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Vol.17
堂々と客に啖呵を切る魚屋の「交渉の技術」
魚屋で働いている人は、どこの店に行っても元気ハツラツである。
私は、これまで様々な街で魚屋の有様を見てきたが、どの街へ行っても魚屋はすこぶる元気がいい。
外の天気が雨であろうと曇りであろうと、
魚屋は常に大きな声でその日のお買い得の魚を通りがかりの人に勧める。
「奥さん、今日はいいカツオが入ったよ!」
という具合である。その日の夕食に魚を食べたいと思っている人がそこを通れば、
「だったら、買ってみよう!」という気持ちになるが、晩はステーキにしようと思案しているならば、魚屋にそう言われてもあっさりと断るのが普通だ。
そんな時、やる気満々で、威勢のいい魚屋であれば、「こんなイキのいいカツオを買わないんだったら、またいいカツオが入っても奥さんにはもう声を掛けないよ!」と啖呵を切る魚屋もいる。もちろん言い方にもよるが、普通、地元の商店街で商売をやっている人でなければ、客に向かってこのような啖呵など切れるものではない。
例えば、一般企業の社員であるならば、「こんなにいい条件を出しているのに、うちと契約を結ばないんだったら、お宅とはもう付き合わないよ!」などとは口が裂けても言えない言葉である。一般企業の場合、ビジネスをしようとする相手がどんな対応をしようとも、とにかく丁寧にコミュニケートしようと心掛けるのが普通である。そして、このことは、ビジネス社会で生きる者としての最低限のコモンセンスでもあるわけだ。
言うまでもなく、企業同士の取引においては、事あるたびに喧嘩していたのでは決して仕事にはならない。通常、「頭を下げてなんぼ」と考えるのが日本のビジネス社会における常識である。
ところが、魚屋の場合は、この考え方とは全く異なる発想法が通用してしまうのだ。
魚屋は、元気良く客に接すれば接するほど、"客の人気者"になれる仕事である。
日本では、「魚」という食べ物は、長い歴史を通して人々の食文化の中心となる食材として考えられてきた。「魚は新鮮でなければ商品にはならない」という考え方は、魚を売るプロの魚屋だけでなく、魚を買うすべての客が認知する考え方である。だから、魚屋の前を通る人が、魚屋に「今日はいいのが入ったよ!」と声を掛けられれば、「買わなければ損ではないか?」という気持ちになりやすいといえる。
買わなければ損をするという大前提の下、「それでも買わない」と客が考えるものならば、魚屋は、「だったらもう声を掛けないよ!」と堂々と啖呵を切ることができる。面白いことに、客はそう言われることで魚屋に対して親近感を感じ、
「このおじさん、口は悪いけど、心は綺麗だ!」
「このおじさん、愛想笑い一つしないけど、実に味がある人だ!」
という印象を持つことになる。堂々と客に啖呵を切る魚屋が地元の客から絶対的な信用を得るメカニズムは、まさにここにあるわけだ。
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