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「今を読み、明日に備える」

藤田正美 (ふじたまさよし)

元ニューズウィーク日本版 編集長

<生年月日> 1948年生まれ
<最終学歴>  東京大学経済学部卒業

東洋経済新報社で経済記者を14年勤めた後、
ニューズウィーク日本版創刊に参加。
1994年から2000年まで7年間、同誌編集長、
2001年より同誌編集主幹。
2004年に退社し、現在フリージャーナリストとして活動。


Vol. 39 「日本は『環境大国』になれるか」


7月に開かれる洞爺湖サミット。議長国日本としての最大の売りは「環境」である。数値目標については相変わらずアメリカの抵抗が強い。いずれにせよブッシュ政権は今年で終わりだし、11月の選挙で民主党のオバマ候補が勝てば、アメリカの態度はガラッと変わるだろうから、いまあわてて何かをまとめなくても、という気分が各国首脳のどこかにあるだろうと想像する。

問題の焦点は、今や世界最大の温暖化ガス排出国になった中国や急増中のインドといった発展途上国を削減義務の枠組みに入れられるかどうかである。

発展途上国側の議論は、要するに「先進国はさんざん温暖化ガスを排出して経済発展を実現してきた。いま発展中の国に同じように削減義務を課すのは公平ではない」というもの。それに対してアメリカは、発展途上国が参加しなければ実効性がないと主張する。

中国が世界最大の排出国になったとはいえ、国民一人当たりで見れば、依然としてアメリカ人の4分の1以下である。もちろん日本人よりも少ない。温暖化ガス排出削減が全地球的問題であることを考えれば、現在の排出量に対して責任を負うだけでなく、「過去への責任」も負わねばならない。それが「公正」ということだと思う。

この問題では、日本国内自体もまだまとまっていない。日本政府は各産業セクター別に積み上げたアプローチを提唱しているが、EU(欧州連合)は基本的にキャップ&トレード方式で削減しようとしている。要するに企業にも排出削減義務を個々に課すことで、それを上回って達成した企業は、余った分を市場で売ることができるというものだ。買うのは、自力では目標に到達できそうにない企業である。

日本では賛同者が少ないこのキャップ&トレード方式を、東京都が採用するというので話題になった。石原知事は東京都が先駆けになって、事業所に対して削減義務を課し、排出権を取引する市場を設けるというのである。

しかし温暖化ガス排出件の「商品化」には批判もある。まず商品にすれば、ヘッジファンドなど金儲けのチャンスを鵜の目鷹の目で探しているマネーがすぐに食いついて、本来の目的とは違う方向に行きかねないこと。それに各企業の削減目標が「公平」であることがどうやって担保されるのかということだ。

とりわけ企業によって、たとえば省エネ投資などにはかなりの温度差がある。第一次石油ショックを契機に省エネ投資をやってきた企業も、エネルギー価格が落ち着くにしたがって、省エネ投資をしてこなかった企業も少なくない。もしこうした事情を勘案せずに削減義務を課されると、これ以上の省エネがやりにくい企業と、省エネをさぼってきたから削減する余地がある企業とでは、公平な競争にならないというのである。

30年以上も前の自動車排ガス規制のことを思い出す。あの当時、アメリカのカリフォルニア州が率先して出した排ガス基準はどこの自動車メーカーも達成できないと反対した。そうした中で、ホンダが真っ先に排ガス規制に対応した車を開発した。燃費の改善についても熱心に取り組んだ。いまハイブリッド車で世界をリードするトヨタにしても、電気を使う研究は何十年も行っている。

排ガス規制にせよ、燃費規制にせよ、アメリカのGMやフォードは一貫して消極的だった。そしてトヨタやホンダは、今では押しも押されもせぬ世界的メーカーになった。温暖化ガス排出削減やエネルギーの効率化は、企業にとっては「規制」でもあるが、同時に「ビジネスチャンス」でもある。画期的な技術を開発した企業は、世界の舞台に躍り出ることができる。しかも「不公正競争」などと欧米企業から非難されることもない。そう思い定めれば、自主基準でも国が決めた基準でも、さして問題はないと思うのだが、それは乱暴な意見だろうか。

 

更新日: 2008年7月1日



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