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「負けてたまるか!」

濱宮 郷詞(はまみや さとし)

福祉講演

 この度、「講演依頼ドットコム」さんのご好意により、コラムを掲載させて頂くことになりました濱宮郷詞と言います。末永くよろしくお願い申し上げます。と言いつつ、実際コラムと言っても何を書けばよいのか。文才の無い私は戸惑いを感じながら書いている次第でありまして、…恐縮しているというのが現実です。結局、何を書こうかと考えたところ、講演で話しているお話を含め、自分自身が車椅子生活になってしまい色々体験した事をここに書かせてもらおうと思います。それが私を知ってもらうことの一番近道だと思います。そして、読んで頂いている中で、きっと何かを感じてもらえると思います。文才無く読みづらいかも知れませんが皆さんお付き合いください。

第6回 絶対安静

  ドクターは容赦なく頭にドリルを当てます。「ゴリゴリゴリ」 麻酔が完全に効いていないので少し痛みがありました。そして、耳元なので妙に音が響きます。

「ゴリゴリゴリ・・・」

次に、ドクター金具を用意させました。私にはよく見えないのですが「氷を挟むような鋏」のようなイメージがありました。その金具をドリルで開けた穴に差し込みます。そして、締め付けます。

「メキメキメキっ・・・」

私の頭が悲鳴をあげます。今にも「グシャっ」と潰れてしまいそうです。それはとてもとても不快な音でした。

どのくらいかかったのでしょう。おそらく、5分程度で終わったと思います。たった5分ですが耳元と頭には不快な音が響き、そして、締め付けた金具の先には5キログラムの錘を下げられ、腕には昨日から24時間の点滴が入っています。

「どう?大丈夫?」ドクターが尋ねます。 意識だけははっきりしていたので、
「大丈夫です。もう終わったんですか?」と逆に尋ねました。
「もう、終わったよ。何かあったら看護婦さんに言ってね。」そういい残しドクターは病室を出て行きました。

腕には24時間点滴が入っています。しかし、腕に感覚がないので針の入っている痛みもありません。勤務交代の時間になるとかわるがわる看護婦が来て、点滴を確認し挨拶をしてくれます。
「濱宮くん、看護婦の★★★です。よろしくね。」
目しか動かすことの出来ない私に覗きこんで挨拶をしてくれます。40度以上の高熱で朦朧となりながらも私は挨拶を返しました。「よろしくお願い致します。」と・・・。

夜になりました。初めての入院と身動きできない身体で不安と恐怖が襲い掛かります。私は独りぼっちになる恐怖から逃れる為に特別にラジオを付けてもらい、熱く苦しくとても寝苦しい日々が続きました。つらく、苦しく、また、日本代表という夢を一瞬にして失ったことの悔しさで涙がこぼれます。

涙が頬を伝い耳に流れていくのです。そして、頭の裏へと流れていきます。涙が乾くとその流れた部分が痒くなります。しかし、身動きの出来ない私は痒くても頬をかく事が出来ませんでした。そして、流れ落ちた涙は容赦なく頭の後ろに流れ、冷たくなっていきます。その度に看護婦を呼び、涙を拭いもらい、流れ落ちた涙と長時間圧迫して痒みが出てきた頭の後ろを拭いてもらいました。頭の後ろと言っても頭も動かすことが出来ないので、裏の部分はかく事が出来ません。

看護婦が頭と枕の隙間に割り箸(のようなもの?)にガーゼを巻いて、アルコールを付けて拭こうとしてくれます。一生懸命拭こうとしてくれるのですが、隙間もなくいっこうに痒いところへは届きません。痒みはそのままにしておくと痛みに変わります。そして、床ずれになるのです。床ずれになったら大変なことです。そこが腐るということですから。

看護婦は一生懸命何回もトライしてくれました。
「ここ?」看護婦が尋ねます。
「違います。もう少し、奥、あっもっと右」と、中々痒みの部分には届きません。しばらく、看護婦とのやり取りが続きます。

「あっ取れちゃった。」看護婦が呟きました。先に付いていたガーゼがとれてしまい、頭の下に残ってしまいました。「ごめんなさいね。」看護婦はそう言いつつ、隙間に手を入れ、取ろうとしてくれます。首は絶対安静。頭は枕に密着していて手の入る隙間もありません。看護婦も私も緊張しながら時を過します。

「あっ取れた!」看護婦が頭の下に残されたガーゼを無事救出しました。
再び看護婦は痒みの部分にトライしてくれます。
「あっ そこ、そこ。」やっと、痒い部分に届く事ができました。
「あぁ〜気持ちいい」
痛痒く、とても心地よく、思わず口からこぼれました。すると、看護婦は
「濱宮君、もっと我がまま言っていいのよ。他の人なんか、もっと泣き叫んでいるわよ。濱宮君って、我慢強いのね。」
そう言い残し病室を出て行きました。(強いか・・・そんなことないよ。)私は心の中でつぶきました。

入院をして、3日目位の事でしょうか。とても、奇妙な経験をしました。熱も続き寝苦しく、夜中に目を覚ましたのです。すると、何か部屋の中が奇妙なんです。白い靄がかかったような・・。すると、なっなんと、隣に白い着物を身につけた女性が横たわっていたのです。「えっ!?ここはどこ?新手の風俗?!」(なんて、そんな事思うわけありません。高校生ですから。)私は「ギョっ」とし唯一動かせる目を見開き隣を見ようとしましたが、目の玉の動く範囲には限界があり良く見えません。しかし、そこには確かに女性が横たわっていたのです。(なっ なんでぇ? ここは個室のはずなのにぃ)私はそう思いました。女性は身動き一つしません。

奇妙な雰囲気と女性。あれは一体なんだったのでしょう。今思い出しても、不思議です。きっと、あの女性が起き上がり、私の手を取り、手を引かれ、連れて行かれたら、私は死んでいたのではないでしょうか。絶対安静時の不思議な夜の出来事でした。

神奈川県藤沢市の善行という所にあるグランドで怪我をしたので、一番近い藤沢市民病院へ運ばれ、3週間程入院をしました。最初の3日間は24時間点滴の絶対安静。手足は全く動かず、かろうじて目の玉だけが動く程度でした。

頬を流れ落ちる涙も拭く事も出来ない状態でしたが、少しずつ左手が動き始めました。と言っても、かすかに動く程度で、動いているとは言えません。しかし、人間の身体はすごいもので、日一日と動き始め回復へ向かいました。5日目位でしょうか、やっとの思いで頬を伝い流れる涙を拭く事ができました。

1週間が過ぎ、10日経ち、そして2週間。しかし、私の身体はそれ以上動くことはありませんでした。ある日、私はお見舞いに来た両親に言いました。
「ねぇ〜 歩けなくなるなら言ってくれよ。」 季節は6月、春から夏へと向かう蒸し暑い梅雨の日でした。

つづく


<濱宮 郷詞講師のコラム バックナンバー>

第 5回 運命の日 Part2
第 4回 運命の日
第 3回 母子家庭
第 2回 父の死
第 1回 私は死にました
 
 

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