼくはあえて危険を冒しているわけではないですが、点字ブロック以外の足でアスファルトや他のタイルなどを感じながら歩いています。むしろ、この方が多くの情報を得ることができ、目印ならぬ、足印にもなっているのです。いつの日にか、短い白杖の少年も1人で歩くようになり、そういった出会いを楽しめるようになってほしい、一歩を踏み出す勇気をもってほしいと強く願うのでした。

何かを成しえるために重要なこと
 この1年間、コラムを書かせていただき、自分なりに何を伝えていきたいのかを自問自答しながらパソコンの前に座ってきました。とても辛く苦しい作業の時もあれば、とても楽しい時間でもありました。日頃、何気なく話している言葉も文字、文章にすることで頭の中が整理されていきました。そうして紡ぎ出されていった言葉、連なる文章はとても不思議な力が吹き込まれていきました。日頃、ブログなどに書いたり、twitterでつぶやいたりするのとは違う緊張感をもち、取り組んできました。教師という仕事をしていたころから「言葉」のもつ力、重みを感じていましたが、このコラムはさらに大きなものでした。ぼくは、そういう場を与えていただけたことに心から感謝しています。自分らしさを伝える手段は多くもてた方がよいからです。講演という形もあれば、コラムという形もあってよいと思います。ぼくの挑戦を知っていただくことで、みなさんも「できる!」「やってやる!」と自信をもち、行動を起こしてほしいと思います。何もやらなければ、何も始まりません。「千里の道も一歩から」です。いくら優秀な指導者であっても、自分の意志なくして成功に向けての行動はありえません。ぼくたちにできることは、その気になるための環境整備でしかありませんから。

新しい命
 もうすぐ、我が家は家族が1人増えます。そう、2人目を授かりました。息子も2歳となり、毎日毎日成長を実感できる日々です。この子たちの世代がさらによい国よい世界を引き継げるようその環境整備に力を入れていきたいと思います。それこそが、教育に携ってきたものの使命であると思います。
 夢がもてる社会、夢を叶えられる環境づくり...これらがぼくの夢であり、それを実現させるためにぼくは今日も、明日も生きていきます。この志を大切にしながら...




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