山崎 雅保のコラム「子育てカウンセリングレポート」
山崎 雅保(やまざき まさやす)
心理カウンセリングルーム「ハートピット」所長
心理セラピストとしてカウンセリングを担当する一方、親子問題、教育問題、更には心の健康に関する執筆活動や教育関連の団体での講演会を精力的に行う。講演は全国の教育関連担当者達の間でも好評。
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Vol. 12 『「過去の自分」との文通』
(2009年03月05日)
今回は、前回・前々回に紹介させていただいた「インナーチャイルドワーク」についての続きです。前回・前々回を読まれてない方は、この稿を読む前に、さかのぼって読んでいただくのがよいと思います。
インナーチャイルドワークとは「子ども時代に傷つけられたままの心の部分」をメンテナンスする作業です。ごく一般的には「心を癒す」といった表現がされがちですが、ボクは「癒す」よりも「修繕する」感覚に近いと感じているので「メンテナンス」という表現を選びます。またインナーチャイルドワークは、ときとしてとても厳しい状況にも直面しますから、その意味でも「癒し」に類する曖昧な言葉はそぐわないと、ボクは感じています。
インナーチャイルドワーク=「子ども時代に傷つけられたままの心の部分のメンテナンス」をするときに、もっとも試しやすい手軽な方法は「文通」です。
たとえば、あなたは幼児期のどこかで「母親に怒鳴られ叩かれた記憶」をしばしば思い出すとします。この場合は「母親に怒鳴られ叩かれたときの感情」、おそらくは「怖れ憔悴し、無力感に打ちひしがれている感情」こそが、その出来事の結果「過去に傷ついたまま取り残されたインナーチャイルド」です。しばしば思い出す情景や、そのときによみがえる感情は、過去になっていない「いまだ未解決の出来事」とみることが可能です。
そのようなインナーチャイルドは、現在のあなたの思考や感情や行動に強く深刻な影響を与えている場合が少なくありません。それが、生き辛さ・悩み・不幸感の根源である場合さえあります。
そこで、そのような「不都合な残像」を整理する手立てとして、今現在のあなたが、幼児期の傷つけられたあなたに手紙を書きます。その場面を思い出しながら、そのときの自分の感情や心に寄り添いながら、たとえば次のようなメッセージを記します。
「○歳の◎◎へ。大人の◎◎より。
あのときはお母さんにひどく怒鳴られたね。お母さんはあなたを叩いたね。
悲しくて痛くて、辛かったね。たしかにお母さんのいうことをきかなかったかもしれないけれど、あんなに責められて、無力感に追い落とされる必要はなかったね。
ああいうとき、子どもは親に怒鳴られる必要はないんだよ。まして叩かれる必要はない。穏やかに諭されて"分かった。ごめんなさい"と返せるなら、それで十分なんだよ。
大人になった私は、いつも○さいの◎◎の味方だからね。あなたが勇気をもって立ち上がろうとするとき、いつも見守っているから。お母さんがひどい怒りを向けるときには、しっかり反発していいんだよ」
このような文を、手紙の形でもよいし、交換日記の形でもよいし、あるいは子ども時代の自分のためにEメールアドレスを設定して送信する形でもよいから、送ります。そのとき、子どもにも読みやすいように漢字をなるべく使わないといった配慮も有効です。
次には、しばらくの間をおいてから、その出来事があった場面の子ども時代にもどった気分で、大人の自分から届いたメッセージを読み味わいます。大人の自分が子どもである自分の味方でいてくれる。お母さんから受ける過剰な攻撃から守ろうとしてくれている。そんな意識を持ちながら、届いたメッセージを味わうのです。
それから、子どもの自分の気分で大人の自分への返事を書きます。このときには「子どもらしい拙い感情」を味わいやすいように、利き手ではないほうの手で書く、または利き手ではないほうの手の指一本でキーボードを打つといった演出も有効です。
お気づきの方もあるでしょうね。これは一種の「ごっこ遊び」です。しかし子ども時代の「ごっこ遊び」が子どもの心理発達に多大な影響を与えるのと同様に、このインナーチャイルドワークという「ごっこ遊び」は、人の心に大きな変化をもたらし得ます。少なからぬ場合に、意識の奥底にあってネガティブな影響を与えていた感情を動かし、人の情動を支配する深層意識に大変動をもたらすことにもなります。
興味がある方は、モノは試しの気分で体験してみてください。文通を数回重ねたころには、忘れていたことを思い出したり、感受性が変化したりといった「意識の変動」を自覚できるようにもなるはずです。
私のカウンセリングを受けてくださるクライアントさんの中には、この文通形式を中心としたインナーチャイルドワークを重ねる方が少なくありません。継続的に重ねている方は、ご自身も想定しなかったほどの劇的な心的変化を体験しています。
ただし注意も必要です。とくに、過去に、大きなトラウマ(心の傷)を負っている場合には、必ず、インナーチャイルドワークに詳しい、誠実なスーパーバイザーのサポートを得るようにしてください。インナーチャイルドワークは「人の歴史」にメスを入れる企てでもあるからです。
人生を悲嘆する人々はしばしばいいます。「私の歴史は変えられない」と。
けれど心理カウンセラーという仕事を通じてボクは実感してきました。インナーチャイルドワークを活用するようになって、さらに強く実感させられています。
人の歴史は変えられます。心の歴史は、大きく変えることができるのです。
なぜかって? 人の心は「時空を超えるタイムマシーン」だからです。