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川村透
川村透 講師プロフィール

「あなたは自分の力を
        信じていますか?」

川村 透(かわむら とおる)
川村透事務所 代表
・モチベーティブ・スピーカー
・翻訳家
・企画コンサルタント

 
Vol.50 人はアウトプットしないと変わらない

  この前、心療内科の先生と話して、面白いフレーズをキャッチしました。それは「人はアウトプットしないと変わらない」というものです。

実は、うちの母は以前、心療内科にかかっていました。家庭内の過度のストレス(父親との関係)が原因で統合失調症の疑いがあったのです。母の場合は、被害妄想の症状がでていました。過去に自分が少し疑われた経験があり、そのために外出すると、まわりの目が気になり、自分が追われている、疑われている、と思ってしまうのです。

うちの父と母は、ある時期、10年くらい、会話をしない時期がありました。その間、家庭内の会話はずっと筆談です。ふと電話台の横をみると、カレンダーや包装紙の裏に、相手に対する連絡事項や、思いのつらが走り書きしてあり、それを見てコミュニケーションする、そんな異常な家庭で、僕は育ちました。父は仕事だけに没頭し、家庭をほとんど顧みず、そして社長になりました。

いっぽう、母はなにか悩みがあっても、相談する相手もいない、家の中で会話もない、そんな中で、次第に被害妄想が広がってしまったのです。母に必要だったのは、ただ、自分の話を黙って聞いてくれる、わかってくれる、そんな相手だったのです。

皆さんは、被害妄想の人の話を聞いたことがありますか?

こういう人の対応は、すごく難しい。聞いているうちにこちらがいらいらしてしまい「そんな馬鹿なことあるわけないでしょ」と相手を説得しようとしてしまうからです。 たとえば、母は「自分は疑われている。自分がデパートに入ったとたんに、“スリ、置き引きにお気をつけくださいと”館内放送が流れる。これは自分を監視しているに違いない」 と本気で思っているのです。

それを聞いて、僕はその話を理屈で正そうとする。
「デパートはそんな暇じゃないよ」
「そんな、指名手配犯じゃあるまいし、どうやって監視するんだい?」
こういった会話を何度したことか。
いくらいっても「透はわかってない。知っているのは自分だけ」と一向に考えが変わらないのです。僕の懸命な説得に、その場は納得するように見えても、またしばらくして同じことを言い出すのです。僕はへとへとになってしまいました。

普段、僕は「もののみかた」をテーマに話をしているのですが、被害妄想ってまさに「もののみかた」の話。思い込みですよね。でも、その思い込みの中に、その人は生きていて、実際苦しんでいるのですから、本当にもののみかたって人の人生を左右するんですよ。

書店にいっても「被害妄想」について詳しく書かれた本はほとんどありません。病院で精神科、心療内科にかかっても、薬を出され、終わってしまう。何件も母を連れていきましたが、どこもダメでした。

万策尽き、僕は、ひょっとしたら、母には薬ではなく、じっくりと話を受け止めて聞いてくれる人が必要なのかもと感じはじめていました。そこで、ようやく、そういう診療、つまりカウンセリングをやってくれるところを見つけたのです。本当なら僕が話を聞いてあげればいいのですが、自分の母親だと、つい「いや、そうじゃないんだよ」と説得してしまって、ダメなんですね。

母はカウンセリングに月2回ほど、通いだしました。最初は、町に出るたびに「追われてる」と変なことを言い出すので、僕が車で送り迎えをしたり、タクシーで行くように言っていました。

しかし、通い始めて数ヶ月。最初は変なことを口走っていた母が、だんだん変なことを言わなくなってきたのです。先生に聞くと、最初はとにかく、一方的にずっとしゃべりまくっていたそうです。それは、いままでずっと誰にもわかってもらえなかった自分の話、ストーリーをやっと聞いてくれる人がいて、一気にまくしたてたのでしょう。

こんなとき、先生は、どれだけ話のつじつまが合わず、おかしくても、一切否定せず
「そう。大変でしたね」
「そんなこともあるんだねえ」
と聞く。ただ聞く。ひたすら聞く。そして、相手から何も出てこなくなってから「でもね、人生楽しいこともあるから、そっちも見ようよ」とそっと視点を変えるような提案をするんですね。

そうして、カウンセリングに通いだして約一年。最近はだいぶ母の様子も落ち着いてきたので、いったん打ち切りましょうということで、先日先生に会いに行きました。そして先生はこう言ってくれたのです。
「結局、お母さんは、誰も自分の心配ごとや悩みを相談する人がいなかったんだね。それで自分の頭の中でどんどん妄想が膨らみ、止まらなくなっちゃったんだね」
「人って動物は、アウトプットしないと変わらないんですよ。いくらインプットしてもダメですね」

 「人は、アウトプットしないと変わらない」――僕にはこの言葉の意味がズシンと心に響きました。
被害妄想の母に対し、僕は最初、一生懸命「そうじゃなくて、こうだよ」と説得しようとしたり、正しい「もののみかた」をインプットしようとしましたが、一向に症状は治らなかった。でも、母は自分で、自分なりのストーリーを語り尽くすことで、つまりアウトプットすることで、気持ちが落ち着き、症状が和らいできたのです。人ってまったく不思議です。

「人はアウトプットしないと変わらない」――本当にそう。

僕の吃音コンプレクスもそうでした。隠しているうちはダメだった。でも「自分が吃音でした」とカミングアウトすることで消えていきました。麻薬やアルコール中毒の人も、矯正施設に入って、みんなの前で「私は麻薬中毒です」とオープンに語ることから治療ははじまります。

そういった観点からコーチングをみると、とても道理に合っている。コーチングは「いかに相手から自発的にアウトプット(=行動)してもらうか」がポイントです。人は、いくらいいことをアドバイスされたり、本を読んだり、いい話を聞いても、自分から何かをしなければ、成果は上がりません。これもやっぱり「人はアウトプット」系を裏付ける事実ですね。

僕は、講演で「いまの私は十分」というメッセージをよく伝えます。人って自分が十分と思えないと、自分から何かをしようとしませんよね。「自分はまだまだ」って思うから、一生懸命吸収することだけにエネルギーを使ってしまい、自分からアクションを起こすタイミングがなかなかやってこない。

でも人生、勉強も大事ですが、自分からことを起こしたときに学ぶことのほうが、大きいし、エキサイティングでもあるのです。

なので、ぜひ、仮にでもいいから「いまの自分は十分だとしたら、何ができるか」を考えてみてください。どんなにいい話を聞いても、ダメですよ。自分から何かをアウトプットしなきゃ。

今月のメッセージ人はアウトプットしないと変わらない




<川村 透講師のコラム バックナンバー>

Vol.49 「最新現場レポート 〜実録<コーチングのススメ>」
Vol.48 「頑張ることより大切なもの」
Vol.47 「こうしてやりたいことを見つけた二人」 特別編
Vol.46 「やりたい仕事の見つけ方」
Vol.45 「ダイヤログ・イン・ザ・ダーク」
Vol.44 「<いい子>のままでいませんか?」
Vol.43 「本物に触れることの効用」
Vol.42 「犬の世界にもコーチング?」
Vol.41 「気働き」
 
Vol.40 「こだわるべきか否か?」
Vol.39 「コーチングにできること 〜あるミスをした運転士ととの会話」
Vol.38 「ゲームで仕事を斬ってみる」

Vol.37 「海に散ったウインドサーファー」

Vol.36 「これっておかしいんじゃない?」

Vol.35 「凶は吉なり」
Vol.34 「あと一回」
Vol.33 「いまに見てろ」
Vol.32 「裏返し」
Vol.31 「20年前の自分に出会う」
 
Vol.30 「ミスしたときこそチャンス!」
Vol.29 「自分をRe-framingしてみよう」
Vol.28 「上司をコーチングしてみませんか?」 〜逆コーチングのススメ〜
Vol.27 「いまから遅すぎることはない!」 〜50代に学ぶ「すがすがしさ」〜
Vol.26 「組織でうまく動けなかった自分」
Vol.25 「形のない贈り物」

Vol.24 「何が私を変えたのか? 〜いまの自分で相手にウンと言わせる5つのヒント〜」

Vol.23 「コーチングで会話が変わる?」 

Vol.22 「可能性のドアをたたく」

Vol.21 「ワークショップで組織が生き返る!」 
 
Vol.20 「企画を通す喜び」 
Vol.19 「僕ってクレーマー?」
Vol.18 「倒れた父がはじめて見せた笑顔」
Vol.17 「人は変わらない」
Vol.16 「やると決めてからやる人、ただやる人」
Vol.15 「イアン・ソープの翻訳やらない?」
Vol.14 「こだわりがある人は、成功しない」
Vol.13 「人と自分を比べてしまうあなたへ」

Vol.12 「自分のプリンシプルを持つ」

Vol.11 「さあ何か、新しいこと始めよう」
 
Vol.10 「ALS患者から学んだこと」
Vol. 9 「コンプレックスは自分の原動力」
Vol. 8 「自分のものさしを持つ」
Vol. 7 「言葉があなたの人生を決める」
Vol. 6 「未来へ帰る」
Vol. 5 「小さく考える」
Vol. 4 「自分の論理よりその場の論理」
Vol. 3 「2つの悪い知らせ」
Vol. 2 「自信に根拠はいらない」
Vol. 1 「みなさんこんにちは。川村透です。」

 

 

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