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久保田 光彦のコラム「スポーツ中継の裏側」
久保田 光彦
久保田 光彦(くぼた みつひこ)
フリーアナウンサー

立教大学卒業後東京12チャンネル(現・テレビ東京)入社。スポーツ実況のアナウンサーとして活躍する。1993年にはFIFAワールドカップアジア最終予選、世間に言われるところの『ドーハの悲劇』を実況。2005年テレビ東京を退社しフリーランスに。

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Vol. 4 『スポーツ中継のいろは その4』
(2006年04月15日)

スポーツ実況とは、果たして何か。実況の本質とは・・・?

いきなり大上段に振りかぶってみたが、"実況"にも数学と同様に公理があると、私は思っている。公理については後述するが、実際にプロのアナウンサーが実況を行う上で、実況を構成するいくつかのファクターがある。さらには"実況"はアナウンサー個々によって形がさまざまに異なる、ファクターとは別の要素、アナウンサーの個性から形作られる口調・調子・節といったモノが、大きく関わってくる。

では、私・久保田光彦はどうなんだ・・・と言えば、私の場合"実況"は【リズムとスピード感】がキモであると考えている。それが私の個性であると考えている。そのことを踏まえた上で、5つのジャンルを紐解いてみたいと思います。

まずボールゲームの場合。ゲームの本質は、どの競技もボールをどうにかするということにある。当たり前じゃないかと言うかもしれないが、ここがポイントです。サッカーなら、ボールをゴールに入れる、野球ならボールを人のいないところに打ち返す、アメフトならボールをエンドゾーンに持ち込む。ここが実況のポイントになる。つまり、現在ボールがどうなっているか、を実況の中心に据えるのである。

今ボールはどこにあるか、誰が保持しているか、どのような状態にあるか。そこから次に、ではボールの無いところはどうなっているのか、どのようなシフトを敷いているのか、等に展開していく訳である。ただしボールゲームといっても様々で、ゴルフやボウリングなどは、相手と対面して同時に競う競技ではない。単独記録系競技に通じる要素を多分に含んでいる。これらの競技にとって重要なファクターは、メンタル(精神面)ということであるが、これは単独記録系のところでお話しましょう。

ボールを中心に実況すると、自然にそのスポーツ特有のリズムが出てくる。

バレーボールなら、『成田レシーブ! 竹下トスアップ!レフトから高橋がクロス!』これをボールの動きと同時に実況する。興味のある方は、テレビを見ながら試してみるといいでしょう。バレー独特のリズムが苦もなく口をついて出てくるはずである。

次にレース系競技であるが、レース実況の基本は誰が・どこを・何位で走っているか(滑っているか、泳いでいるか)ということに尽きる。そこに記録・タイムというファクターが絡んでくる。その記録・タイムの比較が、レース実況のポイントとなるのである。

記録・タイムは、他の競技者との比較もあり、過去の記録・タイムとの比較もある。もちろん記録・タイムは、途中のペース・ラップタイム等を含めた言葉でもある。具体的にいえば『先頭のラドクリフから遅れること20秒。今渋井が中間点を通過していきました!』ということ。つまり今の状況では、ペースはこうで、記録・タイムはどうなり、最終的に順位・記録はどうなる、したがってペースをこうしなければならない、といった予測・推測を実況の要所に散りばめて展開する。レース実況の基本構造は比較的単純であるが、それだけに、話の膨らませ方は難しい面もある。

次は格闘技について。格闘技は基本的には1対1の競技である。プロレス等の一部の例外を除いて、団体で争うことはない。柔道の団体戦などは、1対1の積み重ねで勝敗を決するのであり、アイスホッケーを氷上の格闘技と表現するのは、断るまでも無く比喩である。

格闘技の本質は、相手を倒すことである。ボクシングならボクシングの、柔道なら柔道の技を使って、相手を完膚なきまでに叩きのめす。判定は、スポーツの近代化に伴い、時間短縮や選手の健康管理などの、必要に迫られての妥協策である。

では格闘技実況のポイントは何かといえば、それは技の連呼であると答えることができる。具体例をだすと『徳山左のジャブを突く!ワンツー!右ストレートが決まった!左ボディーブローから、返しのパンチがヒット!』といった具合。技を言うことで、実況にリズムが生まれる。選手の数は基本的に2人、場所も狭い空間なので、必然的に実況は技の表現のパーセントが増える仕組みである。

残りの二つのジャンルは次回に譲るが、ここで最初に述べた実況の公理についてお話します。公理というと大袈裟だが、要は私にとっての実況哲学である。

実況とは、目の前の出来事を、見ている人・聞いている人に、分かりやすく正確に表現することである。

アナウンサーの仕事はすべてここから始まるといっても過言ではい・・・
と私は考えている訳で、このことについては、次回でも触れる機会があるでしょう。




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