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「今を読み、明日に備える」

藤田正美 (ふじたまさよし)

元ニューズウィーク日本版 編集長

<生年月日> 1948年生まれ
<最終学歴>  東京大学経済学部卒業

東洋経済新報社で経済記者を14年勤めた後、
ニューズウィーク日本版創刊に参加。
1994年から2000年まで7年間、同誌編集長、
2001年より同誌編集主幹。
2004年に退社し、現在フリージャーナリストとして活動。


Vol. 37 世界経済


昨年8月に噴出したサブプライムローンに絡む金融商品暴落問題。世界の金融機関が計上した損失はすでに2000億ドル(約20兆円)を超えた。一部で峠を越えたという見方もあるものの、ゴールドマンサックスのアナリストは、損失額が1兆2000億ドルに達するだろうとの予測を発表している。

損失額がどの程度になるかはともかく、少なくとも金融収縮は続いている。どの金融機関がどの程度「健全」なのかがよく見通せないため、お互いの資金融通が滞っているのである。そして金融機関はバランスシートを立て直すべく、超大型増資に踏み切り、産油国などのソブリン・ウエルス・ファンドが出資している。

そんな中で、IMF(国際通貨基金)は慎重な世界経済見通し(ワールド・エコノミック・アウトルック)を発表した。それによると、世界経済の2008年の成長率は3.7%、今年の1月の見通しよりもさらに0.5%ポイント下方修正された。2007年は4.9%だからかなりの減速である。しかもIMFのエコノミストの見方では、2008年と2009年に経済成長率が3%を切る可能性も25%程度あるという。インフレ率を考えれば、実質的にグローバルな景気後退である。

アメリカ経済については、2008年に緩やかな景気後退に入り、回復は2009年になるとしている。ヨーロッパも金融収縮が起こっているほか、一部の国で住宅が低迷していることなどから、潜在成長率を大きく下回るとしている。

もっとも、中国やインドなど急成長中の発展途上国がアメリカなど先進国の景気減速を補うという見方もある。いわゆるデカップリング(切り離し)論がそれだ。世界経済の牽引してきたアメリカがこけても、発展途上国がアメリカに替わって牽引するという議論である。

しかし実際にはそう簡単ではない。たとえば中国でも株価はピーク時に比べて一時は半分になった。それに何といっても、景気が過熱しているという証拠が積み上がっているため、政策当局は少し手綱を締めようとしている。そうしないとインフレ圧力が手に負えなくなる可能性もあるからだ。

しかも世界的に、原油や穀物などの「商品」の値上がりが激しい。原油相場は、投機的な要素も大きいが、1バレル100ドルをはるかに超える水準で推移している。電力業界などに言わせれば、実勢は60ドルというが、現時点では、そこまで落ちる可能性はまったく見えない。

原油に加えてこの数年、穀物の値上がりも著しい。トウモロコシ、大豆、小麦、コメといった主食になる穀物が値上がりしている。大きな理由は需要サイドだ。一つは、中国などが豊かになることで、食生活が変わってきたこと。穀物だけでなく肉の消費が増えてきた。家畜を育てるためには大量の資料穀物が必要だから、必然的に穀物消費が増える。二つ目は、バイオエタノールである。アメリカのブッシュ大統領が2005年にバイオエタノールを利用することでガソリンを節約するという方針を打ち出して、アメリカのトウモロコシからエタノールを生産する工場が次々に建設されてきた。

トウモロコシの値段が上がったため、大豆からトウモロコシに作付けを変更する農家も増え、結果的に大豆も値上がりしている。今年に入ってからはコメも急騰し、今や農産物の輸出を停止したり、禁止する国もある。アフリカなどでは食料価格の値上がりで、貧困層が十分な食料を手に入れることができず、暴動も発生している。

エネルギーに続いて食料の価格上昇で、世界各国のインフレ圧力が強まっている中では、景気減速に対応して大幅に金利を引き下げることはむずかしい。アメリカでも4月末で金利引き下げは打ち止めという観測が強まっているようだ。

日本では日銀が景気の下ぶれリスクを懸念してこれまでのような金利引き上げにこだわる姿勢から脱却したが、逆に景気が悪化しても金利を引き下げる余地もほとんどない。すったもんだの末に日銀総裁に就任した白川総裁だが、金融政策の舵取りはもっと困難かもしれない。

 

更新日: 2008年5月1日



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Vol.32 「危うしアメリカ経済」
Vol.31 「やっぱり来た消費税」
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Vol.29 「サブプライム問題の本質」

Vol.28 「リーダーの条件」

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