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中村 勝雄のコラム「つながるチカラ」
中村 勝雄
中村 勝雄(なかむら かつお)
小学館ノンフィクション大賞・優秀賞 作家

長崎県生まれ。平塚養護学校・高等部卒業後、映画監督・木下恵介氏に師事。その後、短編小説集『涼子~Hello my love~』出版し、小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。現在作家として、子育てをしながら異色のバリアフリー論を新聞・雑誌などに発表。重度の脳性マヒ、障害者手帳1級。



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Vol. 10 『シェルパ』
(2010年01月05日)

 エベレストなどの登頂に挑む登山家は、その成否は現地のシェルパを務める人びとの助けが重要だという。

 ぼくの妻が初めて出産のために入院やしたときのことだ。それも急きょ早産の兆候があり、突然の入院だった。

 ぼくは、この国はもちろん世界の誰もが認める重度の障害者なので、妻が入院したその日から、サバイバル生活になっていた。

 ジャングルや無人島で暮らすことだけが、サバイバルではない。重度の障害者にとっては、予定していない介助者の蒸発、いや失踪はすべての生活を変えなければならなくなる。ぼくにとっての妻の入院も同じことだ。

 とはいっても妻は妊娠中だったので、それまでも食事程度の介助しか手を借りてはいなかった。だが、この食事の確保がかなり面倒だった。

 たとえて比べるとしたら、エベレスト登頂に途中でシェルパがいなくなったような感じだろうか。うちの冷蔵庫には食料があふれているのに、自分ではどうしようもない現実がそこにはあった。

 自分で用意できないからといって、食べないわけにはいかない。ほかの着替えなどは、着たきりスズメ、という言葉もあるように人が来た時に頼めば何とかなる。そしてトイレもアパートなのに大家さんの断りもなく、やり易いように改造してしまったから大きな問題はなかった。

 それでも食事だけは、自分の工夫や努力ではどうしようもない。
急きょ、ホームヘルパーの方をお願いしたり、友人たちにも手助けを頼んだ。そしてぼくの中では、不測の事態に備えて、いつでも自分を病院へ運んでくれる友人を頼んでおく必要があると考えた。

 あらかじめ電話で事情を話すと即答で全員が快諾してくれた。昼間ならお願いできる友人、夜中ならいつでも、という知人もいたり、かっちゃんのためなら会社休むから任せろ、そう本気で言ってくれる過激な仲間もいて、なんともバラエティーに富んだ輸送体制が整った。それこそシェルパだ。

 いつの間にか知り合った人びと、そんな人間関係が、こんな時に助けられるものになるとは思ってもいなかった。

 そのおかげもあり、何事もなく一人暮らしを生き抜いた。

 人とのつながりが、こんなにもありがたいことを改めて痛感した。その後、妻は無事に出産をした。

 これからは、こんな自分でも誰かのシェルパになりたいと、思っている。直接、何か手助けが出来なくても、いろんな方法でベテランのシェルパになろうと思いつつ、新しい年をスタートしたい。




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