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「子育てカウンセリングレポート」

山崎 雅保(やまざき まさやす)

心理健康ジャーナリスト/子どものふるさと研究所主宰

心理カウンセリング「ハートピット」所長。
心理セラピストとしてカウンセリングを担当する一方、
親子問題、教育問題、更には心の健康に関する執筆活動や
教育関連の団体での講演会を精力的に行う。
日経BPオンラインの『土壇場の夫学』を連載中。

豊富なカウンセリング経験に立脚した”現代社会人または子ども達を
取り巻く環境”についての講演は全国の教育関連担当者達の間でも好評。
子どものための歌ほか、自作曲によるコンサート活動も行っている。


Vol. 5 『予期されていた悲惨』


連鎖を重ねた通り魔凶行。頻発する親殺し。メディアによって「心の闇」との無意味な常套句とともにコメントされがちな事件が報道されるたびに、私は次の一文を思い出します。

「本委員会は、貴締約国が教育を重要視し、その結果きわめて高い識字率を誇っていることに留意するものの(中略)、極度に競争的な教育制度によるストレスのため、子どもが発達上の障害にさらされていること、および教育制度が極度に競争的である結果、余暇、スポーツ活動及び休息が欠如していることを懸念する。本委員会は、更に、不登校の数が膨大であることを懸念する。」

これは国際連合児童基金=ユニセフの「子どもの権利委員会」が、今より10年前の1998年に日本政府へ向けた「提案と勧告」の一部(22項)です。(日本語訳/子どもの権利条約市民NGO報告書を作る会事務局長・世取山洋介氏)

ここにいわれている「発達上の障害」は「人間的な感情交流能力の発達障害」、すなわち「コミュニケーション能力の発達障害」と受け止めておくのが適切だと私は考えます。

同時に、ここでいわれる「スポーツ活動」はsports本来の意味である「楽しみ・遊び」の意味合いが強いものであり、鍛練や根性が強調されがちで強制感を伴う学校スポーツ(競技・運動)とは異なるだろう点にも注意しておくべきでしょう。

 同「提案と勧告」では、以下の指摘にも注目しておくほうがよいでしょう。
「本委員会は、印刷物、電子メディア及び映像メディアの有害な影響、特に暴力及びポルノから子どもを保護するために法的措置を含むあらゆる必要な措置を取るべきことを貴締約国に勧告する。(37項)」
 ここにおける「電子メディア」に該当するのは、コンピュータゲーム、携帯電話、インターネット、ヘッドホーン型携帯オーディオなどです。

  すでにお気づきの方も多いはずです。この「提案と勧告」を受けてから今日までの10年余り、日本政府(というよりも日本社会の大人たちである私たち)は、指摘されている懸念を軽減する工夫を重ねたとはいえません。むしろ、無策のまま放置した結果、状況は悪化したとさえ、私は感じています。

昨今の日本の多くの家庭では、テレビ、コンピュータ、ゲームが常に介在していて、親子・兄弟姉妹・夫婦の生なコミュニケーションが極端に阻害されています。「生なコミュニケーション」とは「時空の共有」であり「豊かな感情交流」であり「五感を駆使してのたわむれ」などです。

忘れてはなりません。子ども達は、幼少期から、家庭内における「生なコミュニケーション」をたっぷり体験しなければ人間として必要なコミュニケーション能力を培うことができません。コミュニケーション下手で社会適応できぬ子ども・若者が激増している背景には、コミュニケーション能力を培えなくなった家族・家庭の蔓延があるのです。

家庭においても、街中においても、ヘッドホーン型携帯オーディオで両耳をふさいでいて平然としている人々。彼ら・彼女らは、五感の中でももっとも幅広い情報収集のアイテムである耳をふさいでいます。耳をふさぐ。要はコミュニケートを拒んでいるのです。

口より先に手が出る。言語を主とする人間的なコミュニケーションができないがために、もっとも原始的なコミュニケーション手段である暴力に走ってしまう様をあらわす言葉です。コミュニケーション能力が未熟な心は、感情交流が苦手であるために行き詰まりがちです。行き詰まるまでは「おとなしい人・子」でありがちな彼ら・彼女らは、表現できない感情を心に圧し込め続けたあげく、ときには口より先に手が出る形で、凶行に走らざるを得なくなってしまうのです。

「事件」の背景はそんなに単純なものではない、のもたしかでしょう。そうではあるのだとしても、私たちのこの社会が、子ども達のみならず大人達においても、人間として必要不可欠なコミュニケーション能力を培うことを軽視してしまっているのも事実です。その結果、悲惨な事件は今後もくり返され続けるだろうと私は観察しています。

どうしたらよいのか。何はともあれ「親子が五感を駆使してたわむれる」という、親子・家族として当たり前であったはずの情景を、どの家庭においても取り戻すほかありません。

 勉強においていかに「優秀」なのだとしても、人間的コミュニケーション能力が欠如している人は、社会適応のどこかで深刻な行き詰まりに直面します。
私は、それまでのカウンセリング体験をもとに『しゃべらない子どもたち・笑わない子どもたち・遊べない子どもたち』(メタモル出版/片岡直樹氏との共著)において、発達障害としてのコミュニケーション能力欠如について強くアピールし、対策についても提言しました。
5年ほど前のことです。状況は当時よりも明かに悪化しています。




<山崎 雅保講師のコラム バックナンバー>

VOL.4 「わが子への愛とは」
VOL.3 「救われた幼児」

VOL.2 「親としてもっとも大切な役割は」

VOL.1 「コミュニケーション力を失った子ども達」



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