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「今を読み、明日に備える」

藤田正美 (ふじたまさよし)

元ニューズウィーク日本版 編集長

<生年月日> 1948年生まれ
<最終学歴>  東京大学経済学部卒業

東洋経済新報社で経済記者を14年勤めた後、
ニューズウィーク日本版創刊に参加。
1994年から2000年まで7年間、同誌編集長、
2001年より同誌編集主幹。
2004年に退社し、現在フリージャーナリストとして活動。


Vol. 30 「福田政権は買いか売りか」


9月12日に安倍首相が突然政権を放棄し、ようやく25日になって福田政権が誕生した。
各紙の世論調査では50%台後半の支持率、思ったよりは高い数字が出ている。

なぜ「思ったより」なのか。それは福田さんが急に立候補を決めたために、政策に関して明らかにするほどの準備ができず、その分、きわめて抽象的なことしか言わなかったという印象があるからだ。2001年の小泉さんを思い出してみるといい。「自民党をぶっ壊す。郵政を民営化する」と叫んでいた。郵政民営化は既得権益を打破するということであり、それを打破すれば当然、既得権益の固まりである自民党はぶっ壊れるからだ。

良くも悪くもビジョンを明らかにした小泉首相や安倍首相に比べると、福田首相には日本をこの方向に持っていくというビジョンが見えない。有権者は2001年以来、小泉さんの手法に慣れてきたから、福田さんのように曖昧なことしか言わない首相は受け入れなくなっていると思っていた。だから支持率が50%を遙かに上回るとは思わなかったのである。

この数字は何を意味しているのだろうか。
有権者は、突然政権を投げ出した首相にびっくりして次は安定感のある人が欲しかったのか? 
それとも小泉改革はやりすぎだったから、少し抑えてくれる人が欲しかったのか? 

地方との格差や個人間の格差が広がったのは、小泉改革のせいだったという認識が広まっている。ここには二つの疑問がある。一つは、改革をやりすぎたから格差が広がったのか。これについては、むしろ改革がまだ途上だから格差が広がっているのだという反論がある。二つ目は、改革をしなかったらいったい地方はどうなっていたのか。たとえば夕張市のような問題は、もっといっぱいあちこちの地方で出ていたのではないか。なぜならいっこうに上向かない景気を財政出動で何とかしようという動きが全国にあったからである。

そうなったら国と地方を合わせた公的債務はもっと大きくなっていたはずである。
経済を立ち直らせることなく、債務を減らすことはできないというのが小泉改革のひとつの目標であった。
いわゆる「成長戦略」である。そのために小泉内閣では民間委員を入れた経済財政諮問会議が重要な
役割を果たした。しかし安倍政権ではこの会議の影はすっかり薄くなってしまった。
福田政権ではもっと薄くなってしまうだろう。つまり改革に軸足を置いた小泉政権とはまったく違う政策が
実行されることになるという予感である。

自己負担分や医療保険の保険料が上がることになっていた高齢者医療費については、もう見直す方向で動いているなど、連立を組む公明党の意向が強まっていることをうかがわせる政策変更も見受けられる。

派閥連合型の選挙で勝った福田さんは、派閥の領袖を党役員に据え、「挙党一致体制」をアピールしている。そうなると、各派閥の言い分を聞いていくようなことになる。財政赤字を縮小させるといういわば「国際公約」は反故にされる可能性も出てきた。

問題はここだ。これまで円の金利が安いことを理由に日本市場に食い込んできた外国の銀行や証券会社が、「日本はやはり改革ができない国だ」と思ってしまうかもしれないということである。もし日本に対する投資が減るようなことがあれば、株価は下がるし、世界の製造業からも日本という国が見放されてしまうかもしれない。

日本が売られてしまわないためには、民間にできることは民間に任せるという従来の改革を地道に続けていくことしかない。それができるかできないか、福田さんを見つめる内外の視線はけっこう厳しいのである。なぜなら、日本がデフレ状況にあるとき、日本経済は世界経済にとってひとつのリスクであった。日本初の世界恐慌などとある程度は本気で議論されていたのである。その頃に比べると、今の日本は大きなリスクではない。かといって、日本経済の力を純粋に信じていいのかどうか、そこはまだ疑問に思っている投資銀行が多いのも事実。福田さんがどれほどの事をするのか、
外国系の投資銀行などは、真剣に見守っている。もしそれが期待に沿わないことが分かれば、彼らは一気に売りにでるかもしれない。

福田さんは「背水の陣内閣」と呼んだが、背水の陣を敷いたのは福田さんだけではない。ここで経済政策が逆コースに入る(改革が実行されない)ようなことがあれば、日本はたちまち売られてしまう。そうなったらたちまち解散・総選挙ムードが高まるだろう。それがいつになるのか。問題はそれである。

 

更新日: 2007年10月1日

 



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