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「今を読み、明日に備える」

藤田正美 (ふじたまさよし)

元ニューズウィーク日本版 編集長

<生年月日> 1948年生まれ
<最終学歴>  東京大学経済学部卒業

東洋経済新報社で経済記者を14年勤めた後、
ニューズウィーク日本版創刊に参加。
1994年から2000年まで7年間、同誌編集長、
2001年より同誌編集主幹。
2004年に退社し、現在フリージャーナリストとして活動。

Vol.11 『ライブドア事件、もう一つの教訓』

 2月16日、衆議院予算委員会で民主党の永田寿康議員が爆弾質問をした。

ライブドアをめぐる一連の事件で逮捕され起訴された堀江貴文氏が、昨年8月に自民党の武部勤幹事長の二男に対し3000万円を振り込むよう社員に指示を出したというメールの存在を明らかにしたからである。もしこのメールが本物であったら、堀江氏と武部幹事長がお金でつながっていたことになり、自民党に大きな打撃を与えられるはずだった。永田議員が有頂天になっていたとしても不思議はない。

 ところが舞台は暗転する。このメールについてあちこちから信憑性を疑う声が上がったのである。しかもライブドア事件を担当する東京地検特捜部は「そういうメールの存在を承知していない」と異例の発言をした。小泉首相は「ガセネタ」と一蹴し、歯牙にもかけない姿勢で臨んだ。メールが事実であることには自信を持っているとしていた永田議員はやがて雲隠れ。民主党も右往左往する。

 この事件がどういう決着になるかはまだ現在進行形であるだけにわからないが、
政党だけでなく一般的に参考になるいくつかのポイントがあると思う。

 まずは公の場で追及する前に、どれだけの確認をしたのか、という問題である。メール(しかもプリントアウトされたメール)が証拠能力を持つのかについて、民主党内でどれだけ検証されたのか。民主党にかぎらず政党には弁護士出身の議員もたくさんいる。メールがどのようなシステムで動いているのかを考えれば、その証拠能力を過大に評価すべきでないことはすぐにわかったはずだ。

 次に問題になるのは「想定問答」だろう。メールの存在を公表して追及すれば、自民党側はどう反撃してくるか、予想はついたはずである。その反撃をどのように受け止め、さらに追及する材料に転化していくのが得策であることは言うまでもない。それなのに、永田議員も民主党も、反撃に有効な手だてを講じることができなかった。口にするのは「確かなモノだ」ということと、「やましいところがないのなら、国政調査に応じて口座を調べさせればよい」ということばかりである。

 ここまでが質問する前の準備である。さらに問題なのが、メールにはほとんど偽物ということになった(民主党側の言い方を借りれば、本物であることを示す証拠がない)ときの処理だ。この段階で民主党はいくつかのミスをした。まずは永田議員の雲隠れを許したこと。そしてこの段階にいたってもなおメールが本物であるという姿勢を崩さなかったこと。そして何の根拠も示すことができないのに「巨悪を追及する姿勢に揺るぎはない」などと見得を切ってしまったことである。

 雲隠れはもともと自民党の政治家が得意とするところだ。そして雲隠れした議員について野党はいつも堂々と反論するなり謝罪するなりすることが議員としての見識であると追及してきたはずだ。したがって永田議員の雲隠れを許したことは、「民主党は口先ばかりである」というイメージを植え付けることになる。どんなに辛くても、清廉な政党というイメージを守ることが重要だったと思う。これは一種のブランド戦略である。

 メールが実際に本物であるかどうかよりも、本物であると世間を説得するに足る証拠を示せるかどうかが問題であるときに、本物だと信じていると言っても何の力にもならない。それだけでなく、この段階での発言としてはおよそ「稚拙」と受け止められてしまう。それは野党としては致命的ですらある。今国会での追及の矛先が鈍ってしまうのは避けられない。耐震強度偽装問題で、民主党の馬淵議員が舌鋒鋭く迫った功績をすっかり打ち消してしまった。

 そしていちばん問題なのは、具体的な材料がないままに、「巨悪を追及する」と言ったことだ。もちろん材料があればいいのだが、この段階で出てこなければ、見得を切るだけのものはないということだ。それだけではない。「やましいところがなければ国政調査権を発動すべきだ」という論理を展開したのは、あまりにも稚拙な誤りである。

 本来、この論理は権力側の論理であって、権力の濫用につながりやすい。それを抑えるために、証拠主義や裁判所の許可やさまざまな歯止めがかけられている。それを事もあろうに、リベラリズムを標榜する政党が同じ論理を使うのを聞いたときには、開いた口がふさがらなかった。自分たちの寄って立つスタンスについて自覚がない証拠である。

 そして民主党のいちばんの問題は、こうした危機に陥ったときに、いかにダメージをコントロールするかという戦略を立てる人間が誰もいないということである。一般の企業でもおそらくそういう部署や人間をきちんと育てているところは少ないと思うが、こうした戦略なしにトップが事態の収拾にあたると、あまりうまく行かない。雪印、JR西日本、日本航空、東横インなど、いくつかの企業の例を見れば明らかである。

 民主党が今回の混乱で傷ついたイメージを修復するには、
おそらく前原代表が考えているよりもはるかに長い時間がかかるはずである。

 

更新日: 2006年3月1日



<藤田 正美講師のコラム バックナンバー>
Vol.10 「価値を生み出す経済活動」

Vol.9  「とりあえず2006年は大丈夫だが…」

Vol.8  「小さな政府の落とし穴」
Vol.7  「会社は誰のものか」
Vol.6  「原油高は悪いことばかりでもない」
Vol.5  「日本経済の危うさ」
Vol.4  「中国元はどこまで切り上げる」
Vol.3  「中国のカントリーリスク」
Vol.2  「大型談合摘発の本当の意味」
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