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内田 裕子「内田裕子が現場に走る」
内田 裕子
内田 裕子(うちだ ゆうこ)
経済ジャーナリスト

大和証券にてトレーダーを経験後、社内TV放送「大和サテライト」のキャスターに抜擢され広報部へ異動。経営者・アナリストとの対談番組へ出演する。その後、財部誠一事務所へ移籍し、経済ジャーナリストとして活動。国内だけでなく、欧米、BRICsや新興諸国などの海外取材も多い。

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Vol. 12 『右肩上がりのコラボ・流行っているのに撤退する外食産業』
(2011年11月30日)

●右肩上がりのコラボの理由
 「多くの店が閉店する中、おかげさまでうちは右肩上がりですよ」。
 笑顔でそう答えたのは上海で日式イタリアンレストラン「コラボ」を経営している黒木論一さんです。去年の夏にBS日テレ『財部ビジネス研究所』の企画「若き企業家 上海での挑戦」で日本人が経営する3つの飲食店を取材させていただいたのですが、その中で、もっとも成功していたのが、このコラボでした。

 コラボの経営者は黒木さん、中村一昭さん、陳春楊さんの3人。同額を出資して共同経営というスタイルをとっており、厨房ではイタリアで修行をし、日本でもイタリアンレストランのシェフを経験している阿由葉知博さんが腕を振るっています。4人はいずれも30代という若さですが、経営の才覚がある黒木さん、コラボが別に経営するナイトクラブで大成功をおさめている中村さん、そして上海の事情に精通している陳さんが、それぞれの役割をこなし、シェフの阿由葉さんが若い中国人の料理人に繊細な味のイタリア料理を教える。4人は中国語が堪能なため、中国人従業員たちと自由にコミュニケーションを取っており、日常的に携帯メールのやり取りもしているといいます。まさに絶妙な"コラボレーション"が実現しているのです。

 コラボの成功については、以前このコラムでも詳しく書きましたが、今回、上海出張の際に「コラボ」の衡山路店と古北店に再訪することができました。
 東京でいうと青山のような所、と紹介される「衡山路」のお店に行ったのですが、まず目に付いたのは、中国人の女性ばかりのグループ。ワインを片手におしゃべりに花を咲かせていました。私たちのすぐ隣のテーブルには、若い中国人カップルが上品にコラボのイタリア料理を楽しんでいる姿がありました。お店のお勧めワインも1本300元~500元(1元15円)と決して安くはないのですが、躊躇なく乾杯をしていました。「最近、上海人は普通にワインを飲みますよ」と、一緒に食事をした上海人の友人がつぶやくのを聞きながら、中国人の中年男性がワイングラスをくるくる回して香りを確認しているのを見たりすると、上海にも洋食文化が浸透してきたのだなと感じました。

 たしか、去年の夏に伺った際には、コラボのお客さんは日本企業の駐在員やその家族、または外国人客がほとんどでした。中国人は上海政府の役人や企業経営者など、海外旅行を経験したことがあるような上流階級のみが、会食などでコラボを利用し始めたという段階であって、1回のディナーに支払う金額はダントツだったものの、客の割合としてはまだまだ少数派でした。
 ところが、今回は違いました。店内のお客さんはほとんどが中国人になっていました。とくに、翌日に伺った、住宅地「古北」にある店舗には、子供を連れた家族がいるなど、一般的な上海人をしっかり固定客にしていました。
 「いまはお客さんのほとんどが中国人ですよ」と黒木さんは言います。

 前回の取材の際に、コラボの成功のポイントは「日本人経営者が完全に現地化していること」と「日本人が一番働いていること」とレポートしましたが、1年たった今でも、それはまったく変わっていませんでした。オーナー陣がとにかくよく働きます。毎晩必ず店頭に出て従業員の働きや、お客さんの動向を観察して、常に改善していきます。飽きっぽい上海人を固定客にするには、並大抵の努力では上手くいきません。中国人従業員を仲間として扱い、中国人客の好みに耳を傾ける。上海の地でも、そのような客商売の基本を怠らないという姿勢がコラボをますます成長させているのでしょう。

●流行っているのに撤退、の外食産業
 しかし、そうはいっても中国。いくら好調なコラボでも良いことばかりではありません。つい最近、店舗のひとつが閉店したというのです。閉店したのは静安公園店で、2003年にオープンしたコラボの上海1号店であり、オーナー陣にとっては思い入れのある店舗でした。入居した際は「誰がやってもうまくいかない」といういわくつきの物件だったようで、さらにSARSウィルスの騒ぎがあり、借り手がいなかったため、安い家賃からスタートすることができました。パスタなど食べたことがない中国人相手に最初は苦戦しましたが、根気強く商売を続けた結果、いまではパスタを中心としたカジュアルイタリアンとして、周辺地域にも認知されて固定客もしっかりついていました。ところが、今年に入り中国特有の理不尽な家賃の値上げ攻勢に遭い、採算が合わなくなり、やむなく撤退したというのです。店舗の裏が公園になっている開放感のあるお店で、知人の上海人も「週に2回はパスタを食べにいっていたので残念」と言っていました。

 「ここ最近の上海の家賃上昇はちょっと尋常じゃありませんよ」と黒木さんは言います。
 「上海は家賃が高い」というのは、世界の投資家、ビジネスマンの常識ですが、夏以降から、どうも様子がおかしいというのです。
 「上海の不動産の価格はどう考えてもおかしい。完全にバブルですよね。こんなに割高であるにもかかわらず、これまでは不動産価格が値上がりしていたので、みんな喜んで不動産を買っていたわけです。でも、ここにきて、不動産価格が頭打ちになってきました。場所によっては値下がりしてきているところもあるんですよ」。

 中国はバブル経済を抑制するために、金融引き締めをおこなっており、不動産投資への融資に規制をしているので、不動産価格の上昇が止まるのは想定内というところですが、それによって起こっていることは、いかにも中国らしい現象です。
 「不動産はもう値上がりしない。それでは投資額が回収できないと、ようやく気が付いた不動産のオーナーたちが、夏以降、急激に家賃を値上げしてきているのです。我々には陳がいるおかげでそういった面で交渉力を持っているので、これまでなんとかやってこられていますが、多くの外国資本のレストランが、流行っているにも関わらず、店をたたまざるえない状況に追いやられているのです」。
 採算が取れないと逃げ出すほどの高い家賃でもまだ借り手がいるのが、上海の不動産オーナーを強気にさせている理由なのでしょう。

 11月17日の日経新聞は、「日本の対中投資熱、再び、1~10月65%増」と報じており、日本の対中投資が再びブームになっているそうです。今回の対中投資の特徴は、中国事業拡大に対する統括会社の立ち上げ、研究開発拠点、戦略立案拠点としての進出が増えていること。しかも、日本は円高、電力不足懸念などで、国内の投資環境が悪いことも、中国に目を向かせている要因だと言います。
 また、中国政府には金融緩和という技も残っており、厳しい不動産融資の規制を緩めれば、多少値段が下がった物件に興味を示す投資家も出てくるかもしれません。そうは言っても、資金繰りに苦しむ中国のデベロッパーやゼネコンが上海では急増しており、不動産が供給過剰であるのは間違いない事実なので、ニーズがあるうちはこのおかしな状況が続くのでしょうけれど、家賃と収益を計算して、「どうやっても上海では採算があわない」となれば、中国の都市は何も上海だけではないと、もっと投資効率の良い拠点を捜す企業も出てくるでしょう。そうなると、入居者を獲得するために、一転、不動産賃料は値下げ競争になることも予想されます。

 そうした不自然な上海の不動産事情で、もっともひどいのは賃貸住宅だと黒木さんは言います。
 「うちの従業員のマンションのオーナーなんか、ひどいですよ。5000元の家賃に1000元、2000元の値上げを平気で要求してきますからね」。
 80年代のバブル経済を体験した日本人にとっては、なんだか懐かしい感じがしますよね。
 上海もいよいよ極まって来たかな、と感じた今回の出張でした。




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