|
Vol. 28 「サブプライム問題の本質」
世界の株式市場が揺れ動いている。
ただ、目立つのは株価の乱高下だが、実際には金融市場が揺れ動いているというべきである。
原因はアメリカの住宅金融であるサブプライムローンの焦げ付きにある。
サブプライムローンとは信用度の低い個人向けの住宅ローンだ。だから金利が高い。
アメリカは長い間、住宅市場の活況を背景に経済成長が続いてきた。
住宅産業の好調に加えて、住宅価格が値上がりすることで家を買った消費者は
さらにローンを借り増してそれを消費に充てていたのである。
住宅販売がピークを過ぎれば、当然、借り手も減ってくる。
というわけで、住宅金融会社は大手銀行などが見向きもしなかった個人に
ローンを「押し売り」して家を買わせ始めた。それがサブプライムローン問題の第1幕である。
金融会社は貸し出した住宅ローン、つまり債権を分割して証券化する。これが第2幕の始まりだ。
証券化するのはリスクの分散を図るためである。
その証券に食いついたのが、いつも有利な運用先を探している銀行やヘッジファンドなどである。
そしてヘッジファンドは、利回りを高めるために、銀行から借り入れをする。
1億円を10%で回しても1000万円の利益だが、金融機関から1億円を借りて
同じく10%で回せば2000万円の利益。金利(たとえば3%)を払っても1700万円残る。
そうすると1億円の利回りとしては17%ということになる。
というわけでヘッジファンドは金融機関から借り入れて(これを「レバレッジを効かせる」という)運用する。これが第3幕への重要なつながりになる。
さてもともと信用度の低い個人に貸し付けた住宅ローンだから、
延滞がかなりの率で発生するのは避けられない。
今年の第1四半期で14%程度だったが、これは上昇する可能性が高い。
なぜなら支払い能力がもともと十分でないため、初めは返済額が少ない形にしてあるからである。
その見直しがそろそろ始まる。金利支払いが増えたり、元金の返済額が増えたりすれば、
当然、返せなくなる消費者は増えるはずだ。これが第4幕。いよいよサブプライム危機の始まりだ。
返済が滞ると、それに裏打ちされた証券の価値も当然下がる。格付け会社は、
こうした状況の推移を受けて一気にサブプライムローンが組み込まれた証券の格付けを
引き下げた。
これでヘッジファンドなどに損失が発生しはじめる。ところが、リスクが分散されているために、
どの金融機関がどれぐらい損をしているのかがよく見えない。
ドイツの中堅銀行が大きな損失を出したとはいえ、その他の金融機関の実態がよくわからないのである。もちろん当の金融機関ですらよくわからないという事態になった。
そこで問題が起きたのが、いちばん信用度の高い、銀行同士の資金融通市場だった。
隣の銀行が大損をしているかもしれないのに、資金を融通する銀行はない。これで短期金融市場が
収縮しはじめる。事態を重く見た欧米の中央銀行は短期資金の注入を決意する。
アメリカのFRB(連邦準備理事会)は、さらに公定歩合も引き下げて、この危機に対処する姿勢を見せた。
これでパニックは脱した格好になったものの、この原稿を書いている9月末の段階では、
株式市場も世界的に落ち着かない様子である。
サブプライムローン危機の教訓はいくつかあるが、
一つは、世界的にカネがだぶついていることがこの危機の背景にあるということ。
そしてもう一つは金利があまりに安いと、過剰に流動している資金にエネルギーを与えてしまう
ということである。日本の円は、金利が安かったために、ファンドが円を借りてそれを金利の高い通貨で
運用するという円キャリー取引をしていた。このため円安になっていたのである。
ところがサブプライムローン危機が始まると、この円キャリー取引を解消するために逆の流れが起き、
急激に円高に振れた。日銀は昨年3月の量的緩和解除以来、2度金利を引き上げているが、
それでも目標金利は0.5%にすぎない。政府は、景気の腰が折れるのを心配して円安を放置し、
かつ金利を引き上げることに反対してきた。この円の低金利が、円キャリー取引を生み、
そして円安を生んでいたのだ。
世界的なこのカネ余り現象を改善しないと、こういった金融市場の不安定さを根本的に解消することは
できない。サブプライムローン危機では、日本の金融機関が被った損害はそれほど大きくはないが、
資金の運用先を探すのが大変なことは日本の金融機関も同じ。
カネ余りを何とかしないと、いつ同じような現象が起きるかわからないのである。
日本経済だけの事情を見て、金利の上げ下げを論じる時代は、よくも悪くも、
グローバリゼーションの中で終わっているのである。
|