山崎 雅保のコラム「子育てカウンセリングレポート」
山崎 雅保(やまざき まさやす)
心理カウンセリングルーム「ハートピット」所長
心理セラピストとしてカウンセリングを担当する一方、親子問題、教育問題、更には心の健康に関する執筆活動や教育関連の団体での講演会を精力的に行う。講演は全国の教育関連担当者達の間でも好評。
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Vol. 3 『救われた幼児』
(2008年06月05日)
2歳半を過ぎたのに言葉が出ない幼児・Aちゃん。一人っ子。表情や行動を観察すれば、むしろ利発そうです。「アー。アー」と単音を出すばかりで言葉らしい言葉は発しないけれど、親が投げかける言葉は理解しています。
お母さんは30代半ば「抱っこを求められればいつでも応じることにしている」といいました。だからでしょう、体をあずけて甘えることはできている子です。甘えられていない子・甘えを許されていない子に観察される「ひねくれ」「スネ」「荒み」「粗暴」といった傾向はみられません。
利発であり母親に甘えられている、けれど言葉が出ない。お母さんの話を聞いていると、原因は家庭の状態にあることが分かりました。「テレビは起きてから寝るまでずっと点けてます。パソコンもけっこうやってるかな...。この子は○○ジロウ(幼児向けビデオ)が大好きだから、この子用のテレビも点いています」
私はたずねました。「たわむれたり、ふざけ合ったり、ごっこ遊びしたりは?」「なんかこの子って、私に抱っこしたりオンブしたりしてると、それだけで満足みたいだから、あんまりそういう遊びはしないかな...? あ、どちらかというと、そういう遊びは夫がしてくれてるかな...」
ところがさらに詳しく聞いていると、夫は常に携帯電話を手に持ち、その画面をのぞきキーを打ちながら、片手間で子どもと相手をしているのだと分かりました。
そうと分かれば対策は簡単です。
テレビを消す。お母さんがパソコン遊びをやめる。歌を唄って聞かせたり、手遊びしたり、ごっこ遊びをしたり、たくさん言葉を投げかけながら、お母さんと子どもとで心身を駆使して遊ぶ。そのようにしないまま3歳、4歳と経過したら、最悪の場合にはまったく言葉が出ない子になってしまう危険さえあるのだ、と、お母さんに伝えました。
その後はほぼ週に2回ずつのカウンセリングを重ねました。私は、お母さんと語り合いながら彼女の心の安定を深める手立てを探り、他方で親による丁寧な働きかけがあってこそ子どもの言語能力・コミュニケーション能力は発達するのだと、さまざまな方向から、多くの類似ケースをも例に引きながら伝え続けました。
同時に、Aちゃんは、お母さんがカウンセリングを受けてる時間に、同僚の女性カウンセラーと遊びました。手遊び。ごっこ遊び。オモチャ遊び。くすぐりごっこ。同僚カウンセラーは物の名ほかさまざまな言葉を投げかけながら、心身を尽くしてAちゃんと遊びました。その遊びの様子は、お母さんにもみてもらい、親子遊びのノウハウをも学んでもらいました。
カウンセリング開始から2か月ほどがたったころ、Aちゃんの様子が目にみえて変化し始めました。遊びの様子が豊かになり、表情も豊かになり、物の名を中心に言葉らしい言葉を発するようにもなりました。お母さんの話を聞いていれば、家庭でのお母さんの働きかけが豊かになっていることが分かりました。お父さんも携帯電話を持たずに遊びたわむれるようになってくれたようでした。
その後のAちゃんは、目を見張るほど順調に発達しました。カウンセリングのたびに言葉は増加し、ほどなく会話ができるようになり、遊びのパターンも複雑になりました。3歳以下だったから間に合った、いわばラッキーケースです。
忘れてはいけません。
子どもは、人間的な働きかけを得て、人間的なやり取りを豊かに体験することによってのみ「人間」へと成長するのです。親を中心とする大人たちによる手間暇かけた働きかけがなかったら、子どもは「人間」になれないまま、体のみが大きくなってしまうのです。