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〜できる人が備える〜
「勝利のための発想法」


生井 利幸(なまい としゆき)

生井利幸事務所代表

明治大学大学院 法学研究科 公法学専攻 博士前期課程修了。
米ペンシルベニア州ラフィエット大学講師、
オランダ王国国立フローニンヘン大学法学部客員研究員等を歴任。
11年の海外生活において主にアメリカの大学で教鞭を執る一方、在ニューヨークの企業を中心に法務・経営・ビジネス戦略に関するコンサルティングを行う。
2003年、日本に帰国。現在、作家として多方面において執筆・講演等を行う。


Vol.38 アメリカ人の方便、日本人の方便

私は、数年前までアメリカのペンシルベニア州ラフィエット大学で教鞭を執っていました。
この大学は、ニューヨークのマンハッタンから車で1時間半で到着する街・イーストンのダウンタウンに
隣接した大学です。

当時、私は大学で教えながらニューヨークでビジネスをしていました。
言うまでもなく、大学とビジネス社会では、人の考え方・振舞い方にも違いがあります。しかし、一つ、双方において面白い共通点を見い出すことができます。それは何かと言いますと、「アメリカ人は皆、方便がうまい」ということです。

ここでまず、嘘と方便の違いについて触れてみましょう。嘘は、言うまでもなく、真実ではないことですね。人が嘘をつくときには、その本人に悪意、あるいは、不誠実な意識がある場合がほとんどです。

しかし、方便は、嘘とはまったく違う性質を持っています。方便は、「ある目的を実現するために使う便宜上の手段・手立て」を意味し、「方便を言うこと」と「嘘をつくこと」はその目的・意識が大きく違います。

さて、アメリカ人の多くがコミュニケーション上手であるということは、世界中の人々が認める一つの共通認識であると思います。国際政治の大舞台では、常にアメリカ合衆国大統領がリーダーシップを掌握しています。また、国際ビジネス社会においても、アメリカ企業のトップが行う演説やコミュニケーション術のうまさは、まさにアメリカ人のコミュニケーション上手を表象しているといえるものです。アメリカが好き・嫌いという問題とは関係なく、このことは、世界の誰もが認める“周知の事実”であると思います。

私自身、日本での生活で感じることは、「アメリカ人と比べると、日本人の方便の使い方はぎこちない」ということです。アメリカのビジネス社会はもちろん、日本でも、「取引相手との話し方・コミュニケーションをどうするかでその方向性が変わっていく」ということはビジネスを知っている人であれば誰もが知っているセオリーですが、日本では、このセオリーの捉え方がやや希薄であるように感じます。

アメリカでも日本でも、人は大抵、他者の感情や気持ちを害しないように上手に言葉を発するものです。実際、これを読む皆さんも、取引相手や顧客との面会・電話での会話において、相手の感情を害さないという目的で、巧みに方便を使うこともあると思います。しかし、方便は、言葉上、どんなに美辞麗句を並べたとしても、相手に「いかにも方便で言っているな」と気づかれてしまうこともありますね。相手が方便に気づけば、大抵は、「この人は口だけの人だ!」「あまり信用できないな!」という意識を持ってしまいます。

ではここで、冒頭の問題提起に戻って、「アメリカ人は一体どうして方便がうまいのか」という問題について考えてみましょう。実際のところ、この問題は簡単には扱えない問題ですが、あえて、この答えを一言で言うならば、「アメリカは複雑な国だから」ということでしょう。

承知のように、アメリカ合衆国は、多様な人種・民族・文化・価値観・宗教が交錯する“世界でも類を見ない超複合社会”です。植民地時代はもちろんのこと、1776年の建国以降、アメリカ新大陸には様々な移民が移り住み、人類史においても、過去に例を見ない“頗る特徴のある国家”を形成するに至りました。言うなれば、現在の多民族国家アメリカは、まさに、「移民が作ったアメリカ」そのものなのです。

多民族国家アメリカには、人々の心の中に、「他者とコミュニケーションにおいて、常に程よい緊張感を保って話をする」という習慣があります。習慣というよりは、これを、「アメリカ社会に内在する“暗黙の了解”(tacit understanding)」と解釈したほうが妥当であるでしょう。

この“アメリカ独自の暗黙の了解”は、アメリカ社会では、意識的・無意識的にかかわらず、ほとんど毎日、様々な形で行われています。アメリカでは、人種はもとより、価値観・宗教観などが違う人間は、会社・学校のみならず、街の至るところで見かけます。白人家庭で育った人なのか、黒人家庭で育った人なのかで、その本人の心の持ち方・人生観も違ってきます。また、どんな地域で生まれ育ったのかでも同じアメリカ人でも、まるで別の国の人間であるかのように違います。このように、アメリカ社会では、毎日の普通の生活において、人々は、“様々な異なる人々”と接触する機会があるわけですが、そこで要求されるコミュニケーション術として、この「方便」の存在意義が台頭しているのです。

アメリカでは、ある個人が「正しい」と確信していることであっても、他の人においては「正しくない」ことが頻繁に起こります。そのため、アメリカ人は、他者とのコミュニケーションにおいて、方便を上手に使って、人との調和や距離を程よく保ちます。アメリカ人にとって、これは義務でも何でもなく、人々の心の中で、多様化した価値観が交錯する多民族国家アメリカで生きる上での“踏まえるべき暗黙の了解”として捉えられている「アメリカ型の“常識”(common sense)」なのです。

アメリカと日本におけるコミュニケーション術の比較においては、私は、「日本人は平和ぼけしている」と感じてなりません。単一民族の国・日本においては、目の前の人が一体どんな価値観を持っていてどんなことを考えているか、大体は想像がつきます。その点で、日本人は、多民族国家アメリカにおいてアメリカ人が日々行うような方便を用いる必要性はありません(もちろん、日本人同士の接触において、日本の伝統的な文化・習慣の下、相互の関係を円滑にする目的で方便が必要とされることは言うまでもありません)。

話が長くなってしまいましたが、この方便の問題、面白いと思いませんか。方便の使い方は、言うなれば、コミュニケーションの問題に直結したものです。もちろん、方便を使いこなすためには、それなりに場数を踏むことが求められます。仕事における経験はもちろんですが、何よりも、たくさんの人生経験を積まなければ、「人の気持ち」「人の心の痛み」を理解することは難しいですね。方便は、単なるコミュニケーションの手段ではなく、人の心を労わる作用もあるわけですから、まず第一に、「人の気持ち」がわかる人間になることが大切です。

この島国・日本では、国土が小さい分、人の心の構造も“日本的なデリケートさ”を形作っています。そうした意味での“日本的なデリケートさ”の中で、同じ日本人同士でコミュニケーションを図る際において、方便は、実に必要不可欠な代物であると感じます。あからさまに言う方便ではなく、相手に対する心からの愛情を込めて、ごく自然な形で方便を使いたいものです





<生井 利幸講師のコラム バックナンバー>

VOL.37 「‘忙しい’を言う? 言わない?」
VOL.36 「愛情あるコミュニケーションが、仕事のクオリティーを大きく変える」
VOL.35 「コミュニケーションと川の水の流れ」
VOL.34 「講演先での素晴らしい出会い」
VOL.33 「スピーチの達人は皆、"役者顔負けのパフォーマンス"で話を進める」
VOL.32 「緊張しない話し方の極意
VOL.31 「ニューヨークのビジネス社会は"人類愛"に満ちている
VOL.30 「東京都葛飾区の公開講座で感じる社会人受講生のパワー
VOL.29 「コミュニケーション力”・“哲学”・“心”の融合が、会社を大きく成長させる」
VOL.28 「"キャッチボール型の会話"をしていますか?」

VOL.27 「「個」を重要視する経営者の精神、個々の社員の精神」

VOL.26 「「哲学」「理念」を養う社員教育の必要性」

VOL.25 「地域社会発展の実現は「真心」にあり」

VOL.24 「コミュニケーションは一体何のためにあるのか?」

VOL.23 「人の顔の表情は、自分の顔の表情の顔である」

VOL.22 「ニューヨークでは、肌の色よりも<チャレンジ精神>が台頭する」
VOL.21 「話上手 グレート・コミュニケーターの本音」
VOL.20 「<裸の王様>になってはいけない」
VOL.19 「<哲学><コミュニケーション><ビジネス>における相関関係」
VOL.18 「<言葉の管理>に優れている人が信用を築く」

VOL.17 「堂々と客に啖呵を切る魚屋の<交渉術>」

VOL.16 「契約社会アメリカの実態は“交渉社会”である」
VOL.15 「経営者の心得・・・ビジネスの達人は“他人を泳がせる器量”を備えている」
VOL.14 「できる管理職は業務命令を下すのがうまい」

VOL.13 「トップライナーが駆使するビジネス・コミュニケーション術」

VOL.12 「一連のIT革命が癒した<負の遺産>」

VOL.11 「プロのエンターテイナーから学ぶ 自己表現を高める方法」

VOL.10 「セールスの達人は<1秒のリズム>で勝負する」
VOL.9 「経営者はCSRの執行者でなければならない」

VOL.8 「<お茶目な人>がビジネスを成功させる」

VOL.7 「給料は、貰うものか、それとも稼ぐものか?」
VOL.6 「日本人は常に<組織の名前>にしがみつく」
VOL.5 「スーツの買い方でわかる意思決定のスマートさ」
VOL.4 「勝ち組人生」とは?
VOL.3 「上司の力量次第で部下の仕事ぶりが決まる」
VOL.2 日本人がアメリカ人から学ぶべき「ビジネスにおける“心の余裕”」
VOL.1 「現実」を踏まえた上で一歩一歩確実に歩む人が、仕事人生を成功させる
 
 

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