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「武田VISION」

武田 美保(たけだ みほ)

アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト

アテネ五輪で、立花美哉さんと、シンクロナイズドスイミング競技で銀メダルを獲得。
2001年の世界選手権では金メダルを獲得するなど、日本人メダリストの中では飛びぬけた数の5つのメダルを持ち、見事な演技力で常に世界を魅了してきた。

チーム競技ではチームリーダーに抜擢され、そのリーダシップ力、確かな技術力と豊かな表現力で、雰囲気を盛り上げるムードメーカーとしても活躍する。


Vol. 24 世界水泳2007で考えた「個性」

 
3月17日から行われた世界水泳選手権メルボルン2007。そのシンクロナイズドスイミング競技で今回は現地の特設スタジオでの解説という役割で関わらせて頂いたのですが、私はこの機会に本当に感謝しなければならないと思いました。今回のこの仕事を通じて、「個性」というものについて考える時間を持てたからです。個性を発揮するということは、自分がこの世に存在することを示す方法でもあり、生きている実感を得ることであるとも言えるのではないでしょうか。そこまで大儀に考える必要はないのかもしれませんが、改めて自分の個性を見つめてみたり、発見したり、それを素直に表現することができると、必ずや人生に彩りを添えてくれるものだと思います。

 大会を振り返るとソロフリールーティン決勝は大変見応えがありました。まさに個性のぶつかり合い。ガチンコ勝負です。その中で特に話題をさらったのは、1年半ぶりに再びプールサイドに帰ってきたフランスのビルジニー・デデュー選手。彼女は2005年モントリオールの世界水泳で2大会連続ソロのワールドチャンピオンになった後、引退を発表。関係者に衝撃が走ったのは言うまでもありません。そんな彼女を突き動かし復帰を決意させたものは「やりたいテーマや女性像がふつふつと湧き上がってきて、それを表現したくて仕方がなくなったから」だと言います。昨年の9月に横浜で開催されたFINAワールドカップという大会を観戦しに来日した際の帰りの飛行機の中で、自分のその感情に気づき、「まだ私はやれるのではないか?やればまだ優勝の余地はあるのではないか?」と。さらにそう思ったのだそうです。

 この話を彼女本人から聞くことができた訳ですが、この時私が思ったのは「負けず嫌いの部分を隠さないストレートな表現が、彼女の魅力をさらに際立たせているな」ということ。普段は本当にシャイで、私のことを「ミオ」(フランスでは「ホ」の発音がない)と小さな声で呼び、手のひらに包まれるぐらいの小さな顔が時々はにかんだりすると、同性の視点からでも「はー。かわいい」と脱力ものです。その彼女から強気とも聞こえる発言。なぜかドキッとさせられ、妙に説得力があります。

 ことシンクロ、それにとどまらず身体表現・芸術表現の舞台に立てば、人格が豹変するというか、まるで表現の神が降りてきて彼女の身体を使って動いているかのようにさえ見えるのです。そんな彼女がテーマに選ぶのは人間(女性)の光と影、幸福と葛藤や苦悩など常に表裏一体にあるもの。彼女のスタイルとリンクしています。自分の個性や魅力の出し方を本能的にか、あるいは熟知の上でか、とにかく知っていると思うのです。

 しかし思い描いたストーリーを現実のものにするためには、当然ですが、想像を絶する努力と困難と不安に打ち勝つために自分との向き合いを続け、それを乗り越えなければなりませんでした。途中、「このカムバックは本当にハッピーなことなのだろうか?皆にウェルカムされないのではないだろうか?」と気持ちが揺らいだそうです。そして本番は訪れます。プラットフォームに登場した彼女は、完全に別人格になっていました。20世紀を代表するディーバ、マリア・カラスです。愛に生き、歌に生き。このマリア・カラスもまた自由にでも繊細に時代を生きてきた女性。ずっとベールに隠されていたテーマでしたが、本当にぴったりだと思いました。ブランク云々関係なく、とにかく惹きつけられました。そして、少し技術的に危なっかしいところさえ「人間っぽさが出ていていい」などと、またしても魅力に変えてしまう不思議な力。これはなんなのでしょう。

 演技を終え、自分の演技に対し納得がいくものであった表情のデデュー。あとはライバルの演技の結果を待ちます。そして、最終得点がコールされ勝利を確信したときに彼女はある行動に出ました。ずっと支えてくれた最愛の人のもとへ駆け出して行ったのです。会場内は唖然。その一部始終を見守りそして大拍手が起こりました。感動で泣く人もいました。まるで映画のワンシーンを観ているかのよう。

 世界選手権という大きな大会で今までこんな行動を取ったシンクロスイマーはいなかったと思います。しかし、彼女は許された。それどころか皆を虜にした。比べるには申し訳ないですけど、一人の女性として「この世にはこんな風に絵になる人がいるんだ」と嫉妬に似た、でもそれとは違うなんとも言えない感情と素晴らしい演技に対する感動が混在した心境で私は立っていました。

 個性を最大限に発揮しようとするとき必要なのは、自分のよさを徹底的に熟知し、それを引き出せるテーマを選ぶこと。そして、努力すること。諦めないこと。そしてもう一つ、自分に素直になること

 個性に対して理解を示してくれる人は全員ではありません。理解を望んでも叶わないことの方が多いかもしれません。言葉では簡単ですが、自分の個性を発揮する前に、好きなことさえ見つけるのが難しい状況かもしれません。それでも探した方がいい。理解してくれる人、共感してくれる人は必ずどこかにいて、それを増やしていこうと努力することがきっと何よりも大切で、人を人として成長させるものだと思います。私も今の自分を見つめてみて、対外的に「いい人な私」を作り上げようとしていました。素直でなかったところがあるように思えてきています。でも素直さを出していい時期、悪い時期があるのも事実。こういう経緯を経て、人は新しくキャリアを積んでいくのでしょう。私もまだまだ発展途上。個性のまだ何たるかも把握できていない状況。やらなければいけないことはたくさんあります。頑張ろうと思います。

 個性を発揮すること。年齢に関係なく、子供のうちからもうスタートを切ってほしいですよね。大人になってからも知らない個性があるはずです。ともに頑張りましょう。

 



<武田 美保講師のコラム バックナンバー>

【武田VISION】

vol.23 子供は社会を映す鏡

vol.22 想いを言葉にする

vol.21 2007年の抱負

vol.20 家族の大切さ

vol.19 自分らしさの追求

vol.18 セルフプロデュースV オンとオフの使い分け

vol.17 セルフプロデュースU モチベーションの維持
vol.16 セルフプロデュースT 目標達成までの自分の高め方
vol.15 マッスルミュージカル−<千秋楽>の感動
vol.14 マッスルミュージカル−舞台は人の関わりの結晶

vol.13 マッスルミュージカル−公演初日を迎えて

vol.12 マッスルミュージカルリハーサルスタート
vol.11 私が求める女性としてのライフスタイル(4) 家庭
vol.10 私が求める女性としてのライフスタイル(3) ウェイトコントロール
vol.9 私が求める女性としてのライフスタイル(2) ファッション
vol.8 私が求める女性としてのライフスタイル(1) 仕事
vol.7 コミュニケーション (3)チームワーク」
vol.6 コミュニケーション (2)対人折衝」
vol.5 コミュニケーション (1)上下関係」
vol.4 「シンクロと私〜引退から1年を迎えて〜」
vol.3 「<形><デザイン>について」
vol.2 「人の持つ<オーラ>について」
vol.1 「伝えるということ」

【夢のつづき】
vol.6 「ありがとう&夢のつづき」
vol.5 「新しい風」
vol.4 「世界1の意味」
vol.3 「デュエットパートナーとしての私」
vol.2 「世界への挑戦のスタート」
vol.1 「夢のはじまり」

 

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