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川村透
川村透 講師プロフィール

「あなたは自分の力を
        信じていますか?」

川村 透(かわむら とおる)
川村透事務所 代表
・モチベーティブ・スピーカー
・翻訳家
・企画コンサルタント

 
Vol.25 「形のない贈り物」

 先日、思わぬところからメールが入った。インドのダージリンである。その主はアージンという男性。僕が20年ほど前(ゲッ!もうそんなに立つのか?信じられない)、卒業旅行のときにバックパッカーとして旅をしていて、バスの中で知合って泊めてもらった家だ。

 当時、通信手段は手紙だけだったのに、いまや携帯のアドレスも書いてある。本当に便利になったものだと実感しながらも、あるひとつの忘れられないエピソードを思い出した。

 インドの東北部、ダージリン地方はご存知のように紅茶の産地だ。どんなところかというと、傾斜のきつい山合いに一面紅茶畑があり、村が山の斜面にはいつくばっている。町から何時間もかけてバスで登っていくのだが、TOY TRAIN というおもちゃのような蒸気機関車が走っていて、観光名所にもなっている。私がバスでダージリンに向かっていると、前に座った真っ黒な男性がカタコトの英語で話し掛けてきた。

「ホエアアーユーフロム?」
「ジャパン」
「オー、ジャパン!ホエア ドゥ ユーステイ トゥナイト?」
「アイ ドント ノー イェット」
「カム トウ マイ ハウス!」

 というわけで、私は彼の家にお世話になることになった。この村はSONADAというのだが、光栄なことに私が村を訪れた初めての日本人だったようだ。皆、珍しそうに玄関から顔を覗かせて僕をみている。当時は水道もなく、奥さんが水汲み場までバケツを抱えていき、火も薪をくべておこしていた。お風呂というものはなかった。私がわがままにも「シャワーを浴びたい」というと、洗い場のようなところで、奥さんが何度も何度もたらいにお湯を沸かしてくれた。しかし電気は通っていて、テレビは合った記憶がある。インドの奥さんはとても働き者で、夫にも献身的だ。そんな家で僕は数日お世話になることにした。

手でごばんを食べ、頻繁に甘〜いチャイ(ミルクティー)をお茶がわりに飲む。この地方はネパールが近いせいか、味付けもカレーカレーしておらず、日本人の口にもあう。

 ある晩、下のほうを見下ろすと、なんと家が燃えている。何事かと思って聞くと、なんと民族紛争でゲリラが火をつけたのだという。この時代にそんなことがあるのか・・・とタイムスリップしたような気分でいたら、翌日はなんと戒厳令で家から一歩も外に出れない。外には拳銃を抱えた兵士が頻繁に歩いており、子どもたちや女性はおびえて家の奥に隠れている。こんな内紛に思わず巻き込まれ、ドキドキしながら「この村で、誰にも知らされずに死んでしまうのか・・・」とすら考えたものだ。

 こんな状況なので、私は急遽、予定を変えて下山することになった。バス停までアージンが見送りにきてくれるという。旅すがらの僕にこんなに親切にしてくれて、もう感謝の気持ちでいっぱいだった。思い出にと、バックパックについていた日本のおじそうさんのキーホルダーをあげた。

 いよいよバスが出発する時間だ。するとふとアージンが売店に走り、何かを買ってもどってきて、「はい、これ」と僕に渡してくれた。1枚のチョコレートだった。彼らは経済的には決して豊かではない。なのに心は私たち以上に豊かだ。

「なぜ、見ず知らずの自分に、そんなに親切にしてくれるのですか?」

 私は思わずたずねた。するとアージンはたしか、次のようなことを言ってくれた。

「ものをあげても死んでしまったら(天国に)持っていけない。でも、僕らの思い出は、天国に一緒に持っていくことができる。だから僕らは、僕らの思い出を一緒に天国に持っていって欲しいんだ」

 これを聞いて、どっと涙があふれてきた。彼らのやさしさや心遣い、そして一枚のチョコレート。物質世界にどっぷり浸かっていた私にとっては、彼らとの出会いは忘れられないものとなった。

 相手にモノをあげるのではなく、相手の心の記憶に残るような思い出をあげる。これは彼らの宗教観(ヒンズー教徒)からきているのかもしれないが、20年経ったいまでも強烈に覚えているということは、きっと天国へも一緒に持っていける最高のギフトに違いない。

 いま、私たちは日々の生活で、相手の心に一生残るような贈り物をしているだろうか。もちろん、モノではなく、目には見えない思いやりや、やさしさだ。講演などを通じて出会った人に、一生心に残るような「形のない贈り物」ができたらどんなに素敵だろう。初々しかった頃の自分を思い出させてくれる、なつかしいインドからのメールだった。

 ダージリン。死ぬ前にもう一度、いってみようかな・・・。

 今月の一言:相手が天国に持っていける贈り物をしよう。



<川村 透講師のコラム バックナンバー>

Vol.24 「何が私を変えたのか? 〜いまの自分で相手にウンと言わせる5つのヒント〜」

Vol.23 「コーチングで会話が変わる?」 

Vol.22 「可能性のドアをたたく」

Vol.21 「ワークショップで組織が生き返る!」 
 
Vol.20 「企画を通す喜び」 
Vol.19 「僕ってクレーマー?」
Vol.18 「倒れた父がはじめて見せた笑顔」
Vol.17 「人は変わらない」
Vol.16 「やると決めてからやる人、ただやる人」
Vol.15 「イアン・ソープの翻訳やらない?」
Vol.14 「こだわりがある人は、成功しない」
Vol.13 「人と自分を比べてしまうあなたへ」

Vol.12 「自分のプリンシプルを持つ」

Vol.11 「さあ何か、新しいこと始めよう」
 
Vol.10 「ALS患者から学んだこと」
Vol. 9 「コンプレックスは自分の原動力」
Vol. 8 「自分のものさしを持つ」
Vol. 7 「言葉があなたの人生を決める」
Vol. 6 「未来へ帰る」
Vol. 5 「小さく考える」
Vol. 4 「自分の論理よりその場の論理」
Vol. 3 「2つの悪い知らせ」
Vol. 2 「自信に根拠はいらない」
Vol. 1 「みなさんこんにちは。川村透です。」

 

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