Vol.4 『中国元はどこまで切り上げる』
先月、このコラムで中国のカントリーリスクを書いた。それは主に、政治的なリスクの話であったが、今回は通貨元が切り上げられたこともあり、経済的なリスクについて触れてみようと思う。
対中赤字が増加しているアメリカを中心に元の切り上げという圧力が強まっていたから、切り上げ自体は驚くべきものではない。このタイミングというのも、胡錦濤国家主席が9月に訪米する前で、かつ中国経済への悪影響をできるだけ抑えることができる時期を慎重に見計らったものと思われる。
それにしても意外だったのは2%という数字だ。これについては政策当局をはじめ産業界でも「予想より小幅だった」としている。実際、年間1400億ドルというアメリカの対中赤字の大きさを考えれば、2%という小幅な切り上げで収まるはずがない。
そこをいちばん懸念しているのは、日本の企業経営者だろうと思う。なぜなら、日本の対米黒字600億ドルはもちろん、中国の対米黒字1400億ドルのうちかなりの部分が日本企業関連と言われているからである。
つまりもし元がさらなる切り上げ(たとえば年内に10%程度)を迫られれば、中国を生産拠点としている日本企業への影響は決して小さくない。朝日新聞のアンケートによると、1年後に5〜10%上昇するという前提で、中国での事業は拡大すると答えた経営者が多かったという。しかしその幅で収まるという保証はどこにもない。
考えてみるがいい。日本が1ドル=360円の固定相場から切り上げを迫られたとき、一気に308円まで上がったのである。比率にして約15%だ。それが1971年だったが、そこから1985年のプラザ合意による円高までずっと円は切り上げられてきたのである。その当時と今とでは情勢が違うとはいえ、中国の元切り上げはここ2年ほどで20%を超えるだろうとも言われている。
もちろん通貨が強くなること自体、決してその国にとって悪い事ではない。日本の企業はその急激な円高によく対応してきたし、一方で円高のために石油ショックなどによる原油価格の高騰も吸収することができた。
今の中国も、単に外国からの投資によって驚異的な経済成長が続いているわけではない。個人消費も着実に伸びている。場所によっては不動産のミニバブルもある。中国企業による外国企業の買収も増えている。その意味では経済成長のエンジンがいくつかできているわけで、これから2008年の北京オリンピック、そして2010年の上海万博まで、ひた走りに走るのだろうと思う。
ただそこに落とし穴がある可能性もある。もしアメリカの景気が減速したら、その分のマイナスを中国はどこで吸収できるのだろうか。国内企業による投資や国内消費者による消費で成長を続けられるのか。そこにまだ一抹の不安が残る。
それだけではない。中国政府はいま、景気が過熱するのを抑えようとしている。しかし抑えれば抑えるほど、貿易黒字は大きくなる。現に、今年の6月までの貿易黒字は400億ドル、これは昨年のそう貿易黒字を上回っているのだ。すなわち、中国は国内需要でも景気をある程度牽引する地力はついてきたということができるが、その「地力」に頼ると景気は過熱し、バブル経済になりかねない。しかし国内を抑えれば、それはすなわち貿易黒字の増加につながり、元のいっそうの切り上げ圧力につながるという構造なのだ。
中国が大きなマーケットであり、同時に生産拠点であることは論をまたない。しかし日本や韓国もそうだったが、どんな製品の生産拠点でありえるかは、その国の経済発展の速度によって変わってくる。たとえば日本がアメリカとの間で繊維製品をめぐって摩擦を起こしていたのは、もうかれこれ40年以上前のこと。自動車摩擦はそれから下って20年ほど前のことである。そのころの日本の変化のスピードと比べると、今の中国のスピードは相当に速い。ドッグ・イヤーと言ってもいいかもしれない。
そのようなスピードで変化する中国を生産拠点にするというのは企業にとってリスクの大きいことだ。これまで中国に進出した日本企業は1万7000社といわれ、これから進出を検討する会社は1万社とも言われる。これらの企業は、それこそ中国に進出できない場合のプランも考えておかなければならないはずだ。
|