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「子育てカウンセリングレポート」

山崎 雅保(やまざき まさやす)

心理健康ジャーナリスト/子どものふるさと研究所主宰

心理カウンセリング「ハートピット」所長。
心理セラピストとしてカウンセリングを担当する一方、
親子問題、教育問題、更には心の健康に関する執筆活動や
教育関連の団体での講演会を精力的に行う。
日経BPオンラインの『土壇場の夫学』を連載中。

豊富なカウンセリング経験に立脚した”現代社会人または子ども達を
取り巻く環境”についての講演は全国の教育関連担当者達の間でも好評。
子どものための歌ほか、自作曲によるコンサート活動も行っている。


Vol. 6
 『学力』

  「学力」そのものが「豊かに生きる力」ではないことくらい、誰しも先刻承知のはずなのに、なぜなのでしょう、「学力」にこだわったあげく子どもの人生を台無しにしてしまう親が後を絶ちませんね。

 私の知己の一人に大変に優れた「教育者」であるHさんがいます。実をいえば、Hさんは文字通りの「教育者」ではありません。ドイツ語の訳語である「教育」を行うのではなく、英語のeducationが意味する「educeする者≒個々が秘め持つ能力を引き出す者」であるのがHさんです。
Hさんは子どもの心を惹きつける女性です。おそらくは母性の気を強く発しているのでしょう。事情があってやる気を失ってしまった子ども、心荒んでしまった子どもなどが数多く集う彼女の教室は、いつも満杯・予約空き待ちの状況が続いています。
Hさんが発する母性の気には、子どもの意欲・生命力を再生させる力があるようです。

  つい先日、私はHさんから次のような話をしました。
「あるお母さんが、年中さんのお子さんを連れてきて、ぜひ引き受けてほしいというんですよ」
年中さん。幼稚園・保育園の「年少・年中・年長」の年中さんです。そんな小さな遊び盛りの子が、何に対するやる気を失ったというのか。聞いてみると「お勉強に対するやる気」だったといいます。
「すでに平仮名も数字も書ける。読み書きもさせたし足し算引き算もできるようになっている。ところがここにきてすっかりやる気をなくしてしまった。お母さんは、そこを何とかしてほしいと訴えるんです」

本来なら幼稚園生は引き受けないHさんです。けれどこの場合は考えました。
幼児教育に猛進してしまう強度に切迫型の母親。早すぎる「お勉強させられ」の影響もあって、友だち遊びが一切できなくなっている子どもの様子。

「このままだとあの子はボロボロになってしまう。つぶれてしまう」
Hさんはそう考えました。そこで強く条件提示した上で、その子を引き受けることにしました。
「自宅学習は一切させないでください。ご自宅で勉強していようがしていまいが、どんな状態であっても何もいわないで、ただひたすら要求を受け入れ甘えさせてやってください。加えて親子でさまざまに遊びたわむれてください。そうしてくださるならお引き受けします」
お母さんは、Hさんからの強い指示を受け入れ、なんとかそのとおりの日々を送るべく努めたのだそうです。

Hさんも、その子が塾にやってくるたびにただひたすらに遊びました。Hさんは子どもと遊ぶ名人です。そのときどきの子どもの様子に即しながら当意即妙で遊びます。
 「子どもにとってもっとも大事なのは、さまざまな場面に応じて存分に遊べるスキルを養うことです。親にとってもっとも大切な役割は、子どもの心身にこの世界を相手に存分に遊べる能力を培ってやることです。

  子どもとたわむれ遊ぶことができない親が増えてしまいました。幼児期から子どもに勉強を強いてしまう親も増えてしまいました。そんなことじゃ子どもの心身は育ちません」
早期教育・幼児教育は子どもの心身の発達のみならず学力の土台作りを阻害する。早期教育にさらされた子どもの学習能力は、大半の場合に頭打ちになり、社会適応力も損なわれがちになる。それはHさんと私の一致した見解です。

私はさまざまな場面で断言してきました。
「心身を駆使して存分に遊んだ子どもは、仮に学力が低くても、学歴が低くても、この社会を立派に生きるようになります」

これはカウンセリング経験を通じて得た確信です。
学業偏重の家族文化の中で成績向上のみを期待され、この世のさまざまとたわむれ遊ぶ体験が不足した子どもは、青年期にいたるどこかで、ときとして回復不能な心的崩壊に至ることさえあります。あるいは高学歴ゆえに社会的には成功者とみなされながら、夫婦としての関係を培えず、親としての最低限の能力を獲得できないまま年齢ばかりを重ねる「大人」も少なくありません。
私は、そのような事例を数多くみてきました。
遊べない子ども以前に、遊べない大人が増えました。ゲーム機頼りの時間つぶし。テレビ任せの時過ごし。どちらも本物の遊びではありません。

  大がかりな行楽、お金をかけての消費的遊びはするけれど、当り前の日々の中で親子でたわむれ遊ぶことができない親たち。そんな親の下で育つ子に、十分な「遊び能力」は培いにくいのが必然です。
私たち現生人類の学名は「ホモ・サピエンス・サピエンス」。他方で、現生人類によりふさわしいのは「ホモ・ルーデンス」だとする意見もあります。ルーデンスは「遊び」を意味するラテン語だそうです。
人とは、哺乳類の中でももっとも多様に遊ぶことができる能力を持つ種。働くことも、社会活動することも、家庭生活を営むことも、学ぶことも、すべては「遊び」の延長線に成立する活動です。


どうかみなさん、身心を駆使して遊べる大人であってください。そして子ども達に、心身と知恵を駆使して遊ぶ面白さと満足を伝えられる大人であってください。




<山崎 雅保講師のコラム バックナンバー>

VOL.5 「予期されていた悲惨」
VOL.4 「わが子への愛とは」
VOL.3 「救われた幼児」

VOL.2 「親としてもっとも大切な役割は」

VOL.1 「コミュニケーション力を失った子ども達」



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