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第5回 運命の日
Part 2
「やっべぇ〜 ひぇ〜 恥ずかしいぃ〜」真っ先に浮かんだのはその思いです。当時、新聞の下馬評で「優勝は濱宮間違い無し」と書かれていて、皆がそれを読んでいたのです。で、その影響は大きく、結構皆さん私を知っていたのです。「とにかく、早く立たなきゃ。」 そう思い立とうととしました。すると・・・「アレっ!立てない、うっ動かない・・・」私の身体は意志とは別に全く動かないのです。
身動き一つしない私を心配そうに、近くにいた関係者達が寄って来ました。そして、その中の一人が私に聞きます。「大丈夫か?立てるか?」いつまでも横たわる私のことを心配してくれたのでしょう。「いえ、立てません。」私はそう応えました。周囲の人たちの顔色が段々と険しくなっていき、そして、今度は右手を持ち上げられました。「手はあがるか?」 と聞かれ、私が手を上げようとした瞬間、その手を離されました。すると、私の右手は、まるで意志を持たない人形のように「すとん」と垂れ下がってしまったのです。その時、初めて気づいたのです。(手も動かない・・・)墜落する前まで自分の意志で自由に動いていた自分の手が動かなくなっている・・・。そして、私はその瞬間から生まれ変わったのです。長い苦難の始まり、そう、重度障害者という第二の人生が始まったのです。
「救急車!救急車を呼べ!」誰かが叫んでいます。鎮痛なムードが漂います。「さっ寒い・・・」 私はそう呟きました。 どんどんと身体が冷えていきます。「ピーポーピーポー」 遠くから救急車の音が近づいてきます。「ピーポーピーポー」 私を迎えに段々と近づいてきています。普段、何気なく聞きなれている救急車の音も当事者になると、とても緊張と不安、そして恐怖を感じます。救急隊員が降りて来ました。「立てますか?」そう聞かれました。「いえ立てません・・・」もう、隊員の方達は分かっていたのですね。すぐに首を固定する担架が出されました。
救急車の側に後輩達が心配そうに近づいてきます。「大丈夫だよ!俺は必ず午後には戻ってくる!必ず戻ってくるからそれまでパスをしておいてくれ!」県記録や雑誌、新聞に載っていたので棒高跳びでは後輩からの絶大なる信頼がありました。「県で濱さんにかなう奴はいない。」ある意味自慢の先輩のようでした。後輩の言動や行動でそれが感じ取れます。私はそんな後輩を動揺させぬように必死でした。「俺は大丈夫だ!必ず戻るから心配するな!」私はそう言い残すと、救急車へ乗せられました。救急車に乗るのはこれで2度目。 父が死んだ日、そして、私の身体が死んだ今回。そう、2度とも私の人生を左右する運命の日でした。
「ピーポーピーポー」救急車は走り出しました。「脊髄損傷のおそれあり」隊員が無線で病院と連絡をとっています。(んっ!?なっなに、脊髄損傷!?)私は脊髄損傷という言葉を知っていました。(えっ、歩けなくなるのか!?)朦朧とする意識の中、そんな不安が脳裏をよぎります。(そんなことあるものか!)頭の中でかき消します。不安と恐怖が同時に私に襲い掛かりました。今までに感じたことのない不安と恐怖です。
どのくらい走ったのでしょう。やけに長く感じました。病院へ着くとすぐに救急室へ運ばれました。「濱宮さん!濱宮さん。意識は分かりますか?」看護婦が言います。「はっはい」私は答えます。看護婦は鋏を持ち出し、「濱宮さん、シャツを切りますよ。良いですか?」そう尋ねて来ました。「えっ あっ はい」私は治したい一心でとっさに答え、しかし、心の中では(えっ!?ちょっちょっと待ってよ!おい!こっこれ 今朝おろしたてのシャツだよ。高かったのにぃ)でした。今日のこの日のためにお小遣いを貯めてやっと買ったTシャツです。「今日は絶対に全国高校記録で優勝して新聞に載ってやる!」そんな意気込みがこもっTシャツでした。(でもなぁ。治さないと試合に戻れないからなぁ。)動揺する気持ちを一生懸命静めていました。すっ、すると・・・
「濱宮さん、下も切りますよ。」と容赦の無い看護婦の声。(えっ!?ちょっちょっと待ってよ。えっ!ほっ本当?)18才の少年には屈辱的な・・・。と、そう思いながらも、素直に「はい」と答えていました。「ジョギジョギジョギ・・・」パンツを切られ、すっぽんポンの全裸にされました。すっぽんポンですよ。朦朧とする意識の中、瀕死の重体で全裸にされながら変なことを思い出していました。それは、高校の仲間と飲み会をした時です。高校2年生の時です。もう、時効だから良いですね。投てきにN君という子がいたのです。で、彼が酔いつぶれてしまいまして・・。私はヤンチャな男の子でしたから、その子のパンツをそぉ〜と脱がしたのです。そして、青のマジックで象さんの絵を画いたのです。象さんの絵ですよ。ピッタリでしょ。で、頭の中にその時の事が思い出され・・・あの時、彼が事故に遇っていたら・・・って。
「Nさん、Nさんパンツ切りますよ。良いですねぇ。」と、看護婦。「ジョギジョギジョギ・・・」 パッと看護婦がパンツを脱がすと・・・「先生、先生!たっ大変です! ぞっぞっ象さんが・・・ 象さんがいます!」「なっ なにぃ〜! 象!」とドクターが失神を・・・ なんてことあるわけ無いでしょ。そんな、くだらない事ばかり想像していました。自分が朦朧としているのにねぇ。そんな私です。
ドクターが来て、針を持ち出しました。(何をするのだろう?)すると、その針をつま先から刺し出すのです。「痛いですか? 感じますか?」とドクターは尋ねます。「いえ、感じません。」 つま先・・足・・腿・・胸・・と胸の方へ針を移動させます。「痛いっ!」針が胸にくると感覚が甦ります。マジックで線を引かれました。どうやら、脇と脇を結んだライン上の所が境界線のようです。ドクターは次に筆を持ち出しました。針と同じようにつま先から胸へと移動させます。「くすぐったいですか?」やはり、マジックで線を引いた胸のところで感覚が甦りました。それ以外の治療という治療はありませんでした。私は「絶対安静」ということで別室へ運ばれました。
朦朧とする意識の中、しばらくすると周囲が騒がしくなり、目を覚まします。すると、チームメイトがベッドを囲んでいます。その中の独り淋しそうな声で呟きます。「試合・・・終わっちゃったよ」彼のせいでは無いのにやけに申し訳なさそうな声でした。「そうかぁ・・・終わっちゃったか・・・」私は呟きました。
虚しくその言葉が病室に響きます。県大会で6位にならないと関東大会へ行けません。関東大会で6位に入らないとインターハイへ行けません。そして、インターハイで活躍すると高校生日本代表で海外遠征へ行けるのです。私はこの日本代表のために必死に練習してきたのです。それが、一瞬の出来事で全て無くなりました。(俺は何の為にここまで頑張ってきたのだろう・・)虚脱感だけが心に残りました。
翌日、同じ姿勢でつらいので寝返りをしようと目がさめます。とはいえ、40度の高熱の為、一晩中、「ウトウト・・」状態で寝るに寝られていません。「うぉぉぉぉぉぉ」気が狂いそうです。身体を動かしたくても、動かない。目しか動きません。一生懸命頭の中で落ち着こうとします。しかし、現実なんです。今、自分に起きている事は夢ではないんです。気が狂いそうです。(つらい・・・)私はいつしか大声で看護婦を呼んでいました。
「看護婦さ〜ん!」看護婦はすぐに駆けつけてくれ、手を握り締めてくれました。「濱宮くん、大丈夫! 頑張ろうね。」手を握り色々な話をてくれました。他愛も無い会話ですが、みるみると心は落ち着いてきました。看護婦というのはあり難いものですね。今でも、その看護婦さんに感謝しています。これをお読みの看護婦を目指している方、現役の看護師の皆さん、あなたの他愛も無い会話が患者を救ってくれることを知っておいてくださいね。
診察の時間になり、ドクターが来ました。「濱宮くん、頭に穴を開けるよ」 そういうと、麻酔を用意させ、こめかみ近くに打ち始めました。そして、ドクターはドリルのようなもの持ち出し、私の頭に穴を開けだしたのです・・・。
つづく
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