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Vol.
19 『アメリカ経済、実力が落ちた』
いまアメリカは住宅価格が横ばい、あるいはやや下がり気味になって、それが景気に悪影響を与えつつある。10月末に発表された今年第3四半期のGDP成長率速報値は前期比年率1.6%となった。中でも民間住宅投資はマイナス17.4%と1991年第1四半期以来の大幅下落を記録した。それでもまだ景気の牽引役である個人消費は前期比3.1%増となって高い水準を維持しているが、住宅価格の上昇が個人消費を支えてきたという側面があるだけに、今後の消費見通しは明るくはない。
アメリカの短期的な景気見通しも明るくはないが、もっと問題なのは、潜在成長率も下がっているということだ。ある推計によるとアメリカの潜在成長率は2.5%に下がる可能性が大きいという。
潜在成長率とは、中長期的に持続可能な国内総生産(GDP)の伸び率を言い、投入される「労働力」と生産に必要な工場、機械設備などの「資本」、それらの利用効率である「生産性」の3つの要素からなる。 労働力や資本をフルに活用した場合に達成できるGDPであり、供給面からみた一国の経済の実力を示すとされている。
OECD(経済協力機構)の推計によると、日本の場合、バブルがはじける前の1980年代は3.9%、バブル後の1990年代が1.8%、そこから1%前後まで落ち込んでいる。一方、アメリカを見ると、1980年代が3.0%、90年代が3.1%、それから3.7%にあがって2003年は3.1%になったという。
この潜在成長率は、インフレを引き起こすことなく達成可能な成長率とされる。潜在成長率を無視して景気を刺激するとインフレをコントロールできなくなる。アメリカの1970年代のインフレは、潜在成長率が下がって、それを上回る経済成長が続いたことも一つの理由となったとされている。
潜在成長率が下がると、景気のコントロールがむずかしくなる。金利の上げ下げに余裕がなくなるからだ。上げすぎれば景気が失速するし、上げなさすぎればインフレになる。すでにFRB(連邦準備理事会)は10月の会合では、インフレを抑制するために16回にわたって上げてきた金利を据え置いている。
なぜアメリカの潜在成長率が下がったと見られるのか。1990年代にはアメリカでは生産性が向上するのと同時に労働人口も増えたために、アメリカの潜在成長率は高い水準を維持していた。2001年に同時多発テロもあって景気は下降したが、生産性は再び上昇した。しかし労働人口の伸びは急速に小さくなったのである。
アメリカのベビーブーマーはそろそろ引退に近づいているし、労働力としての女性の増加も著しく減速している。労働市場に参入する若者は減っているし、移民労働力に対する反発も強い。
さてアメリカの潜在成長力が下がっているのに比べて、果たして日本はどうだろうか。日本の場合、上にも書いたように潜在成長率はもともとアメリカに比べるとはるかに低い。多少は高くなったとされるが、2007年問題に象徴されるように、労働力人口をこれから大きく伸ばすのはむずかしい。現在政府は、いわゆる団塊の世代の定年延長を働きかけているとはいえ、企業の論理と一国経済の論理は異なる。企業は、給料の高い団塊の世代を抱えている余裕はない。
日本の潜在成長率がここ数年のうちに下がるとすれば、日銀の舵取りが少し狂うとインフレに陥る可能性があるということになる。小泉内閣の最後のころは、竹中総務大臣と日銀の間で、「目標インフレ率」について激しい意見のやり取りがあったが、実は日本経済の足腰は、それほどしっかりしていないかもしれないのである。
日本が潜在成長率を上げる方法は、労働力人口を増やすしかない。若者のニート化をどう防ぐのか、働く女性をどう増やすのか、移民労働力をどう考えるのかにかかってくるだろう。人口そのものが減る方向にあるときに、こうした問題を解決するのは容易ではあるまい。しかしここを解決しないと、医療や介護、年金などの問題も解決はできない。いま政府に求められるのは、ただ長期的視点というだけでなく、幅広く問題を見つめる視点である。
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