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中村 勝雄のコラム「120センチは面白い」
中村 勝雄
中村 勝雄(なかむら かつお)
小学館ノンフィクション大賞・優秀賞 作家

長崎県生まれ。平塚養護学校・高等部卒業後、映画監督・木下恵介氏に師事。その後、短編小説集『涼子~Hello my love~』出版し、小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。現在作家として、子育てをしながら異色のバリアフリー論を新聞・雑誌などに発表。重度の脳性マヒ、障害者手帳1級。



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Vol. 61 『いい関係(1)』
(2008年11月01日)
今回から最終回まで、残りの5回シリーズで「いい関係」と題して、私がこのコラムに込めてきた集大成というのは大げさだが、こんな時代でも、こんなに「いい関係=出会い」があることを紹介したい。

すうちゃんは2歳のとき、私の講演会に来てくれた。同じ脳性マヒという障害を持っている「作家」の講演ということでご両親は興味を感じてのことだったという。 私は講演しながら、すうちゃんの小さくて可愛い車イスに気づいていた。そして、その障害は寝たきりに近く、口からの食事も難しいであろうことは想像できた。 けれど、その小さな車イスのまわりだけは、こなん時代に似合わないほど、あたたかな家族であろうことが、かなり離れている演台の上にいる私にも伝わってきた。

終了後、主催者のスタッフがすうちゃん家族のそばに案内してくれた。優しそうなご夫婦の間に小さな車イスを中心にして、すうちゃんの叔母さんになる、ますみさん親子も一緒だった。すうちゃんは、福島直{すなお}クンという顔立ちの整った子だった。

その時、お母さんは泣いていた。医療ケアをしながらの子育ては並大抵の苦労ではない。もうすぐ2歳のすうちゃんとは目が合いその一瞬、いいお母さんだしお前は親孝行だな、と心で伝えたのを覚えている。

すると即座にすうちゃんから、おじさんも頑張れよ、そう返された気がした。いや確かにはっきりと伝わってきた。テレパシーにも似た同じ障害を持つ者だからこそ通じ合う、心と心での会話だった。うちの母親と同じく、福島さんも障害児を持った女親{おんなおや}としての大変さは並大抵ではないはずだ。つらい現実があることも想像するまでもない。その後、私も障害児の親という同じ立場になった。

私にとって福島さんは、障害児の親として大先輩であり、唯一の愚痴を言える相談相手になってくださり、すうちゃんの笑顔はすべてを悩みを吹き飛ばしてくれた。そこには会話など必要ないのだ。はじめて賢治の声を聞いた喜びを一番に伝える相手は、それこそ福島さんしか思い浮かばなかった。ほかの誰かに話しても、きっと喜びは伝わらない。

現在も多くの障害児(者)が、医療的ケアを必要としている現実がある。ただ単に行政の保身的な冷たい姿勢ではなく、どんな障害のある子どもでも親や、一部の医療スタッフにだけ、おんぶに抱っこのようなことは、もうやめてほしい。

当事者たちの幸福を最優先する法整備と、社会全体の理解を望む。うちの賢治も生きていれば4歳になる。医療ケアに関することは、きっと他人事ではなかっただろう。すうちゃんとの「いい関係」は形を変えて、いまも続いている。


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