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「負けてたまるか!」

濱宮 郷詞(はまみや さとし)

福祉講演

 この度、「講演依頼ドットコム」さんのご好意により、コラムを掲載させて頂くことになりました濱宮郷詞と言います。末永くよろしくお願い申し上げます。と言いつつ、実際コラムと言っても何を書けばよいのか。文才の無い私は戸惑いを感じながら書いている次第でありまして、…恐縮しているというのが現実です。結局、何を書こうかと考えたところ、講演で話しているお話を含め、自分自身が車椅子生活になってしまい色々体験した事をここに書かせてもらおうと思います。それが私を知ってもらうことの一番近道だと思います。そして、読んで頂いている中で、きっと何かを感じてもらえると思います。文才無く読みづらいかも知れませんが皆さんお付き合いください。

第7回 告知

 運ばれてから3週間が経ちました。季節は春から夏へ移りつつあります。病室の中も蒸し暑く、高熱の私には更に熱く感じます。窓からは初夏を思わせるまぶしい日差し。そんな中、ラジオからはいつものように楽しそうな声が聞こえます。「皆さんおはようございます!お元気ですか?」(元気か・・・元気じゃないよ。) 私は怪我をしてからその言葉を聴くと毎日そうつぶやいていました。

 病室に独りで寝ていると時間が長くて、しかも寝たきりで何も出来ない私にはお見舞いの時間が待ち遠しいものでした。毎日、午後1時になると母親がやってきます。面会の時間です。それが母親の日課になってしまいました。「今日はマンゴを持ってきたよ」そのひと言には、親の愛を感じます。少しでも私の好きな物を食べさせ回復の方向へ向かえばと、親の願いがこもっていました。親も我が子可愛さに必死の事だったのでしょう。怪我をしてから3週間が経ち、怪我の経過に進展が見られない為、私は母親に訊いてみました。「ねぇ、俺、もう歩けないのかなぁ?」突然の質問に母は慌てるそぶりも無く「そんな事無いわよ」そう答えてくれました。「ねぇ、もし・・、もしも、歩けなくなるなら言ってくれよ」 そう母親に頼みました。「わかったわよ・・・」 母は、そう答えると持って来てくれたマンゴを私の口に運んでくれました。季節は春から夏へと向かう梅雨のはしりの出来事でした。

 「濱宮くん、君の怪我は一日でも早くリハビリを始めた方が良いいんだ。もう少したらリハビリテーション専門の病院に移れるからね。よかったね。」ドクターは早期にリハビリを開始する事を進めました。今までのリハビリというのは、午後3時頃、理学療法士が来て関節が固まらないように手足を動かしてもらう程度のものしか出来ませんでした。病室に独りぼっちで不安を抱えていた私にはその時間が待ち遠しく、いつも心待ちしていました。いつものように手足を動かしてもらいながら、私は言いました。「先生!俺、リハビリ専門の病院へ行けるんだって!早く歩けるようにリハビリ頑張るよ!」 今、思えば虚しいあがきでした。18才の男の子の虚しい願いです。そして、その日、車椅子生活という第2の人生が始まる神奈川リハビリテーションセンターへの転院が決まりました。

昭和56年6月11日
 「今日は良い天気だぞ!」陸上部の顧問の先生が朝早く同僚のH先生を連れて来てくれました。そうです。とうとう今日は転院の日です。9時30分に出発です。朝から私の病室の周りだけがなんとなく慌しさを感じます。「濱宮くん、おはよう!」 看護婦達がベッドの周りに来てくれました。「頑張ってね」 看護婦達の最後の挨拶です。「リハビリ大変だけど頑張って!」 非番の看護婦もわざわざ駆けつけてくれました。「ありがとう!俺、頑張るよ!」 本当は手を振りたいのだけれど手が動きません。「皆さん!ありがとう。治ったら必ず挨拶に来るからね。」 私は精一杯、心の中で叫びました。これから来る試練の連続を知るよしも無い私の心は希望で溢れていました。

 「さぁ じゃあ 頭の錘を外すよ」 穴が開けられた頭の先には5kgの錘が吊るされています。頭に穴を開けて錘を吊るす「頭蓋牽引」ってやつです。ドクターはゆっくりと金具の先の錘だけを外します。「はい いいよ!」 錘だけが外され、頭には金具だけが残りました。「じゃぁ 濱宮くん、リハビリ頑張るんだよ。」 ストレッチャーに乗せられ、車に運ばれました。上を向いたままなのでなんの車に乗せられたのかも分かりません。車はゆっくりと走り出します。H先生が私の顔のすぐ近くに座り、首の安定を確認しながら私と話をしてくれます。車は最新の注意をはらいながらゆっくりと進みます。首だけは固定されているのですが色々なことが脳裏をよぎります。「先生このままぶつけられたらどうしよう。せっかく治って来たのに揺れでまた折れないかなぁ」 など不安だらけです。H先生は気を紛らわすよう、又、勇気付けるよう応対してくれました。

 どれくらいの時間がかかったのでしょう。H先生のおかげで私も気がまぎれ、無事神奈川リハビリテーションセンターへ到着しました。皆、降りて行きました。H先生が伸びをしながらいいます。「濱宮、良い天気だ、景色もきれいでいい所だぞ! リハビリ頑張れよ。」「はい!」 私はそう返事をし、心の中で誓いました。「絶対に治ってみせる!」と。

 しばらくて、私がストレッチャーの間々、外に出され病室に運ばれます。目だけしか動かすことが出来ず、上を向いたままの格好の私には、天井のライトしか見えず、いくつもいくつも、そのライトだけが目の前を通り過ぎていきます。廊下の継ぎ目の少しの段差がストレッチャーに響きます。首に影響しないかヒヤヒヤでした。そして、ライトをいくつ数えたことでしょう。やがて、私はひとつの病室に運ばれ、ドクターと看護婦の数人がかりでベッドに移され、再び頭に5kgの錘をぶら下げられました。

 しばらくすると、ドクターが代わる代わる来ては自己紹介をしてくれます。「こんにちは、泌尿器科のIです。」 何故かその先生の挨拶だけが頭に残りました。看護婦も代わる代わる挨拶をしてくれます。その中で、一人の看護婦が言いました。「こんにちはぁぁ、看護婦の亀田ですぅ。」おっとりとした宮崎弁の看護婦でした。私に微笑みながら、「死にそうな時しかナースコール押しちゃダメよぉぉ」そういい残すと、病室から出て行きました。

(しっ、死にそうまでぇ? うっ、噂では聞いていたけど、すっ、すげぇ厳しい病院だなぁ・・・)
実は、前の病院の看護婦に「すごい厳しい病院らしいわよ」と言われていて覚悟はしていたのですが、ここまで厳しいとは思いませんでした。(後日談ですが、その看護婦は冗談のつもりでいったそうです。(~_~;) )

 すぐに治療が始まりました。まずはおしっこを出すためにペニスに入れられていた管が外されました。そして、手を軽く握り、握りこぶしを作り、膀胱の位置のお腹を叩きます。おしっこを出すためです。「ポンポンポンポン・・・」 お腹を叩く音がリズミカルに響きます。そして、こぶしで膀胱部を押すのです。「出ないねぇ〜」 ドクターが言います。「ポンポンポンポン・・・」 おいしいスイカを見分けている時の音に似ています。そうとう、張っていたのでしょう。膀胱部を押します。「ジョー」勢いのいい排尿の音です。「出た出た!溜まっていたねえ。」 看護婦が言います。そして、尿瓶をライトに照らしながら色や量を確認します。すると、ドクターが 「んっ!?砂が出ているなぁ」 そう呟きました。何故か尿に砂が混ざっているのです。あまり、いい事ではなさそうな声です。「まっ しばらく、様子をみよう!」そう言うと、看護婦に何やら指示して、処置の用意をさせています。すると、なんと、ペニスを消毒し、先から管を入れて残りの尿を出し始めたのです。どうやら、膀胱のすべての尿を出さねばならないようです。長い時間、膀胱内に尿があると雑菌が繁殖し、そして、それが腎臓に周ると命にかかわるそうです。管を入れ、すべての尿を出し終わるとドクターと看護婦は病室を出て行き、消毒液で茶色くなった陰部をコンパさんが綺麗に拭いてくれました。なんとも言えない恥ずかしさと屈辱的な時間です。(もっもっと若いコンパさんなら・・・なんてね(~_~;) )

 次の日の午後なると、母親と姉がお見舞に来てくれました。転院したばかりなので、二人は私の部屋の片付けをしに来てくれたのです。しばらく、片付けをしてくれていました。すると、そんなところへ整形外科のドクターが来ました。「濱宮くん、こんにちは、主治医のHです。」 どうやら私の主治医のようです。五部刈り頭の先生です。しばらく手を取り色々と検査をしてくれました。検査も終わりドクターが病室から立ち去ろうとし、その前に一言いいました。「あのねぇ、濱宮くん、君もう歩けないからね! でもさ、リハビリ頑張ればなんとか生活はできるからさ 頑張ろうな」その言葉と共に堰を切ったように母親と姉が泣き叫びました。 「な!なっ!なんで言っちゃうんですかぁぁぁぁぁ!」

つづく


<濱宮 郷詞講師のコラム バックナンバー>

第 6回 絶対安静
第 5回 運命の日 Part2
第 4回 運命の日
第 3回 母子家庭
第 2回 父の死
第 1回 私は死にました
 
 

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