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藤田 正美のコラム「今を読み、明日に備える」
藤田 正美
藤田 正美(ふじた まさよし)
元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社で経済記者を14年勤めた後、ニューズウィーク日本版創刊に参加。1994年から2000年まで7年間、同誌編集長、2001年より同誌編集主幹。2004年に退社し、現在フリージャーナリストとして活動。

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Vol. 57 『そして2010年』
(2010年01月05日)

 92兆円を超える過去最大の予算案が決定した。これだけ景気の先行き不安が蔓延していては、とても緊縮財政など打ち出せるはずもないが、それにしても税収が極端に落ち込む中で、国債頼りの予算には懸念が募る。

先日もある金融の専門家がこう言った。「長期金利急騰でトリプル安になる」。トリプル安とは株安、債券安、円安である。たしかに、今回の予算案を見ると、金利が急騰するというリスクはますます大きくなりつつあるように見える。民主党政権は、来年度の国債発行額を44兆円前後に抑えるとしているが、実際のところ税収がさんたんたる有様であることを考えると、いくら埋蔵金を掘り出したとしても44兆円で本当に賄えるかどうか心許ない。それに2011年度についても法人税収がどこまで戻るか、不安は大きい。国の借金は860兆円。これだけの借金を抱えていて、いつまでも長期金利が安いというのもおかしな話だと思う。

もちろん、現在の経済状況がいまだに危険地帯から脱したとは言えないことは金融市場も含めて共通認識であるから、政府の借金が増えることは理解される。大事なことはその先のところまで政府がビジョンを示せるかどうかだ。しかし鳩山首相の言葉を聞いていても、どうもそのあたりがはっきりしないし、民主党の中でも危機感があまり感じられない(というより、今の民主党はマニフェストと来年の参院選で手一杯になっている感じがする)。これでは近いうちに市場に愛想をつかされても仕方があるまい。

それに加えて、日本は厄介な問題も抱えている。現在でも35兆円を越える需給ギャップがあると見られることだ。そのためにデフレの解消もめどがたたない。GDP(国内総生産)の7%にあたる需給ギャップをどうやって埋めるのか、それこそこれからの成長戦略の要と言ってもいい。

 そのときに大きな影を落としているのが、少子化そして人口減少だ。いまだに人口減少は問題ではないなどとのんきなことを言っている政治家もいるが、人口が減るということは消費が減るということであるという単純な事実を忘れているとしか思えない。子供の数を考えてみるといい。今は毎年100万人前後の子供しか生まれない。団塊の世代と呼ばれるわれわれの時代は一学年200万人をはるかに超えていた。子供が増えるときには黙っていても消費は増える。しかし子供が減るときには黙っていれば消費が減る。人口減少下で経済を成長させるのはそう簡単なことではないのである(人口が減っても大丈夫という論者は、だいたい生産性を上げることによって労働力不足を補えると主張する人が多いのだが、消費が減るということにどうして触れないのかそこが解せない)。

もちろん、こうした中でも、企業としての生き残り戦略というか成長戦略は成立する。新しいサービスや新しい製品を開発することができれば、その企業は成長することが可能である。もちろん優れた技術があれば、生き残るチャンスは大きくなるだろう。それと同時に、今までの発想から抜け出すことが重要だと思う。

自動車産業を例にとると、日本国内の需要から見て、自動車産業が元の状態に戻ることはない。むしろ国内生産は現状維持が精一杯と考えるべきなのかもしれない。そうなったら自動車部品の会社は他社のシェアを奪うか、技術を転用して製品の多様化を図らなければ企業の成長どころか現状維持すらままならない。そのときに重要ななことは、自社の技術を国内で勝負するのではなく、海外で勝負することだと思う。これまで日本の中小企業は基本的に国内企業の仕事を受けることで事業を継続してきたが、より独立した企業としての地位を固める時代に入っているのかもしれない。

巨額の借金を抱えた「お上」はもうあまり当てにはできない。それにお上には新しい発想が生まれる可能性はあまりない。なぜならば「変化」は得意ではないからである。そうであれば、日本という国がもがき苦しんでいる今こそ、企業にとってはパラダイムを変換する大きなチャンスと言うべきなのだろう。




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