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進藤 勇治のコラム「進藤勇治の環境レポート最前線」
進藤  勇治
進藤 勇治(しんどう ゆうじ)
元通産省企画官/前東京大学特任教授

東京大学工学系大学院修士課程修了後、通商産業省工業技術院に入省。長く国立の研究所で環境やエネルギーの研究を行い、1996年、同省退官。地球環境等の様々な活動に取り組むために、環境・技術コンサルタント、講演会活動など、豊富な知識と経験をもとに日々奔走している。

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Vol. 5 『ロシアと温暖化』
(2010年08月25日)

 梅雨が明けた途端に日本でも猛暑に襲われましたが、今夏は世界全体で猛暑に直面しているようです。これも地球温暖化の影響ではないかと思っています。今回は、ロシアの状況を考えつつ、地球温暖化の国際事情を掘り下げて考えてみます。

【猛暑に襲われたロシア】
 
ロシア気象庁の発表によりますと、7月のモスクワの気温は平年より約8度高く、130年間の観測史上で最高に暑い7月となったとのことです。8月になって、モスクワの最高温度が37.4度になったという報道もありました。日本でも35度を越えた日中に外を歩くと、まるで熱風の中にいるように感じる時もあります。
 偏西風の流れ方が大きく変わり、モスクワに猛暑という異常気象を招いたようです。この結果、森林や泥炭層の自然発火による火災が多発しています。また、モスクワでは猛暑とスモッグの影響で毎日の死亡者が通常の2倍になっています。日本では酷寒の2月にお年寄りの方が亡くなられる事が多いのですが、最近は猛暑の夏に亡くなられる方が増えています。
 なお、猛暑による干ばつで穀物生産が大打撃を受け、ロシア政府は自国の小麦の輸出を今年2010年8月15日から12月31日まで一切禁止すると発表しております。

【ロシアの本音は】
 
実はロシアは地球温暖化が進むことに賛成ではないかとの指摘があります。1997年に締結した京都議定書について当初ロシアは国会での批准を行いませんでした。2004年になっても温室効果ガスのトータルの排出量で50%を超える国々の批准が得られず、京都議定書が発効されない状況でした。この頃既にロシアは温暖化が進むことを歓迎しているという憶測も出ていました。
 しかし、2004年10月にロシアは京都議定書を批准しました。ロシアの参加によって難航していた京都議定書が発効されました。当時ロシアは中国と同じように途上国扱いで、京都議定書では削減義務はゼロ%でした。しかし、市場経済に移行したロシアでは石炭から天然ガスへのエネルギー転換、さらにエネルギー機器の省エネ化が進み、1990年比で30%以上の温室効果ガスの排出が自然に減少しました。
 二酸化炭素の削減分を排出権枠として海外に売ることができ、もし全てを売却できれば数兆円になります。ロシアが京都議定書を批准し参加したのは、この排出枠を売るためだともいわれています。
 ロシアに限らず、旧ソ連の国々、東欧の国々の京都議定書における削減義務はゼロ%です。その後のエネルギー転換や、エネルギー機器の効率化で、これらの国々の温室効果ガスの排出量も大変減少しており、その排出枠を他国に売っております。このように、京都議定書の恩恵を受け、何もしなくても利益を得られる国々をホットスポットと呼んでおり、極めて不公平であり、京都議定書が持つ大きな問題の一つです。
 尚、これらの国々から排出権枠を買っている国は日本のみです。また膨大な量のロシアの排出枠に関心を持っているのも日本のみです。
 温暖化が進むとロシアでは、暖房費の削減ができ、シベリアが穀倉地帯になるなど、多くのメリットが予測されます。しかし、地球環境や国際社会はそう単純なものではありません。急激な温暖化によりシベリアの凍土が溶け、森林地帯が不安定な沼地に変わってしまいます。多くの国が温暖化で疲弊した状態で、ロシアだけが繁栄するということも困難なことです。

【消滅する北極海の氷】
 日本から船でヨーロッパやアメリカの東海岸に行く時は、スエズ運河やパナマ運河を通っても大変長い航路です。運河を通らずマゼラン海峡や喜望峰を通ったときは、もっと長くなります。さて、今北極海を覆う海氷は極めて早いスピードで消滅しています。このままですと、2050年頃には北極海の氷は溶けて無くなってしまうと予測されています。そうなった場合に、日本から船でヨーロッパやアメリカ東海岸に行くには、北極海を通るとかなりの近道になります。日本からベーリング海峡を抜け、左に行けばヨーロッパ、右に行けばアメリカ東海岸となります。
 この北極海航路が実現すれば、極東の僻地にある日本は大変便利になります。もっとも、近年の温暖化で、夏の2ヶ月間だけ北極海航路として既に開通しています。将来年間を通して開通しますと、ロシアの北極海沿岸に港が開け、経済が活性化し一層国の発展が図られるでしょう。

【猛スピードで変わる地球温暖化】
 
過去にも地球大気の温度が変わることがありました。過去数十万年間に、4~10万年の周期で氷河期が地球に訪れました。氷河期には7~8度も平均気温が下がりました。氷河期の温度変化は1万年で平均温度が2度程度変わる早さです。それに対して、今起きようとしている温暖化では、100年間に3度も温度が上昇するものです。単純に1万年に換算しますと、300度も温度が上昇するスピードです。温暖化のようなハイスピードの大気温度の変化は地球上でこれまで一度もありませんでした。

 国際的な様々な思惑や利害がぶつかり、地球温暖化問題は既に科学の課題ではなく、政治の問題となっています。ただ、今私達人類は未曽有のハイスピードでの大気温度変化に直面しているということを、今一度強く認識していただきたいと思います。




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