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進藤 勇治のコラム「進藤勇治の環境レポート最前線」
進藤  勇治
進藤 勇治(しんどう ゆうじ)
元通産省企画官/前東京大学特任教授

東京大学工学系大学院修士課程修了後、通商産業省工業技術院に入省。長く国立の研究所で環境やエネルギーの研究を行い、1996年、同省退官。地球環境等の様々な活動に取り組むために、環境・技術コンサルタント、講演会活動など、豊富な知識と経験をもとに日々奔走している。

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Vol. 20 『環境、食の安全とTPP』
(2012年01月25日)
いま、TPPに日本が参加するべきかどうかが大きな問題になっています。TPPは産業や貿易の分野のみならず、国民の生活にも直接影響を与えます。今回はTPPと環境や食の安全問題について考えてみます。

【TPPとは】
 TPPは、Trans-Pacific Partnershipの略で、環太平洋パートナーシップ協定もしくは環太平洋戦略的経済連携協定と呼ばれています。アジア太平洋自由貿易圏の実現に向けた取り組みの1つであり、例外品目を認めない形の、関税撤廃をめざしています。また、サービスや人の移動、基準認証などの経済制度の整合性も図るため、日本の既存の制度の変更や、規制の緩和が求められることになります。
 TPPは2006年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国で発足し、現在はアメリカ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルーが新たに参加交渉を行っています。日本は参加交渉に加わる意向を表明しています。

【農業とTPP】
 TPPの基本は関税を撤廃することにありますので、日本がTPPに参加すれば、高い関税を負担してきた工業製品の輸出業者、また様々な商品の輸入業者は利益を得る事になります。
 逆に、これまで高い関税によって護られてきた産業は、大きな打撃を受ける可能性があります。日本では、お米に対して800%の、牛肉に対しては40%の関税がかけられていますが、もし関税が撤廃された場合、アメリカから安価な農産物が大量に日本に輸出され、たちまち日本の農業は大打撃を受けるでしょう。さらに、日本で進められている有機農業、地産地消、スローフード、ロハスなどの活動まで影響が及ぶ可能性があります。

【環境とTPP】
 環境の観点からは、TPPにより農地や里山生態系への大きな影響が懸念されます。農地は単に耕作地としての機能だけでなく、洪水の防止、地下水の涵養、土壌浸食の防止、水質保全、大気浄化など、多くの機能を持ちます。TPPによって日本の農業の国際競争力が低下すれば、耕作放棄地が増加し、里山の維持も難しくなります。TPPは国土の在り方や自然環境の在り方をも大きく変える可能性があります。
 「フードマイレージ」という言葉がありますが、これは食料の生産地から消費地までの輸送距離を示す数値で、その値が小さいほど輸送の燃料消費が少なくて済み、環境に優しい食品と言えます。日本のフードマイレージは世界の中でも群を抜いて大きく、フランスの約4倍、アメリカの約7倍です。今後、食料の輸入量が増えれば、フードマイレージはさらに大きくなります。
 日本では環境保全や省エネの推進のために、国や自治体から企業に制度融資や補助金支給が実施されます。これが一種の非関税障壁とみなされ、変更を求められる可能性があります。結果として、日本における環境保全が後退する恐れもあります。

【食の安全とTPP】
 世界における、遺伝子組換え作物の作付面積は年々増加しています。2010年現在、全世界の大豆の作付け面積の81%、トウモロコシの作付け面積の29%は遺伝子組換え作物です。
 日本では遺伝子組みえ作物を含む食品には、その成分の表示などが義務付けられていますが、アメリカでは行われていません。日本がTPP参加が実現すれば、遺伝子組換え食品のラベリングが、農産物や食品の輸入を阻害する非関税障壁だとして、撤廃が求められる可能性があります。また、世界的な狂牛病問題の中でアメリカ産牛肉の日本への輸入停止された際、アメリカは輸入再開の圧力をさかんにかけてきました。TPPに参加しますと、牛肉だけでなく、あらゆる農薬や添加物の安全性基準をアメリカの基準に合わせなければならなくなる恐れがあります。

【TPPと日本の将来】
 TPPは単に産業経済や国際貿易のみではなく、私たちの日常の生活にも大きくかかわって来ます。TPP参加が実現すれば、日本の医療制度の変更も求められて来るでしょう。日本の文化そのものが変更される事になりかねません。
 昨今、TPP参加に対して様々な反対意見が出ています。その一方で、世界第三位の経済大国である日本が、貿易自由化という世界の趨勢に乗り遅れ、孤立化していくようなことは絶対に避けなければならず、TPPに参加するべきだという考えもあります。
 日本でも農家の戸別所得補償が既に始まっているとおり、日本農業は極めて厳しい状況に直面しています。TPPへの参加の有無に関わらず、日本の農業は早晩立ち行かなくなるという指摘もあります。TPPに対しては国論が二分されているというのが現状です。

TPPに参加してもしなくても、いずれの場合において、日本は大変厳しい状況に陥る事になるでしょう。国民ひとり一人がTPPのメリットやデメリットを十分に考える中で、TPPに対する日本の政策が民主主義的に決定されることを期待いたします。




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