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「今を読み、明日に備える」

藤田正美 (ふじたまさよし)

元ニューズウィーク日本版 編集長

<生年月日> 1948年生まれ
<最終学歴>  東京大学経済学部卒業

東洋経済新報社で経済記者を14年勤めた後、
ニューズウィーク日本版創刊に参加。
1994年から2000年まで7年間、同誌編集長、
2001年より同誌編集主幹。
2004年に退社し、現在フリージャーナリストとして活動。


Vol. 42 「金融危機の泥沼」


昨年夏に噴出したアメリカの金融危機。損失額が3000億ドルとか5000億ドルとか言われたこともあったが、IMF(国際通貨基金)によれば1兆ドルを優に超えるという。日本円換算で137兆円という金額は驚きだ。

しかし日本が失われた10年あるいは15年の間に出した損失額の合計はざっと100兆円というから、それに比べれば、それほど巨額なわけではない。何といっても日本はその損失をほとんど日本国内の金融機関で背負ったのに対し、アメリカに始まった金融危機は欧州とアメリカの金融機関を中心に損失をかぶるからである。

ただこの金融危機、いまだに底が見えない。今年3月のベア・スターンズの救済合併、そして9月に入って、政府系住宅金融会社ファニーメイとフレディマックの政府管理、リーマン・ブラザーズの破綻、メリル・リンチの分割売却、保険会社AIGの政府管理と次々に破綻が明らかになっている。さらにとうとう地域金融機関も破綻した。ワシントンミューチュアル、資産は32兆円。アメリカ史上最大の銀行破綻なのだとか。

こうした状況を受けて、ブッシュ政権は、総額7000億ドル(日本の国家予算並みだ)で金融機関の不良資産買い取りをする構想を打ち出した。もともとアメリカは、公的資金を投入する金融機関救済に消極的だ。経営に失敗したら市場から退出すべきというのが基本的な姿勢である。しかし金融機関の破綻は、場合によってはアメリカ発の金融恐慌の引き金を引きかねない。現に1929年には、やはり住宅ローンに端を発した金融危機で、全世界が恐慌に陥った。

それにAIGが破綻したのは、同社がCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)と呼ばれるデリバティブ(金融派生商品)を売っていたからなのだが、これは保険的な商品であるのに、監督当局がAIGの支払い能力をチェックできなかった。要するに法律の隙間を縫った商品でAIGは儲けていたわけだが、もしAIGが破綻すれば、その「保証」を買っていた多くの金融機関も破綻しかねない。だからリーマンに関しては「公的資金の投入などまったく考えなかった」と語ったポールソン財務長官もAIGを政府管理下に置く決断をせざるをえなかった。

これでアメリカの金融危機は、政府が市場の不安を押しとどめることができるかどうかという「最後の戦い」になる。しかしワシントンミューチュアルの破綻に見られるように、これから地域金融機関がばたばたとつぶれるという予測もある。そしてその金額は預金保険公社の支払い能力をはるかに上回るのだという。もしこうした危機が顕在化すれば、一般市民の預金にまで影響が及ぶことになる。銀行への取り付け騒ぎが発生すれば、これまでの金融機関同士の「貸し渋り」とは違う新たな危機を迎えることになるだろう。

いつになったら落ち着くのか。そこが見えない限り、これまで急成長を続けてきた中国やインドの経済も、当面、成長の踊り場を迎えることになる。そして日本は、輸出産業が世界経済低迷の影響を受け、日本自体の成長戦略も大きく転換せざるをえなくなる。この本当に重要な構造改革をリードできる政治指導者が早く誕生しないと、日本の沈下スピードは一段と速まるかもしれない。

 

更新日: 2008年10月1日



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