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「今を読み、明日に備える」

藤田正美 (ふじたまさよし)

元ニューズウィーク日本版 編集長

<生年月日> 1948年生まれ
<最終学歴>  東京大学経済学部卒業

東洋経済新報社で経済記者を14年勤めた後、
ニューズウィーク日本版創刊に参加。
1994年から2000年まで7年間、同誌編集長、
2001年より同誌編集主幹。
2004年に退社し、現在フリージャーナリストとして活動。

Vol. 20 『世界は原発ブーム』

 世界的にエネルギー需要が急増している。BRICsと呼ばれる新興工業国、中でも中国とインドの高度成長がその背景にある。原油相場が乱高下し、一時は1バレル100ドルを越えるという見方が現実味を帯びていたのもそのためだ。現在は60ドル前後で落ち着いているが、やがてはまた上昇気流に乗るだろう。

 そして同時に活気づいているのが、原子力発電だ。かつてアメリカはクリントン政権のときに再生可能エネルギーに軸足を移したため、原発は冷遇され、新設計画はまったく消えてしまった。同様に欧州でも原発計画は次々に中止され、中にはドイツのように既存原発の廃棄を決めた国もある。

 しかし今その流れはまったく逆転したかのように見える。アジアの原発ラッシュはすごい勢いだ。昨年12月現在での建設中あるいは建設予定の原発を数えてみると、日本13基、中国10基、インド8基、韓国8基、台湾2基、インドネシア4基、パキスタン1基、とアジアで合計46基の原発が計画されている。全世界で同様に建設中あるいは建設予定の原発は75基。半分以上がアジアに集中していることになる。

 アジアはとりわけ経済の高度成長期にあるだけに、電力を中心にエネルギー不足が深刻だ。その意味では原発ラッシュになるのも理解できる。しかし原発への回帰を決めているのはアジアだけではない。まずアメリカ。ブッシュ大統領は就任間もない2001年5月の演説で、クリーンかつ供給面で制約がない原子力発電を拡大しなければならないと強調した。クリントン時代の原発に対する姿勢を180度変えたのである。アメリカは103基の原子炉を持つ世界最大の原子力発電国。一方で老朽化も進んでいるだけに、動き出すと一気に加速する可能性もある。

 またドイツは、2002年に原発を段階的に廃棄する法案を可決した。シュレーダー連立政権(社会民主党と緑の党など)が連立の政策協定を実現させたのである。ドイツで現在運転中の原発は17基だが、現在のメルケル連立内閣は廃棄計画そのものを見直す(つまり廃棄せずに新たにつくることも視野に入れる)可能性がある。

 IEA(国際エネルギー機関)の見通しでは、2030年までに原発による発電量は、少なく見積もっても13%、多く見積もれば40%も増加する可能性があるという。

 こうした情勢を背景に、原子力メーカーは一転強気に転じているという。たとえばGE(ゼネラルエレクトリック)の原子力部門では2020年までに6600万キロワット(原発にして44基分の発電量)の発注があるだろうとし、またフランスの大手原発メーカー、アレバでは2030年までに130カ所の原子力発電所が建設されるだろうとしている。

 原子力が注目されているのには、いくつか理由がある。ひとつはコストの問題だ。現在の相場で見ると、原子力の発電コストは石炭とガスよりも安く、石炭とほぼ同じだ。それに環境に与える負荷は小さい。原子力は、化石燃料と違って温暖化ガスの原因とされる二酸化炭素を出さない(これをカーボン・フリーと呼ぶ)。そして供給面も天然ガスや石油といった化石燃料とは状況が大きく違う。原発の燃料であるウランの主な産地は、カナダやオーストラリア。すなわち政治的に安定した地域のシェアが大きいのである。

 こうした理由から、原子力発電所が「復権」しつつあるが、原発事故への懸念がなくなったわけではない。これまで、原発の大きな事故ではアメリカのスリーマイル島、ソ連のチェルノブイリ原発事故がある。事故そのものの大きさもさることながら、とりわけチェルノブイリは今でも立ち入り禁止の場所が多く、地域住民の健康被害も報告されている。

 それにもっと大きな問題は、原発から出る「核のゴミ」をどう処分するのか、多くの国で悩んでいるという状況はまったく変わっていないということだ。使用済み核燃料やその他のゴミもそうだし、これから老朽化して古い原発を解体したときに出る大量のゴミも同様である。このような問題の解決策が見えないままに原発建設ラッシュに入ることは、あまりにも将来に対するリスクが大きいというべきかもしれない。


 

更新日: 2006年12月1日



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