広岡 勲(ひろおか いさお)
ニューヨークヤンキース球団広報
報知新聞社のプロ野球記者(巨人軍担当)として長嶋監督番、松井秀喜番などを担当。2005年、松井選手に請われて、スポーツ紙記者から大リーグの球団広報へ転身。現在は、ニューヨーク・ヤンキース球団広報兼環太平洋担当。アジア圏の選手と地域も広くフォローしている。
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Vol. 5 『壁を乗り越える力-(2)』
(2009年10月01日)
9月28日、ヤンキースの地区優勝が決まった。
宿敵レッドソックスに1対2とリードされた6回2死二、三塁の場面だった。5番指名打者の松井秀喜選手は、カウント上では斎藤隆投手に追い込まれた形となったが、最終的には甘く入ったストレートを見逃さず、逆転の2点打となる右前適時打を放った。事実上の決勝打。松井選手が、ここ一番の大舞台で見せた打撃だった。
「今年のヤンキースは強くて当たり前」、「あれだけの大型補強をしたのだから勝って当然」という声がある。確かに、サイ・ヤング賞受賞のCC・サバシア投手(7年総額約146億円-投手としてはMLB史上最高額)、シルバースラッガー賞にゴールドグラブ賞受賞のマーク・テシェイラ内野手(8年総額約163億円)などの移籍組選手は、どのチームも喉から手が出るほど欲しかった選手に違いない。その証拠にヤンキースが彼らと交わした契約金も破格である。ただ、契約金額は移籍条件のトップにくる項目ではあるが、やはりそれだけでは名だたる選手を惹きつけるのは難しい。たとえば、MLBを代表する左腕のサバシア投手は、「優勝を狙えるチームに行きたかった」とはっきりと言っている。
「優勝を狙えるチーム」。これが我がヤンキースの代名詞である。
今シーズン、サバシアやテシェイラなどの新規移籍組選手の活躍もあって、"他の追随を許さないヤンキース"がよみがえった。従来の選手陣も新規組に劣らない活躍だった。それぞれが最高のパフォーマンスを存分に発揮したレギュラーシーズンだったといっても過言ではない。そして、その中の一人に松井選手を加えても異論は出ないだろう。
「優勝を狙える。勝って当然」と言われ続けることは有難いことだ。それだけすべてにおいて高いステージが用意されているのだから。しかし、いや、だからこそベストパフォーマーが居並ぶ強豪チームでは捨て去らねばならないものもある。それは、"私"である。キャプテンのジーター選手がそうであるように、チームの勝利のためには"私の感情"も"私の記録"も、二の次三の次と割り切れる強さと謙虚さが不可欠なのだ。
そこで
前号の、「...大きな身体的ストレスを背負ったままシーズンをこなすことへの折り合いをどこでつけているのだろうか。そのあたりが『壁を乗り越える力』のカギになるかもしれない。その考察は来月までの課題とさせていただこうと思う」の答えである。
巨人時代から松井選手を間近で見てきて最も感じることは、やはり、"我を捨てる"決意の迅速さと精神力の強さである。もちろん、「折り合い」のつけ方は、そのときどきで様々だ。とはいえ、巨人時代もそうだったのだが、ヤンキースのような「勝って当然」のチームに在籍する限りは、チームが勝つためには何をすべきなのか、何ができるのかだけを徹底して主眼に置くことが大切になってくる。
たとえば、10月1日時点、松井選手は28本塁打をマークしており、MLBでの自己最多31本越えを期待する声がたくさん寄せられている。それは本人も一番よくわかっていることではあるが、プレーオフ進出が決まった現時点では逆に難易度の高いものとなってしまった。チームの目標はワールドシリーズ制覇であり、そのためにはプレーオフまでは主力先発選手の調整の場とするのがセオリーだからだ。レギュラーシーズンも残り3試合を切った今、松井選手の打席数も調整されている。彼の気持ちもすでにワールドシリーズの打席に立つことに向いており、記録云々を口にすることは一切ない。
私のような凡人からすれば、多少なりとも未練がましい言葉が口をついて出ても仕方がないとは思うのだが、あの割り切りの速さには、「さすが、ここまで来た選手だけのことはある」と感心させられるのだ。
すべてはチームのために―。
それこそが松井選手の壁を乗り越える力の源泉だと思わずにはいられない。
(※日付はすべて日本時間)
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今シーズンもヤンキースへの、
松井秀喜選手への応援をいただき有難うございました。
おかげさまでプレーオフ進出も実りました。
引き続きワールドチャンピオンリング獲得を目指して、
選手スタッフ一同邁進してまいります。
皆様の更なるご声援をいただければ幸いです。
また、ここまでこのコラムをお読みいただきまして有難うございました。
末尾になりましたが、心より御礼申し上げます。
広岡 勲