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Vol.5 『スポーツ中継のいろは その5』
前回からのお話は、私の専門分野も専門分野、
核心部分な訳ですけど、興味の無い方は、ここは飛ばすことをお勧めします。
さて。実況の公理について多少補足すると、目の前で繰り広げられるスポーツなどの事象を、分かりやすく、正確に、さらにきちんとした日本語で表現し、視聴者に伝えること、である。最後の伝えるという文言が実は大切なのであって、伝えることに意義がある。なぜなら、実況も報道だからです。
その実況だが、放送においては次の3つのパートから構築されている。
- 即時描写力
- 会話
- フリートーク
簡単に説明すれば、即時描写とは、『ピッチャー 第1球を投げました!打ちました!』というアレです。狭義の意味での実況とは、まさにこのこと。会話とは、解説者やゲストとのやり取りを指し、広義でのインタビューといえるかもしれない。フリートークとは、一人しゃべりの部分で、番組の冒頭の挨拶や状況説明など、1.2.以外のすべてが含まれる。
この3つのパートの組み合わせ・割合は、アナウンサー一人一人によってもちろん異なるし、種目によっても違ってくる。これからお話する採点系競技については、上記の内容を踏まえてお聞き願いたい。
採点系競技の場合、体操やフィギュアスケートのように、動きの美しさ・優美さ・芸術性を競うことを目的の一部にしている種目が多い。他にも、新体操・シンクロナイズドスイミング・飛び込みなど。ハーフパイプやモーグル等も採点系ではあるが、あくまで少数派といえよう。(モーグルはタイムも絡んでくるが、主軸はジャンプや滑走時の動きを採点するところにある。)
これらの採点系競技の特徴は、ほとんどが減点法であるということ。ある得点以上は絶対に上に行かない、競技でのミスを見つけて減点していく。難しい技が成功したので、では何点加算します・・・とはならない。加点するという考えは、採点の要素として含まれてはいるが、本筋は『捻りが不十分なので−0.1ポイント』ということである。
では、採点系競技の実況のポイントはどこにあるのかといえば、減点になるかならないかの指摘・・・、極論するとこうなる。さらには、上記の即時描写力をあまり必要としない。これもポイント。種目によってはほとんどいらないものもある。具体的に喋ってみると、『富田、 まずトカチェフの連続! ・・・ ・・・ コバチ決まりました!・・・ ・・・ フィニッシュは、伸身の新月面。・・・ ウ〜ン!着地が半歩前に出ました!』。あッ!いい忘れていた。もちろんこれらはテレビにおける実況である。ラジオは別ですヨ、念のため。
演技の中で、どこが一番の見せ所で、どこが一番難しいのか。それを演技の前、あるいは途中に振りながら、その場面にむけて盛り上げる。ただし、マイナス面(失敗)ばかり強調するのではなく、むしろプラス面(成功)をどう巧く表現するか、これが採点系のキモになるわけで、実況部分が少ないだけに、一つ一つの言葉の選択が難しいともいえるのである。
ここでいきなり思い出話を披露させていただくが、私はバルセロナ五輪で女子の体操と新体操を担当した。それは新体操を放送したときのことなのだが、優勝争いも佳境に入り、ブルガリアの金メダル候補の登場、という場面である。解説は、秋山エリカさん。どういう話を秋山さんに振るか考えているそのとき、彼女のコスチュームが目に飛び込んできた。真っ白なレオタード、真っ赤なボールを手に持って、胸を張って颯爽と彼女は入場してきた。
目を奪われたとはまさにこのこと、本当に色鮮やかであった。演技が終了するまでの4分間(?)、私はたった一つのことのみに集中した。白のレオタードと赤のボール。この組み合わせをどう表現するか。どうやって何に譬えるか。ず〜っとそのことのみを考えていた。秋山さんがなんと言っていたか、まったく聞いていなかったし、なにしろ私はその間一言も実況しなかった、喋らなかったのだ。
『白と赤で日の丸? 彼女はブルガリアだぞ!』『雪の上に真紅のバラ? ありふれてるなア〜!』『誰もいない昼下がり。白砂の海岸に一人佇んで、焼けるような太陽の光を浴びている人形のような女の子?長過ぎ!しかもセンス悪!』『銀シャリに梅干?アホか!』
そして。最終的には・・・、何も表現できずに終わった。適当なことを言って話しは纏めたが、後で落ち込みました。俺はアナウンサーに向いてない・・・と真剣に思いました。だから、今でも後世に残るような名文句を一度放送で言ってみたいと、願っている次第である。
さて、次回はいよいよ単独記録系の話だが、こちらはメンタルというファクターが実に面白い。
スポーツ以外にも通ずるものがあるかもしれません。
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