Vol. 7 『環境特別対談 第3弾 「洞爺湖サミットと日本の展望」』
7月、いよいよ日本が議長国を務める「北海道洞爺湖サミット」が開催されます。それに伴って、国民の環境問題への関心が、日々高まってきているのを、皆さんも肌で感じられているのではないでしょうか?
今回の村田佳壽子の対談相手は、「地球環境イニシアティブ(GEIN)」の代表を務められている、小田全宏さんです。サッカー日本代表・岡田武志監督らとともに、
再生可能エネルギーを主体とした持続可能な世界を実現するため、 地球環境の研究や調査、政策提言活動などを行われています。環境問題に対して、日本の現状と将来への提言を小田さんに伺って参りました。

【対談のお相手】
小田 全宏
(株式会社ルネッサンス・ユニバーシティ 代表取締役/地球環境イニシアティブ(GEIN)代表)
1958年、彦根市生まれ。東京大学法学部を卒業後、財団法人 松下政経塾に入塾し、 松下幸之助翁指導のもと、一貫して人間教育を研究。 91年には、㈱ルネッサンス・ユニバーシティを設立し、以来多くの企業で、"陽転思考"を中心に、人材教育実践活動を行う。一方では、"エネルギーと地球温暖化問題の解決が地球を救う"、"日本が変われば、地球が変わる"という理念のもと、サッカーの岡田武志監督らとともに、地球環境イニシアティブ(GEIN)を立ち上げ、代表を務め、幅広い活動から注目を集めている。
詳細プロフィールはこちら■洞爺湖サミットでの日本の課題村田:昨年、日本でも「不都合な真実」(※)がかなり話題になりましたが、今年は7月に洞爺湖サミットも迫っており、「環境」がより一層、世間で取り上げられるようになってきたのですが、このような昨今の動向について、どのようにお考えですか?(※アメリカの元副大統領 アル・ゴアの環境問題に対する取り組みを追ったドキュメンタリー。最優秀長編アカデミー賞受賞作)
小田:確かに、にわかに言われ出した感じはありますが、温暖化問題は1980年代から取りざたされています。例えば、これまでもフロンガスや酸性雨、リオデジャネイロのサミット(1992年/ブラジル)などのトピックは取り上げられていました。ですから、僕個人としては、そこまで急だという感覚はないのです。ただ、これまでは氷山の一角しか見えていなかったものが、ゴアさんの映画「不都合な真実」が作られたことで、"氷山"が表れたような感じはしますよね。
村田:日本では、何かイベントがあるごとに盛り上がりはしますが、終わるとそれっきり、という傾向があります。ただ、今回の洞爺湖サミットに関しては、それっきりにする余地はありません。その割には、議長国としてイニシアティブを取るべき日本の政府に具体策がないのは困ったものだな、と思います。
小田:洞爺湖サミットで、福田内閣もリーダーシップをとりたい、とおっしゃっていますが、確かに具体策がありませんね。しかも、これまでの日本と世界の関係を考えると、非常に難しいと思います。なぜなら、1997年に京都議定書を制定する際に、温室効果ガスの削減目標が、日本は6%、ヨーロッパは8%と決められました。あの時点でのヨーロッパの8%と日本の6%という目標は、一見、日本は低く見えるかもしれないですが、そんなことはなかったと思います。当時のヨーロッパは、社会主義国の東欧と資本主義国の西欧が統合していく時で、社会主義国ほど、環境対策がひどい時代でした。ですから、ドイツの場合は、社会主義国だった東ドイツの環境対策をきちんと整備したことで、目標の8%へ簡単に到達できました。かたや、日本は、70年代から省エネの歴史があり、必死で環境対策を行ってきました。すでに、環境対策を講じている日本にとって、今から見ても、6%の目標は大変なことです。当時の目標値は、どさくさで決まってしまったように感じてなりません。
村田:当時の日本は、他国の現状を知らないから、数値設定を跳ね返すことができなかったんですよね。
小田:一方で、アメリカ、中国、インド等、一部の国は削減目標を受け入れない、というスタンスをとりました。当時、中国は、「途上国だから」、アメリカは、「中国が入らないと意味がない」というそれぞれの理由で、受け入れを拒否しました。すごい論理ですよね。アメリカは京都議定書以降も、どんどんCO2排出量が増えています。去年、中国がそのアメリカを抜きました。中国とアメリカはこの10年間知らん顔を通して、CO2を出しています。洞爺湖サミットでは、福田内閣はどうやって各国にCO2排出量の規制をのますかが、大事になっています。京都議定書は、それはそれとしていいですが、再度、世界全体が入った枠組みを作るべきだと、どう言えるか、そこがリーダーシップだと思います。
村田:ただ、日本のCO2排出量は京都議定書当時の目標値を守ることが非常に難しいので、増やさざるを得ないです。そうすると、自分の国のCO2排出量を増やしながら、偉そうに言うな、ということになりますよね。言い訳だって言われかねないので、言い方が難しいですよね。
小田:本当に難しいです。「90年の基準年がおかしいから、昔のことはとやかく言わずに、基準を05年ぐらいにしましょう。あの時は分からなかった、すまん。」と、僕が総理だったら謝りますね。「アメリカ、中国、インドを入れた枠組みが必要で、これからを考えた時に、(自分の非を)深く反省しつつ、国民の皆さん協力して下さい」と言います。
村田:そうしたら、洞爺湖サミットも半分くらい成功すると思いますよ。日本の環境対策には、いいものがたくさんありますから。
■競争から協力、協働へ
村田:私は、環境問題に対しての企業の取り組み方はこれから、今までの企業同士の競争ではなくて、協力、協働の、チームでやっていくという方式が大切になってくると思います。自分とは違う専門分野を持つ企業と組んで、やっていく。「One for All,All for One」というように、経営者も頭を切り替えていったほうがいいと思うんですよね。そうすると、自分のところだけではできないことも、できるようになります。太陽光会社と住宅の会社や、ガス会社や車の会社が組むとか。全然違うことをやっているところ同士で組んで、皆で組んだときに一つのものができるというかたちをとって、そうすると、自分のところが困ったら、他も困っちゃうので、助けてくれるようになります。逆に、他が困ると自分が助けるようにする。これまでは他を駄目にすることで自分が勝つ、結局ひとつしか儲からない社会でした。しかし、従来の方式を競争から共同の社会にして、チーム方式にしていくという、その発想の転換ができる経営者が勝ち残ると思いますが、どうでしょうか?
小田:村田さんがおっしゃるような、コラボレーションをする、という企業は、現在、実際にあります。再生可能エネルギーだけでみても、今おっしゃった、住宅メーカーと太陽光メーカー、自動車メーカーと太陽光メーカー、いろんなとこが共同で仕事をしていますよ。そこにはもちろん競争もあります。現場では競争しているわけです。実際に、太陽光発電の機械を、シャープにするか、京セラにするか・・・など、消費者は数社の中から選ぶことになります。そういう意味では、競争しているんですけど、今後は大きな意味では協力というふうになってくると思います。
■世界の価値観、日本の価値観
村田:この間、聞いたのですが、スウェーデンでは、化石燃料が、いつなくなるかという議論はしないそうです。「いつなくなるかどうかは、議論する余地がないことで、なくなることは分かっているから、だったらどうするのか」ということを議論するのです。「温暖化の原因かどうかなんて、不毛な議論をする時間はない」とも言われていました。
小田: 素晴らしいですね。
村田: 一方で、テレビをみていたら、日本では、「温暖化が進んでいるかどうか?」の議論から入るんですね。しかも、結論も、どうもこのままではまずそうだから、「皆で考えましょう」ということで終わってしまっています。今はもう、考えてる場合ではなく、実行に移さないといけない時期になっているのに。それに比べて、4年前に訪問したスカンジナビアの国々は、環境と福祉とITの全てがうまくいっているんです。もちろん、完璧だとは言わないですが、少なくとも75%の税金を取られながら、誰も文句を言いません。老後の心配もないし、教育も医療も20歳になるまで一銭もお金をとられない体制ができています。それがなんでできたかというと、結局選挙が要因だったんです。また、なぜ、選挙でそういう政治家を国民が選んだかといったら、民度が高いから。民度が高いのは教育があるからです。そして、選挙にいかなければ罰金をとるとか、企業の利益代表のような人は全体の4分の1しか当選させないとか、小学生のオンブズマンもいて、常に、政治家や役人が不正をしたりしないか、しっかり見ている、といった社会制度ができています。根本的に、日本と政治制度が違っているのです。いろいろな方々にインタビューをしていく中で、どうやって実現したのかが分かったのですが、国民の意識をあの手この手で変えていった、ということでした。それに引き換え、日本は、この調子で大丈夫なのか、不安に思います。
小田: 日本で実現するには、なかなか難しいことでしょうね。民度、国民性の違いもあると思います。ものに対する考え方とか。
村田: その違いに加えて、宗教の違いも大きいと思います。日本は、明治の頃から廃仏毀釈を行って、戦争の時は、宗教心をうまく使って、戦争をして、戦後はいっさい宗教に手をつけず、教育の中でも教えることはありませんでした。それに比べて、ドイツなどのヨーロッパの国々はベースにキリスト教があります。それがしっかり根付いてるので、民度や国民性に影響を与えていると思います。そのあたりの違いについては、どうお考えでしょうか?
小田: たしかに、ドイツは、厳格な国民性ですね。車に乗っていても、アイドリングしていると(隣の車にドンドンと知らせて)「消せ」と注意されます。その国で、培ってきたものがあるんではないでしょうか。例えば、ドイツ人は、日本の太陽光発電の普及をみて、反対にびっくりするんですよ。ドイツで、太陽光発電の比率が上がってきたのは、なぜかというと経済的にメリットがあるからです。
一方で、日本は、つい数年前まで補助金があったとはいえ、まだまだ採算が合わないシステムです。ドイツ人からしたら、「日本人は採算が合わないのに、太陽光システムをつけてるいることが、すごい。日本人はなんでそんなに環境に取り組んでいるのか分からない」と言われました。
村田: 私も同じようなことを言われたことがあります。日本では、ペットボトルとかビン、カンの分別がうまくいっていないので、ドイツの方に聞いたことがあります。すると、そうしなければ、罰金を取られるから、ということでした。逆に、「日本は違うんですか?日本人は法律で決まってないのにリサイクルするんですか?」と聞き返されました。
小田: そうですね。確かにドイツの環境対策においては、経済や法律の規制が整備されています。それに比べて、日本は遅れてると言われていますが、全体的に見たとき、決してそうはいえない。日本人の中にある素晴らしさをみて、むしろそこを助長するという方がいいと思うんですよ。
■21世紀はエネルギー革命の世紀
小田:そもそも日本は、再生可能エネルギーの転換について、世界でいち早く取り組むなど、環境問題対策は国際的にも高い水準にあります。しかしここ数年、京都議定書のCO2排出量の数値設定を含め、政策の立て方が悪いと思います。温暖化対策にもいろいろあって、例えば、「電気を消しましょう」とか、「アイドリングをやめましょう」などありますが、そういう取り組みは本質的な解決策にはなりません。一国の政策として未来を考えると、人の生活の基本となる化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)を土台としたエネルギーを転換しなければいけない時期にきているのです。年々、世界の人口は増加しているのに、エネルギーを使わないことは無理ですから。ただ、「我慢しましょう」というのは現実的ではありません。岡田監督らと一緒に地球環境イニシアティブ(GEIN)を始めたのは、こういう理由からです。日本でも第一次オイルショックの時期に、「サンシャイン計画」(※)というのがあって、当時すでに「2000年に太陽光を中心とした新エネルギーを事業化させる」ということを20年以上のスパンで考えている人がいました。(※第一次オイルショックを機に、74年に発足した日本の新エネルギー技術研究開発についての長期計画)
村田:先見の明がある人がいたんですね。
小田:現在、僕らが出している案は、21世紀の中頃に向かって、「エネルギー革命」をしないといけないということです。化石燃料から"再生可能な新エネルギー"への転換です。電力を例にとるなら、現在、原子力や火力などの化石燃料がメインで、太陽光、風力などの再生可能エネルギーはいわば付録のような存在。その割合を逆転させるか、極端な話、全て再生可能エネルギーにするビジョンを掲げるべきだと思います。ただ、太陽光でも風力でも、再生可能エネルギーというものは、現代の市場原理においては完全に「敗者」と言わざるを得ません。というのも、1kW/hの電気を買うとき、原子力は4~5円、化石燃料は6円、一方の太陽光はなんと40円から50円もします。しかしそこを"環境価値"として捉え、その部分を補填する考え方を持たないかぎり、絶対に市場原理ではやっていけないでしょうね。
村田:育成していかないといけないということですよね。かつて日本は、自動車産業にしても、鉄鋼産業にしても、国内で物凄い優遇措置を敷いて、その結果、世界有数の産業国に上り詰めました。エネルギーに対しても国が政策転換しなければ、産業は育っていかないでしょう。では、その政策転換をどのようにしていけばいいのでしょう?
小田:例えば、2002年に制定された「RPS法」を例にとりましょう。この法律は、政府によって新エネルギーの利用目標が定められ、各電気事業者はその義務量が割り振られました。また、民間住宅の太陽光発電によって産出された電力が、電気事業者に売却されることでも話題になりましたが、これを電力会社側から見るとどうでしょうか?本来、原子力なら1kW/h 4~5円で買える電力を、その数倍の値段で買えと言われていることになるんです。かといって、それを買わなければならない法律があるのかというと無く、すべて会社側の"厚意"で行っているのです。このように、再生可能エネルギーが増えるほど電力会社が損をする、というシステムでは続いていくはずがありません。
日本の場合は、省エネと原子力に注力しており、一方で、再生可能エネルギーはそこまで力が入れられていないのが現状です。原子力発電を止めてやってくれというのは無理ですから、安全性を考えながら、まっとうにやって欲しい。省エネも是非やって欲しい。ただ、再生可能エネルギーの柱をたてて欲しいですね。二酸化炭素の排出量を下げる、ということを目的にするならば、5~10年のスパンで考えると、原子力は絶対的にパワーがあります。世界も反原発には、向かっていないです。ただ、10年以上先の将来を考えて、太陽光発電や風力発電といった、再生可能エネルギーを育てていかなくてはならないと思います。
村田:それに、再生可能エネルギーへの取り組みは、大変いいビジネスチャンスですよね。例えば、太陽光発電は、技術力も日本のものは世界一です。サンヨー、シャープ、京セラなど、最高のものがあります。
小田:そうですね。僕らは、21世紀以降の文明は、誰が何と言おうと化石燃料とは違う文明を作らなければならない。どんなに省エネをしても何しても、使うエネルギーの土台になるものが、地球の資源である化石燃料の上に成り立つという構造は行き詰っていきます。化石燃料はまだありますから、それがある間に、化石燃料を使う人間が、21世紀以降のエネルギーをつくるのが使命なんですよ。これができなかったら人類が滅びますよね。
村田:必ず、なくなると分かってるんですから。残り少ないものを使って、次の世代への財産として、作っていかなければいけませんよね。
本日は、お忙しい中、有り難うございました。(了)