山崎 雅保のコラム「子育てカウンセリングレポート」
山崎 雅保(やまざき まさやす)
心理カウンセリングルーム「ハートピット」所長
心理セラピストとしてカウンセリングを担当する一方、親子問題、教育問題、更には心の健康に関する執筆活動や教育関連の団体での講演会を精力的に行う。講演は全国の教育関連担当者達の間でも好評。
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Vol. 10 『彼女が虐待した理由』
(2009年01月05日)
虐待に近い体罰を受けて育った春乃さん(仮名)は、初めて身ごもったときに強く誓いました。「私は決して子どもを叩かない。温かくゆったりと柔らかく、できるかぎりの愛を注いで育む」春乃さんは「あんなに強く繰り返した誓いなのだから、決して揺るぐはずはない」と信じました。
第一子長女誕生。春乃さんは「誓う必要なんかなかった」と思いました。愛しくてならないのです。こんなに愛しい柔らかな命を、何があったところで叩けるはずはないと思ったのです。
第二子次女誕生。長女は2歳。まだまだ幼い長女と眠る暇も与えてくれぬ乳児。春乃さんは、疲れ果てているにもかかわらず以前にも増して甘えてくる長女に「疎ましさ」を感じるようになりました。でも「我慢しなければ」と思い定めました。まだ2歳という甘え盛り。次女と同様に手間かけてあげたいとも思いました。
「夫は働かされすぎのサラリーマン。日々の子育てに夫の助けなんか期待できるはずがない。せめてママ友同士で愚痴り合えるのが救いでした」
けれどいくら愚痴っても心の中にはイラ立つ感情がふくらみ続けていました。夫に助けを求めても無理なのだと思いながら、それでも少しは配慮してほしい願いが、夫への不平不満として噴出するようにもなりました。
「そんな中、私は気づきました。長女が疎ましくてならなくなっていたんです。もしもこの子がいなければ次女の育児に専念できる。この子が邪魔だ。そんな思いにとらわれてしまっている自分に気づきました。驚いて打ち消そうとしたけれど無理でした」
それから間もなくのことでした。春乃さんは、長女を邪険に扱っていながら「この子が悪いのだから当然だ」と考えている自分に気づきました。次には不必要に叩いたあげく、泣いている長女に向かって「泣きやみなさい」と叩いてしまっている自分に気づきました。
「私はなんでこんなひどいことをしてしまっているのだろう。かわいそうなことをしてしまっている。そう思い、反省を重ねながら、けれど長女への不必要な攻撃をやめられませんでした」
第三子長男誕生。長女は6歳、次女は4歳。「あんなに激しくイラ立つ育児なんか、もう二度としたくない」と思って、次女との間に年数をあけての長男出産でした。
「それまでの二年間ほどは、長女も物わかりがよくなっていたので、私のイラ立ちも減っていたし、今度は大丈夫だと思っていました」春乃さんの思いは、今度もまた春乃さん自身によって裏切られてしまいました。長男が生まれて以後は、長女に対してだけでなく次女に対しても過剰な体罰や叱責をくり返すようになってしまったのです。
夫は、ずっと以前から「このまま見過ごしているわけにはゆかない。叩くだけではない。蹴りを入れることさえある。娘たちを攻撃しているときの妻は狂気の別人だ」と危機感を募らせていました。危機感のゆえにカウンセリングを求めてきた夫でした。ボクは彼の話を聞き終えてから伝えました。「奥さんに現れる"狂気の別人"を、彼女のインナーチャイルドだと理解するとよいですよ。現在の奥さんの意識は子ども達を愛そうとしている。愛したい慈しみたいと思えている。けれど彼女のインナーチャイルドがそれを許したくなくて暴れるんです」
インナーチャイルド。生育の歴史の中で傷ついたまま放置されている「子ども時代の感情」であり「傷ついたまま、子どものままの人格」です。
夫の来談からしばらくして自らカウンセリングに訪れてくれた春乃さんはいいました。「長女の髪を梳かしながら、私はいつもイラ立ちました。子ども時代の私は、母に髪を梳かしてもらえなかった。悲しかった。なのに私はこうしてこの子の髪を梳かしている。悔しい」春乃さんの中には、いつも次のような思いがうずき続けていたのです。
「私だってさんざん叩かれて分かったことがあるのだから、この子たちだって叩かれなくちゃ」
「私は我慢ばかりさせられていたのに、この子たちはなぜ我慢しようとしない」
「私だってもっと親に甘えたかった。この子たちは、何かというと私に甘えるスキをねらっている。ズルい」
春乃さんは、子どもを叩いてはいけないと思い詰めていました。しかし彼女の中の深いところから湧き上がる衝動、すなわちインナーチャイルドの嘆きが、彼女の手をもって子どもたちに虐待を加えてしまっていたのです。
ボクはそのように想定して、その後の彼女のカウンセリングを展開しました。つまりインナーチャイルドをケアすること、彼女の子ども時代をたどって、彼女の中に放置されていた傷ついた子どもの心を育てなおす道のりを、彼女に歩んでもらいました。
カウンセリング開始からほぼ3年後。春乃さんの虐待傾向は解消していました。長女と次女は、それまでの渇きを補うかのように母親に甘えるようになってしました。春乃さんは、少しばかりのうずきをヤリクリしながら、子ども達三人を、存分にいやさしく柔らかく甘えさせられる母親になりました。
インナーチャイルドをケアする手立て=インナーチャイルドワークの実際については、次回に記させていただきます。