|
Vol.34 「あと1回」
先日、出版関係者の人達が集まるパーティがありました。僕は、ある一冊の本を抱えて会場に入りました。翻訳書の数も増え、実績もついてきたものの、自分から本を持ち込むときの苦労は最初とまったく変わりません。本の出版は「出会い」ですから、それをおもしろいと思ってくれる編集者と出会うか出会わないかがすべてです。
■パーティで営業?
いつもなら、一社ごとに電話をかけて説明し、会いに行ってと手間ヒマかかるところなのですが、「これは千載一遇のチャンス!」と思った僕は「ここで何とか見つからないかな」と考えたのです。
開始から少し遅れて7時過ぎ頃会場に到着すると、かなり人でごった返していました。立食スタイルなので、知り合いや話し相手のいない人を見つけて、挨拶開始。
「はじめまして。御挨拶してよろしいですか」 そしてしばし世間話をしたあと、さりげなく
「いま、ちょうどこんな本を持ってるんですが・・・」と本の企画書と本を見せます。
「・・・とまあ、こんな内容で」
「はあ。なるほど」
皆さん一応はそう言ってくれますが、どこも反応はいまひとつ。結局5,6社の人に見せましたが、皆、食指が動くというほどではない様子。
「うーん、やっぱり無理かなあ」
■名刺がなくても・・・
会も終わりに近づき、人も減ってきました。私の中にだんだんあきらめムードがただよいはじめます。
「そろそろ帰ろう。その前に水割りをもう一杯」とドリンクバーのほうへ。
すると、そこに、手持ちぶさたの、一人の男性がたたずんでいたのです。もうダメ元で声をかける僕。
「こんばんは。あの・・・かわむらと言いまして・・・」
自分から挨拶をしておきながら、すでに名刺も底をついている始末。
「出版社の方ですか?」
御名刺をいただくと、とても切れ味のよい翻訳モノを出している某中堅出版社の編集部の方でした。しばらく世間話をしたあと、「御社は、こんな本はやらないですよね」と例の本を取り出し「これ、要はリーダーシップの寓話でして・・・」とすばやく内容を説明する私。
すると「フムフム・・・おもしろそうですね」と彼はまずまずの反応で、私の話を聞いてくれるのです。
幸い、企画書も1枚残っていたので「もしよかったらこれ、御渡ししときます。では」そう言って会場を後にしました。
コートを羽織り、帰ろうとエレベーターのボタンを押し、待っているそのとき「待てよ・・・ひょっとして財布の中に名刺が1枚・・・」あった!あわてて会場に戻り、「すいません!ありました」といって名刺を渡しました。(実は、企画書には私の連絡先は書いてありませんでしたので、彼からコンタクトをとる方法はなかったのです)
■もしあのとき・・・
翌日の朝、一本の電話が。相手はなんと、その名刺を渡したMさんです。
「Mです。昨日はどうも。あの本検討したいんで、送ってもらえますか?」
「はいっ、もちろんです。すぐお送りします」
結果はまだ出ていませんが、少なくとも興味を持ってもらえる編集者に出会ったわけです。それだけでも大きな前進です。
もしあのとき、ドリンクバーの前で声をかけなかったら。
もしあのとき、名刺を渡していなかったら。
僕にはパターンがあります。何かやりたいことがあるとき、勢い良く動くのですが、うまくいかない。何人かにあたっても反応が悪い。そこで少しエネルギーダウンして「やっぱりうまくいかないなあ。やめようかな・・・」と思う。「でも、あと一回やってみよう」と決めて動くと、思わず事態が展開したり、わかってくれる人に出会ったりするのです。
一冊目の本を出すときも同じでした。二〇社断られ「でもあと一社」――その行動が身を結んだのです。同じ出版社でも、担当者が違えば答が違い、タイミングが違えば答が違うもの。「あと一人」「あと一社」「あと一回」・・・そこが運命の分かれ道!
■あと1回の勇気
私は、いまでもたくさんのノーを受け取ります。でも、そのときにいつもあのパターンを思い出すと「あと一回やってみよう」と勇気が湧いてくるのです。人生を切り開いていくときは、かならず目の前に厚い壁が立ちはだかるもの。そこであきらめず、必ず「あと一回」ドアをノックする習慣を。
さあ、いまあきらめている企画、見込客、プロジェクトはありませんか?
| 今月のレッスン:「あと一人」――名刺が切れてもチャンスは切れない |
|