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「夢のつづき」

武田 美保(たけだ みほ)

アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト

アテネ五輪で、立花美哉さんと、シンクロナイズドスイミング競技で銀メダルを獲得。
2001年の世界選手権では金メダルを獲得するなど、日本人メダリストの中では飛びぬけた数の5つのメダルを持ち、見事な演技力で常に世界を魅了してきた。

チーム競技ではチームリーダーに抜擢され、そのリーダシップ力、確かな技術力と豊かな表現力で、雰囲気を盛り上げるムードメーカーとしても活躍する。


Vol.3 「デュエットパートナーとしての私」

  立花美哉さんと私の出会いは、お互いが小学生の頃。美哉さん(以下、美哉さん)が小学4年で私が小学2年でした。年下なのですが私の方が早くシンクロを始めており、美哉さんがその3ヶ月後にキャリアのスタートを切りました。

思い返すと、入った当時から今の雛形ができていたように思います。片方は手足がひょろーっと長く、それを持て余すかのような動き。片方はものすごく小さくて、カチカチで出来上がってしまっている動き。誰と言わなくても、どっちがどうだかわかりますよね?

当然、あまりにも身長もタイプも違うので、デュエットを組むことはあり得ない二人とされていました。月日が流れること13年。その状況が一変したのが、97年の国際派遣選手選考会です。

 97年の選考会当日、私は絶好調でした。その日"水を掴む"という感覚がとても敏感に感じることができ、何をしても体が軽くて、倒立姿勢で回転する規定をするときなどは、中心軸がおもしろい程とれるのです。

何も考えなくても勝手にそうなってくれる感じです。そしてその結果、選考会2位での通過となり、技術面が優れている者同士(選考会の順位の1位、2位)でのデュエットが誕生したのです。しかし、あり得ないデュエットの誕生です。

私は試合を楽しんでいました。」

  それから、井村コーチ、美哉さん、そして私の3人4脚が始まった訳ですが、その前に、なぜこのときこんなに調子がよかったのか・・・?

これまで何度も言っているように、美哉さんと私のデュエットはあり得ないと自分自身もそう思っていました。ですが、シンクロを続ける限り、やはり上に行きたいと思うのは当然ですし、いつかはチーム要員としてだけではなく個人種目での海外遠征やオリンピックに出場したいという夢もありました。今思うと変な心境です。

デュエットを組める訳がないと思いながら、自分も含めて皆の思い込みを変えてみたいという願望もあったのです。「デュエットパートナーにならなければいけない」というプレッシャーは一切無く、「私、頑張ったら何か起こるかな?」という楽しみのようなドキドキ感がその時の心境でした。
私は試合を楽しんでいました。

邪念が無い分、精神的にもとても落ち着いた状態で、その安定は前日までの日本選手権にも良い影響をもたらしてくれていたので、選考会当日は勢いに乗るだけ。とてつもなく自分に集中できていました。

「毎日がダメ出しの連続 孤独なデュエットパートナー」

デュエットパートナーとしての自分がいました。「何かが変わるかな?」だけだった思いが現実に変わってしまった時、私は急に不安に襲われました。今までの取り組み方や考え方では到底つとまらない大役です。

組ませてもらうからには、自分なりに覚悟を決めました。しごかれて、怒られて、色々なことが起こるだろうと。今でもその時の心境を鮮明に思い出すことができますが、そんな私の覚悟のレベルなどあっさり通り越され、現実のレベルを装置で計れるとしたら、針は振り切りいっぱい!?になっていたと思います。

毎日がまさにダメ出しの連続。身長の差、タイプの差、そしてなにより孤独でした。自分で這い上がってくるしかないのです。日本の代表として出場するのですから当然と言えば当然ですが、今までのような「一緒に頑張ろうね」という言葉も雰囲気も一切ありません。美哉さんとデュエットとして機能するためには、上手くなることだけを見つめていかなければ脱落する、と思いました。

個を高める。切磋琢磨する。
これは、それから二人独特のスタンスとなっていくことになります。

 デュエットとして始めての遠征が近づいても、私は自信を持てないままでした。試合に出る前にこれほど自信の無かったことはありません。「合わせなければ」「怒られないように」そんなことばかり考えて、全く自分の泳ぎができない。自分が自分でない。直前の練習でも、自分を奥に潜めて誰かが演技している感じです。何を言われても傷つかないように、殻に閉じこもっていました。

 自分でもどう泳ぎ切ったのかよく覚えていない、気持ち的にはこれまでの中で最悪の大会を終えました。結果はデュエット・チーム共に日本最高位タイの2位で、ほっと胸をなで下ろす私でしたが、井村コーチはその内容を許すはずがありません。ぴしゃっと「今回のデュエットはあなたでなくてもよかった」と言われました。選手として前向きな心を持っていなかったことを指摘されていたのだと思います。

自分の至らなさをわかってはいたつもりですが、やはりこの言葉はこたえました。井村コーチに二度とこの言葉を言わせてしまう自分であってはいけないと思いました。

「自分になるための葛藤」

変った自分を井村コーチに認めてもらうには、まず何ができるのかを考えました。閉じこもった自分を解放して、コーチの本当の言葉に耳を傾けること。注意を受けることが、自分の人格を否定するものではないことを理解すること、身長差をカバーする高さや技術をみにつけること等々。少しずつマイナーチェンジしようと葛藤しながら、2年、そして3年が過ぎていきました。

 2000年、シドニーオリンピックはデュエットが機能し始めた大会だと位置づけられると思います。まだ完全に自分の泳ぎをすることができていませんでしたが、お互いのくせがわかり、色んなことに慣れてきていました。それまで水を開けられていたロシアのすぐ後ろについて息を吹きかけるところまできている実感がありました。

そして、2001年福岡世界選手権。ようやく私はパートナーとして自分の役割を持つことができました。今まで取り組んできたプログラムの中で、最も"演じる"ことを全面に出した「パントマイム」に出会い、ようやく自分が泳いでいるという自覚を持って舞台に立ち、心からシンクロが楽しいと思うことができました。

あの時の歓声や高揚感は忘れられません。
5年経って「やっと・・・」。
でも、私にとって素晴らしい経験の時でした。

 


<武田 美保講師のコラム バックナンバー>
vol.2 「世界への挑戦のスタート」
vol.1 「夢のはじまり」

 

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