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中村 勝雄のコラム「120センチは面白い」
中村 勝雄
中村 勝雄(なかむら かつお)
小学館ノンフィクション大賞・優秀賞 作家

長崎県生まれ。平塚養護学校・高等部卒業後、映画監督・木下恵介氏に師事。その後、短編小説集『涼子~Hello my love~』出版し、小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。現在作家として、子育てをしながら異色のバリアフリー論を新聞・雑誌などに発表。重度の脳性マヒ、障害者手帳1級。



 中村 勝雄講師詳細プロフィール
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Vol. 54 『締切の不思議』
(2008年04月01日)
自分の中に妙な仕組みがあって、小首をかしげるときがある。いつもそうなのだが、どんな原稿を頼まれても「締切(しめきり)」が決められていないと書けない。悪いクセだと思っている。名のある作家でもない自分が、締切にならないと書き上がらないなど、生意気な気がしてならない。

もう二十数年前、はじめて原稿依頼されたときから、そうだった。たった1200字の「心に残る一冊」という書評欄だ。それも担当者が知り合いだったがゆえに依頼というより、温情(コネ)で書かせてもらったものだった。

何度も何度も、教科書のように繰り返し読んでいた短編小説のことを書こうとしていたから、書く内容は頭の中でできているのに結局、担当者に原稿をファックスで送ったのは、指定された締切日だった。 きっと、どんな編集担当者もそれを織り込み済みで締切を筆者に伝えてきているのだろうが、追われるような気持ちで書くよりも、早めに書き終えて、気楽に過ごせないものかと、いつも思う。 けれど締切に遅れたことは、ほとんどない。

試合日の決まっているボクサーではないが、そのつど締切日には納得のいく原稿を提出している。締切という不思議な期日は、ぼくにとっては集中力を高め、よりいい原稿を書くための濃厚な時間となっている。

ふと思うが、自分の人生の「締切」というか最後の日が分かっていたら、どうするだろう? 後悔などにさいなまれるのか。とても幸せに旅立つのか。それは分からない。 原稿のように締切を延ばしてくださいと、そういうわけにはいかない。自らが生きてきた物語は、その日で書き終わる。いやおうなくペンを置かなければならない。 そのとき自分は、最高の原稿が書けたと思えるだろうか?

なにやら信じられない事件ばかり目立つ時代になってしまっているが、たとえ社会がどうあれ、さまざまな締切は、また新しいスタートとなる。 こんな春の季節、せめて心に希望を持って生きていきたいと思う。


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