山崎 雅保のコラム「子育てカウンセリングレポート」
山崎 雅保(やまざき まさやす)
心理カウンセリングルーム「ハートピット」所長
心理セラピストとしてカウンセリングを担当する一方、親子問題、教育問題、更には心の健康に関する執筆活動や教育関連の団体での講演会を精力的に行う。講演は全国の教育関連担当者達の間でも好評。
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Vol. 8 『家族も経済も、破綻は再生の始まり』
(2008年11月05日)
ある老舗経済誌が次のようにタイトルした特集を組みました。
[「家族崩壊」/考え直しませんか? ニッポンの働き方]
私は某経済紙系の雑誌に連載記事を書き続ける中で感じてきました。
経済界にとっては家庭や家族の幸せは二の次三の次なのだな。経済の活況や利益の確保が最優先される中で、個人の幸せは事実上ないがしろにされてしまうのだ。そう感じ続けていただけに老舗経済誌の特集記事には驚きました。同時に喜びました。ああ、経済界にも「家族の再生」「人間性の回復」が急務であると気づいてくれている人々がいるのだ、と喜びました。
老舗雑誌が組んだ特集の内容は、新聞広告で以下のように紹介されていました。諸悪の根源は働き方/悲鳴を上げる日本の家族/仕事と育児が両立できない/子どもを不幸にする教育の商品化/問題は全てつながっている~長時間労働・少子化・非正規雇用・貧困/日本の長時間労働は先進国でも突出!etc...
まったくそのとおりです。これらの問題が、いまや日本に生きる多くの人々の心を極限のところにまで追い詰めていることを、私はカウンセリングの現場にいてヒシヒシと感じ続けてきました。もはや個人の工夫や努力ではどうにもならないところにまで、多くの日本人の心が追い詰められているのです。
家族を幸せにするのは高い収入ではありません。子どもの未来を豊かにするのも、学校の成績ではないし、学歴ではありません。高収入と高学歴の家庭では、とくに子ども達の生き辛さが根深くなってしまう傾向があります。
ある父親は、息子の不登校が家庭にもたらした混乱に対峙し続けたあげくに、文字通り「働き方」を変えました。それまでは会社の要求を可能なかぎり受け入れて従順に働いてきた彼は、以後、自身の事情と家庭の事情を大切にする、上司からみれば「忠誠心の薄い社員」へと変身してしまいました。その結果、以前は子どもに対してもきつい物言いしかできなかった父親だったのに、その後は「人間にはさまざまな生き方があるのだ。ゆっくり焦らずに自分の道を見出してゆけばよい」と語れる父親になりました。もちろん家族との和やかな時を大事に過ごせる父親にもなりました。
「収入は減りました。出世の可能性もなくなりました。けれど晴れ晴れと生きられるようになりました」
息子も学校に復帰して「俺の生き方」を模索し始めた今、彼は破綻に瀕していた夫婦関係の修復をも終えようとしています。『俺が働いて妻子を養ってやっている。誰のおかげで衣食住を満たされていると思ってるんだ。』かつての私は本気でそう思い、妻子を恫喝してさえいました。今になってみれば、恥ずかしくて穴に隠れたくなってしまうほどです」
彼の妻はいいます。
「以前は不機嫌を幾重もまとって生きているような夫でした。彼が家にいるとき、私も子ども達も、彼の不機嫌がキレて暴発しないことばかりを願って気遣っていました。必死に働いてお金を稼いでくれてる、生活を支えてくれているのだからしょうがないのだ、と思ってもいました」
けれど、しょうがないと思いながらも耐えがたい日々でした。だからいつだって、とくに息子の不登校で家庭が混乱してから以降はより深刻に「離婚」を考えずにいられない妻でした。
いまこの夫と妻は、とてもよく遊ぶ夫婦になりました。夫は「遠慮なく休暇を消化」して妻とも子どもとも「歓び」を共有できる、不機嫌はごく稀な、キレることもない人になりました。
「お酒を飲んでは不機嫌に沈むばかりだった夫でした。今の夫のお酒は安心。とても楽しくつきあえるお酒になりました」
私はカウンセラーという役割のおかげで数多く見聞きしてきました。子どもの不登校などの「心の不調」がきっかけとなって、生き方を劇的に変える親の姿と家族が再生されるまでのドラマを、数え切れないほど見聞きしてきました。
家族に何かが起こる。それは幸せを再構築するためのチャンスです。日本経済に起こっている混乱も「日本の幸せ」を再構築するチャンスに違いありません。